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悪質スカウト・ホストクラブの手口~風営法の改正へ

はじめに

悪質なホストクラブにおける、酩酊した女性客に高額な注文をさせたり、高額な料金を請求し、女性客が支払えない際は売掛金(ツケ)を負わせ、その支払いのために売春などを強要する、いわゆる売掛金問題は社会問題化しています。

さらに、売掛金問題のみならず、ホストやスカウトマンが、女性を性風俗店に紹介した対価として、風俗店から紹介者に支払われるスカウト料を(スカウトバック)も問題になっています。

こうした問題を受け、警察庁の有識者検討会は、令和6年12月に最終報告書をまとめ、警察庁は今後この報告書を基に風営法の改正に取り組む、との報道がありました。

 

当事務所での相談例

ここでは、当事務所で扱った悪質ホストクラブに関する解決事例の一つを、プライバシーのため内容を一部加工した上でご紹介します。

ご依頼者は、ホストクラブに行った際に、担当のホストに対して事前に予算を提示し、予算内で遊びたいと伝え、ホストも了解していました。しかし、実際に飲み始めると、ホストは依頼者の意向を無視して勝手にシャンパン数本を注文しました。依頼者はその場で「注文したくない」と断ったものの、無理やりボトルを開栓され、会計で店舗から飲食代として約400万円の請求を受けました。

このように、悪質ホストクラブで飲食・飲酒した女性が自己の意思に反して多額の負債を負わされるだけでなく、その支払いのために風俗店を紹介するスカウトを紹介され、売春などをさせられそうになっている、あるいは実際にさせられたという相談は、ご紹介した相談以外にも多く当事務所に寄せられています。

 

 

 

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では、こうした問題を受け、有識者検討会ではどのようなことが議論され、今後どのような点を中心に風営法が改正されるのか、について以下でご紹介します(参考元:警察庁悪質ホストクラブ対策検討会「悪質ホストクラブ対策に関する報告書」)。

 

売掛金、立替金等発生の防止

冒頭でもお伝えした通り、悪質ホストクラブでは、社会経験が乏しい女性客や女性客の恋愛感情に乗じて、高額な注文をさせ、売掛金制度を利用することで、多額の借金を負わせることが社会問題となっています。

この点で、別のコラムでもご紹介済みですが、令和5年12月5日に新宿区と主要ホストクラブが話し合いをし、業界内の自主的ルールとして売掛金制度を廃止することになりました。しかし、あくまで自主ルールであって、売掛金自体は現在なお違法なものではありませんし、実際、今も売掛金制度を採用するホストクラブはあります。

こうした一部の悪質ホストクラブによる客の意思に反した売掛金又は立替金(呼称は違えど中身は同じ)に対しては、多額の負債を負わせた女性客を売春や風俗店に働かせれば回収できると踏んで売掛金にさせていること、また言葉巧みに女性客の恋愛感情を利用して多額の負債を負わせていることなどの悪質性が議論されました。

これを受けて、売掛金又は立替金を防止するための規制としては、以下の内容が検討されました。

  • 女性客に対する料金等の虚偽説明の規制
  • 恋愛感情につけこんで女性客を高額な飲食代を負わせることの規制
  • 女性客が正常な判断ができない状態で高額な注文をさせることなどの規制

規制されて然るべき当然のことばかりだと思われるのはもっともです。ただし、どのような行為が恋愛感情につけこんだ行為になるのか、客が正常な判断ができない状態とはどの程度を指すのかなど規制の範囲がいまだ不明確であるため、今後の風営法改正案の詳細が明らかになると思われます。現行法でも消費者契約法における「デート商法」の規制として恋愛感情に乗じた商法については規制がありますが、非常に適用場面が限定的となっており、実務上使える場面はあまり多くないのが現実です。

 

売掛金、立替金の悪質な取立ての防止

ホストが売掛金を請求しても、女性客が支払えない場合、ホストからの紹介により売春や風俗店、アダルトビデオへの出演などで働き、そこで得た収入から返済するよう迫るケースがあります。

さらに悪質なホストは、旧知の性風俗スカウトマンに女性客をあっせんすることもあり、スカウトを通じて女性客が得る収入額を把握し、更にいくら新規に債務を負わせることができるかを常に把握しながら、売掛金をまた発生させるというケースもあります。

また女性客がホストから逃げられないよう、女性客の家族構成や実家の住所などを聞き、売掛金を支払えなかったり、逃げようとしたら実家に行くと脅迫を受けることもあります。

こうした売掛金の取立方法も売掛金問題の一つとして挙げられており、取立てに関する行為規制についても今後の改正風営法案に盛り込まれるでしょう。

 

スカウトバッグに関する規制

先ほども触れましたが、ホストやスカウトマンが女性客を風俗店に紹介し勤務が開始された際に、風俗店から紹介者に対して紹介に係る対価を得る、いわゆるスカウトバックについても問題となっています。

この対価については、およそ女性の売上の10-20%ほどの金額を、本来女性が得るべき給与から天引した上で、女性が当該店舗で働き続ける限り永久的に紹介者に支払われ続けるのが通常です。スカウトとしては女性が風俗店を辞めないよう精神的にケアを行ったり、相談に乗ったりして仲の良い相談役的な立ち回りをしていることが多いです。ホストとしても女性が風俗店で働き続け、自身に金を落とし続けてほしいので、スカウトとホストの利害関係は一致します

これも、悪循環の構造的な要因となっています。

これについてもホストに対してというよりは、性風俗店を営む者に対し、スカウトに紹介に係る対価(スカウトバック)を支払うことを規制する必要があります。

 

【近時の判例】スカウトバックは犯罪収益と認定

スカウトバックに関して、令和6年12月19日、東京地方裁判所はスカウトバックを初めて組織犯罪処罰法上の「犯罪収益」と認定し、犯罪収益等収受としてスカウト及び共謀していたホストに対し有罪判決を下しました(あくまでも現状は第一審の判断ではありますが、同種事案で初めて犯罪収益等収受罪が適用された意義は大きい。)

一部報道に基づく事案の概要は、2人のホストがスカウトと共謀し、ホストの客となった女性を風俗店に紹介し、女性の給料3ヶ月分の15%にあたる金銭をスカウトバックとして受け取っていた、というものです。

組織犯罪処罰法上、情を知って、犯罪収益等を収受した者は、7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこの両方に処罰され(組織犯罪処罰法11条)、ここでいう「犯罪収益等」とは、①犯罪収益、②犯罪収益に由来する財産、又は③①②の財産とそれ以外の財産を混和した財産とされています(組織犯罪処罰法2条4項)。

 

「犯罪収益」についても組織犯罪処罰法上定義付けされており、財産上の不正な利益を得る目的で犯した一定の罪の犯罪行為により生じ、若しくは当該犯罪行為により得た財産又は当該犯罪行為の報酬として得た財産とされ、一定の罪には売春防止法で禁止される周旋(あっせん)も含まれています(組織犯罪処罰法2条2項1号)。

 

 

罰則の強化

現状の風営法では、最も重い法定刑で、無許可営業等をした場合に2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金、又はこの両方とされ(風営法49条)、両罰規定として法人にも同じ法定刑(上限200万円の罰金)で処罰されることになっています。

しかし、上限200万円の罰金は、数百万円から数十億円の売上をあげるホストクラブに対しては抑止効果とはなり得ないと考えられ、大幅に引き上げる方針を示しています。一部報道によると、具体的には、経営者個人に対し5年以下の拘禁若しくは1000万円以下の罰金、法人に対しても上限3億円の罰金を科す方針とのことです。

最後に

売掛金問題が社会問題となっていることを受けて、司法もスカウトバックを犯罪収益と認定しました。

今後売掛金やスカウトバックに関する規制が加わる予定の風営法が改正されることになります。ただし、具体的にどのような行為に対し規制が及ぶのかなど改正法案については現状リリースされておらず、続報があり次第また追記したいと思います。

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