CASES

解決事例

プロバイダ責任制限法施行規則5条の「侵害関連通信」についての裁判所の判断

当事務所で対応しておりましたX社(旧Twitter)に対する発信者情報開示命令申立事件において、本日、以下のような裁判所の決定が出されました。

発信者情報開示命申立事件においては、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)施行規則5条の「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」(侵害関連通信)とは、プロバイダが発信者情報開示請求を受けたときにその記録を保有している通信のうち、侵害情報の送信と最も時間的に近接するものをいうが、①侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信から発信者を特定することが困難であることが明らかであり、②侵害関連通信の範囲を限定することが法の趣旨に照らし適切でないと考えられる場合には、当該通信以外の通信も侵害関連通信に当たるというべきである、と判断されました。

前提事実

本件では、Twitterのログイン通信に係るIPアドレスが合計268件出てきたところ、争点となったログイン通信は、問題となった投稿が行われた日時を起点に早いものから数えて58番目のものであり、これが「侵害関連通信」に当たるのかを争いました。

(ア)本件においては、268件の通信のうち、A社管理の34件の通信に関しては開示請求を行ったものの、宿泊施設の契約回線を利用して行われており、不特定多数の宿泊客が利用する回線であり、投稿者個人が特定できませんでした。

(イ)そのうち、B社管理の22件の通信については、B社側で各通信を特定することが不可能である旨の回答を受けており、ここからも投稿者個人が特定できませんでした。

(ウ)そのうちC社管理の1件の通信については、C社から法人向けサービスに係るものであるとの回答を受け、このことから同通信に係るものは公衆用Wi-Fiなど不特定多数人に利用されていることが合理的に推認されたために、発信者個人を特定できませんでした。

裁判所の判断

以上のような経過から、当職らとしては問題となった投稿が行われた日時を起点に早いものから数えて58番目のものが「侵害関連通信」にあたると主張したところ、裁判所の判断として、プロバイダ責任制限法施行規則5条の「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」(侵害関連通信)とは、プロバイダが発信者情報開示請求を受けたときにその記録を保有している通信のうち、侵害情報の送信と最も時間的に近接するものをいうが、①侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信から発信者を特定することが困難であることが明らかであり、②侵害関連通信の範囲を限定することが法の趣旨に照らし適切でないと考えられる場合には、当該通信以外の通信も侵害関連通信に当たるというべきである、と判断されました。

その上で、本件においては、「本件ログイン通信(58番目の通信)は侵害情報である本件各投稿の送信と最も時間的に近接するものではないが、侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信を含め本件ログイン通信よりも前の本件各投稿とより近接する57件の各通信からは発信者を特定することが困難であることが明らかであり、侵害情報の送信とより近接する通信があることをもって侵害関連通信の範囲を限定することは法の趣旨に照らし適切ではないと考えられる。したがって、本件ログイン通信は、侵害情報の送信と相当の関連性を有するものであると認められ、侵害関連通信に当たると認められる。」と判断されました。

総評

この問題は、ツイッターのようなログイン型のSNSの仕組みにあります(ツイッターでは投稿時のIPアドレスはそもそも記録されておらず、ログイン時の接続元IPアドレスと接続先IPアドレスから通信を特定するしか方法がないため、開示請求においては問題となる投稿のされた日時の直近のIPアドレスのみが開示されるのが原則となっています。)。

そして、本件では、上記原則から導かれる直近のIPアドレスの開示は受けることはできたが、それが公衆Wi-Fi等であって投稿者を特定できなかった場合に、更に2番目、3番目と古いIPアドレスを開示していけるかということが問題となり、裁判所の判断としてはこれを肯定する判断となりました。

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