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カンニングと偽計業務妨害罪

はじめに

今日もどこかで、何かの試験が行われているかと思います。

そして、とても残念ではありますが、試験でカンニングが行われたというニュースを聞くのも少なくはありません。

スマートフォンなどの電子機器が普及・発達していく中で、カンニングの手口も巧妙化しています。

例えば、数年前に行われた大学入学共通テストでは、受験者が上着に隠したスマホを使って、問題を試験中に撮影し、それを外部に送り、外部の者が解答したとして偽計業務妨害の容疑で書類送検したニュースがありました。

また最近でも大学入試中に眼鏡型のいわゆるスマートカメラと呼ばれるもので動画撮影し外部に送ったとして偽計業務妨害罪で起訴され、有罪判決を受けたというニュースもありました。

警察はこうしたカンニング行為に対して偽計業務妨害罪(刑法233条)で立件しています。

もしかしたら、詐欺罪では?と思われている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、詐欺罪は、人をだまして、財物や財産上の利益を奪った場合に成立する犯罪であって、カンニングをして不正に高得点を取ったとしても、財物を奪ったわけではないので、詐欺罪は成立しないのです。

では、なぜカンニング行為が偽計業務妨害罪にあたるのでしょうか。

 

今回は偽計業務妨害罪の概要から、カンニング行為を中心にご紹介したいと思います。

なお、業務妨害の被害を受け刑事告訴を検討されている方は過去のコラムでご紹介しています。

 

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♦ 業務妨害罪で刑事告訴をしたいとき

 

偽計業務妨害罪(刑法233条後段)

偽計業務妨害罪とは、業務妨害罪の一種で、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の業務を妨害した行為について適用される犯罪です。これに違反した場合、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。つまり、妨害の手段として、虚偽の風説の流布・偽計・威力が用いられるということです。

今回はカンニング行為との関係でご紹介するため、詳細は割愛しますが、「虚偽の風説の流布」とは、客観的真実に反する噂・情報を不特定または多数人に伝播させることをいいます。平たく言いますと虚偽の情報をSNSなどに流す行為ということです。また「威力」を用いて人の業務を妨害した場合は、威力業務妨害罪(刑法234条)に当たる可能性があります。

 

カンニング行為は偽計になるの?

偽計」とは、人を欺罔し、または人の不知、錯誤を利用することをいいます。人に向けられた偽計でなくてもよいとされており、業務の円滑な実施を妨げる程度の手段で足りるとされています。

 

判例では、飲食店に無言電話を架けつづけた嫌がらせ電話の事例で、偽計とは「社会生活上受容できる限度を越え不当に相手方を困惑させるような手段術策を用いる場合も含む」としています。

 

さて、一昔前のカンニングであれば、前後左右の席に座る他の受験者の解答用紙を見るというものでしたが、冒頭でもご紹介しましたとおり、スマホやマイクロカメラでなどを用いてカンニングをすれば、受験上のルールを守らずに受験に臨むことになりますので、試験官または試験を運営する団体を騙したとして、偽計にあたることになります。

 

カンニング行為がバレなければ「業務を妨害した」とはならない?

では、カンニング行為が「偽計」にあたるとして、それが「業務を妨害した」といえなければ偽計業務妨害罪が成立しないといえるでしょうか。

業務を妨害した」とは、妨害の結果発生は不要であり、業務を妨害するに足りる行為が行われればよいとされています(これを法律用語で「抽象的危険犯」といいます。)。

つまり、カンニング行為によって、受験業務を全般的に混乱させ、再試験の実施が必要な事態を招いたとか、試験官などに不必要な調査を行わせたというような場合は、円滑な業務の遂行を妨害したことになり、カンニング行為は偽計業務妨害罪にあたると考えられています(そもそもカンニング行為を禁じる法令はありません。)。

 

回答者にも犯罪は成立するのか?

少し本論から話がずれますが、カンニング行為との関係について、触れておきます。それは、送られた問題を回答した者は何か罪に問われるのか、ということです。

結論から言いますと、受験者と共謀してカンニングをしたような場合は偽計業務妨害罪の共同正犯になる可能性はありますが、カンニング行為について何も事情を知らなかったのであれば起訴される可能性は低いでしょう(勿論警察による取調べを受けることにはなります。)。事前に、「こういう方法で試験中に問題文を送るから、回答して。」と協力金を受領していたり、送信されてくる問題文がカンニングによって入手されたデータだと知りつつ行った場合には、共犯として罰せられる可能性が高いです。

 

替え玉受験は?

試験での不正行為の一つに替え玉受験がありますが、替え玉受験の場合、偽計業務妨害罪とは別の刑罰が科せられることがあります。替え玉受験は、偽計業務妨害罪のみならず、受験者でない者が受験者の名で文書(答案)を作成し、提出するものですので、私文書偽造罪・同行使罪(刑法159条及び161条1項)が成立する可能性があります。

答案用紙が私文書にあたるの?と思われるかもしれませんが、最高裁が、入学選抜試験の答案は、「それが採点されて、その結果が志願者の学力を示す資料となり、これを基に合否の判定が行われ、合格の判定を受けた志願者が入学を許可されるのであるから、志願者の学力の証明に関するものである」と判示しています。

また現在はウェブで行われる試験もありますが、このような試験で替え玉受験をした場合、電磁的記録不正作出及び共用罪(刑法161条の2第1項)が成立する可能性があります。

 

最後に

今回はカンニングによる刑法犯についてご紹介しました。

ほとんどの受験者は、毎日猛勉強をされて、当日の試験に臨んでいると思います。

カンニングをしてそれを指摘されれば、無効解答の扱いとなり、点数はゼロになります。試験当日まで精一杯勉強して、不安や心配もありながら、試験に臨んだとしても、カンニングをすれば勉強のために過ごした時間を自ら否定することになります。「来年受ければいいや。」と思うかもしれませんが、カンニングを行えば、試験運営団体によっては受験資格をはく奪されるところもあります。

カンニングをして良い点取った(合格した)としても、罪悪感は残り続けるでしょう。

自信をもって試験に臨むことを願っています。

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