CASES

解決事例

振り込め詐欺被害に遭ったため、複数の振込先口座を仮に差し押さえた事例

事件の概要 ご依頼者は、投資を目的とするLINEグループに参加し、投資に関するアドバイスを受けていた。アドバイザーからの指南等に従い、株を購入したところ、ご依頼者含め他の参加者に利益が僅かであったが当初は出ていた。ある時、アドバイザーが投資計画を持ち出し、参加者が募られたので、ご依頼者は、手始めに参加費用500万円を指定された口座に振り込んだ。その後も、計画参加後はアドバイザーの「投資額が多ければ多いほど、利益が多く出る」という言葉を信じてしまい、数ヶ月にわたって、約1億円をその都度指定される口座に振り込んだ。その後、ご依頼者が参加の取りやめ、振り込んだお金の返金を求めたところ、解約するためにはさらにお金が必要と言われ、言われるまま解約に必要なお金として5000万円を支払った。しかし、返金はされなかったため、ご依頼者は詐欺被害に遭ったと思い、警察に相談するとともに、詐欺被害に関する法的アドバイスを求めるため当事務所に相談に至った。※プライバシー保護のため、内容の一部を加工しています。

裁判所の決定により複数の口座に対して仮に差し押さえた

弁護士の対応

今回のケースにおける被害額は、1億5000万円以上に及ぶ多大なものでした。

既にご依頼者からの要請に基づき、警察の方で、振り込んだ口座については凍結されているということでした。

その上で、ご依頼者としては少しでも取り返せるお金があるのであれば、という思いから、当弁護士に相談に至ったのですが、詐欺類型では、振り込んだお金は既に引き出されている可能性は十分に高いものでした。

ただ、被害に遭った後のご依頼者の迅速な行動により、振込先である10以上の口座が凍結されており、振り込め詐欺被害救済法により、後日預金保険機構によって権利消滅手続開始公告がなされる予定でした。

ご依頼者としては、救済法に基づく被害者全員での按分による分配を待つのではなく、なるべく多く取り返したい希望であり、上記公告がなされ口座残高が判明した時点で、残高の多い口座の全部または一部に対し、仮差押えをしたいというご意向をお持ちでした。

ご依頼後、当弁護士は、10以上の口座に対する権利消滅手続開始公告その他公告の開始時期を注視しながら、仮差押手続の準備を行いました。

まず、仮差押えを申し立てるにあたって、債務者の氏名と住所を把握することが必要でした。

これについては、弁護士会による23条照会によって当該金融機関に対し照会をかけ、口座情報から氏名住所を割り出すことができました(なお、その後転居している可能性もあったので、念のため、職務上請求により住民票も取り寄せました。)。

預金保険機構によって権利消滅手続開始公告がなされると、その口座の残高が判明します。この時点で、数千円や数万円しかない場合は、費用対効果の観点から、その口座に対する仮差押えは断念せざるを得ませんでした。

しかし、10以上ある口座のうち、複数口座に数百万円の残高があることが判明したため、速やかに管轄の裁判所に対し仮差押申立てをし、約1週間で仮差押決定となり、複数の口座を仮に差し押さえることができました。

 

弁護士から一言

民事保全手続きは迅速性が求められる手続です。

今回は、振り込め詐欺被害救済法との兼ね合いもあり、複数の被害者がいる場合もある中で、ポイントとなったのは次の2点です。

まず、債務者の住所の把握です。ここでいう債務者は詐欺師本人ではなく、口座名義人です。通常、詐欺被害に遭えば、振込先口座の情報として口座名義人(カタカナ表記)はわかります。

しかし、裁判手続となると、送達の関係上、口座名義人の住所は必要な情報として裁判所から必ず特定を要求されます。現行法の仕組みの下では、住所を把握する手段としては23条照会によるのが適切と言えるでしょう。

次に、振込先口座の全部を対象とするのか、一部とするのか、についてはご依頼者のご意向次第ではありますが、仮に差し押さえた後であっても、その後本案訴訟(民事訴訟)を起こさないと1円も回収できないこと、また本差押えをするには債務名義を経る必要があることを踏まえると、公告によって残高が判明した後、どの口座を対象とするかは、残高を踏まえて慎重に検討する必要があると思います。

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