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不同意性交等罪・不同意わいせつ罪で刑事告訴するときのポイント

はじめに

令和5年に刑法が改正され、従来の強制性交等罪及び準強制性交等罪は、不同意性交等罪への名称が変わりました。改正により、犯罪が成立するための要件(構成要件)が拡大された結果、以前の法律では罰することのできなかった行為も、不同意性交等罪で罰することが出来るようになりました。

そこで今回は、新たにどのような行為が犯罪として明確化されたのかの解説をいたします。

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♦ 性犯罪に関する規定が変わりました。

 

改正前の強制性交等罪・準強制性交等罪

従来の強制性交等罪は暴行・脅迫を要件とし、準強制性交等罪は被害者の心神喪失・抗拒不能(抵抗が著しく困難な状態)を要件としていました。

どちらの罪でも抗拒不能がポイントとなっていましたが、その基準は曖昧で、従前は、被害者は実際には恐怖のあまり何も抵抗できなかった、加害者からすれば被害者が何ら抵抗を示していなかったという理由で罪に問えないケースが多くありました。

 

改正後の不同意性交等罪・不同意わいせつ罪

そこで、法改正により、性的行為に「同意しない意思の形成・表明・全うすることが困難な状態にさせた、あるいはその状態であることに乗じたこと」という統一的な要件が加えられ、その状態のもとでわいせつな行為が行われた場合には不同意わいせつ罪、性交等を行った場合には不同意性交等罪が成立することとなりました。

 

「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態」とは

「同意しない意思を形成することが困難な状態」とは、性的行為をするかどうかを考えたり、決めたりするきっかけがなく、性的行為をしない、したくないという意思をもつこと自体が難しい状態をいいます。

これは不意打ちで性交を行ったケースが想定されており、例えば、ファッションヘルスで素股行為までしか女性が許容していないのに、男性客が女性の同意なくペニスを挿入した場合などです。

 

「同意しない意思を表明することが困難な状態」とは、性的行為をしない、したくないという意思をもつことはできたものの、それを外部に表明することが難しい状態をいいます。

例えば、直属の上司から性行為を求められ、拒否すれば今後の仕事に影響を及ぼすと考え、したくない意思を示すことができなかったなどです。

 

「同意しない意思を全うすることが困難な状態」とは、性的行為をしない、したくない意思を外部に表明することはできたものの、その意思のとおりになることが難しい状態をいいます。

例えば、「嫌だ」と言って、性的行為をしたくない意思を外部に表明したにもかかわらず、無理やり体を押さえつけられたとか、「嫌だ」と言えば止めると言われたから「嫌だ」と言ったのに止めてくれず性的行為が行われた、などは「同意しない意思を全うすることが困難な状態」にあったといえます。

 

そして、「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」になる原因となりうる8つの類型についても規定されています。

 

① 暴行又は脅迫

② 心身の障害

③ アルコール又は薬物の影響

④ 睡眠その他の意識不明瞭

⑤ 同意しない意思を形成・表明・全うする暇がない

⑥ 予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕

⑦ 虐待に起因する心理的反応

⑧ 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮

 

同意年齢の引き上げ

法改正により、同意年齢が16歳に引き上げられました。そのため、被害者が16歳未満のときは同意の有無に関係なく処罰対象となります。

もっとも、被害者の年齢が13歳未満の場合には同意の有無に関係なく処罰対象ですが、13歳以上16歳未満の場合については、被害者と加害者の年齢差が5歳に満たないときは同意があれば罪に問われません。そのため、被害者が16歳未満であっても罪にならないケースがあります。

これは、少年同士の性交渉の場合には若干規制を緩和したものです。

 

不同意性交等罪は言ったもん勝ちなのか?

被害者から「同意がなかった」と言い出したら、後出しじゃんけんみたいなものだ、言ったもん勝ちではないか、という意見もあると思います。

しかし、実際に加害者に刑事責任を追及する、具体的には起訴する、有罪判決を受けさせるためには、被害者の供述だけではほぼ不可能です。被害者の供述を客観的に裏付けるような証拠も必要になります。

例えば、酩酊状態であったため同意しない意思を形成することが困難な状態であったとすれば、飲食店の伝票データや防犯カメラ映像などの客観的証拠が必要になります。

また被害者の供述にしても、信用性の高低も大いに考慮されます。不同意性交等罪は密室で行われ、基本的に一対一になるケースがほとんどですので、被害者と加害者しかいない時間帯の被害者の供述が、その他客観的証拠と整合していれば信用性が高いと判断されるでしょう。不同意性交行為の被害に遭った後の被害者の行動も考慮されます。

そのため、被害に遭われたら、できるだけ早く、そして多く客観的証拠を集めることが、その後に繋がります。

「同意がなかった」と言うだけで必ず有罪になるとは言えませんが、泣き寝入りせず、被害届の提出や刑事告訴を諦めないでほしいと思います。

 

単なる悪ふざけでも罪に問えるか?

男性同士の悪ふざけであっても、同意しない意思の形成・表明・全うすることが困難な状態にあり、性交等にあたるような行為をされた場合には、不同意性交等罪が成立する可能性はあります。先ほど、13歳以上16歳未満の場合については、被害者と加害者の年齢差が5歳に満たないときは同意があれば罪に問われないとご紹介しましたが、考え方として、5歳未満だったら対等であるというものではありません。そのため、先輩後輩の関係といった5歳差未満の範囲内であっても、不同意性交等罪や不同意わいせつ罪が成立する可能性はあります。

なお、性交等については、性交、肛門性交(男性器又は性具を肛門へ挿入する性行為)、口腔性交(口や舌を使って相手の性器やその周辺を刺激する性行為)、膣や肛門に身体の一部(陰茎以外)や物を挿入する行為、とされています。

 

性犯罪の被害に遭われたら警察か弁護士に相談を

性被害に遭われ加害者に刑事責任を問いたいときは、できるだけ多くの証拠を収集しておくことが重要です。身体、衣服、持ち物などに加害者の毛髪や体液が残っている可能性がありますし、SNSなどのメッセージも有力な証拠となり得ます。その他防犯カメラの映像や被害後に医療機関を受診した際の診断書やカルテなども被害状況の把握のために必要となりますので、保存しておきましょう。

そして、なるべく早くに警察や弁護士に相談しましょう。

 

弁護士に刑事告訴を依頼する

不同意性交等罪は密室で行われるケースが多く、証拠を集めて警察に被害届を提出しようとしても、警察から「証拠が足りない」とか「同意があったのではないか」となかなか受理してもらえないことがあります。

そのようなときは弁護士に刑事告訴を依頼すれば受理される可能性が高くなります。

警察は刑事告訴を受理しなければならず、受理した後は捜査を開始しなければなりません。捜査が開始されると、一般の方では収集しにくい証拠の収集も可能となり、加害者に刑事責任を問える可能性がより高まります。

性犯罪の場合、加害者に法的責任を追及することは依然としてハードルは高いですが、だからといって泣き寝入りする必要はありません。不同意性交等罪の時効期間は15年ですので、できる限り多くの証拠を集め、早めに弁護士に相談しましょう。

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