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ホストクラブの売掛金問題と風俗営業の許可取消し

はじめに

新宿区歌舞伎町のホストが売掛金を回収するため女性客を風俗店で働かせたとして逮捕された事件で、東京都公安委員会はホストが勤務するホストクラブに対し、風俗営業の許可取消処分をした、という報道がありました。

営業許可取消処分は風営法の規制の中でも最も重い処分であり、当局側が上記行為を非常に重く見ていることが伺えます。

 

今回は、都公安委員会がどのような理由で許可取消処分をしたのかご説明したいと思います。

 

風俗営業の許可取消し

風俗店などの営業を行うにあたってはさまざまな規制がありますが、最も基本的なことといえるのが、「風俗営業の許可」です。

風俗営業の許可は、一度許可を受ければ永久的に営業資格が与えられるものではなく、一定の場合に公安委員会から許可を取り消す処分が下されることがあります

一定の場合とは、具体的には、以下のような場合をいいます。

 

第8条(許可の取消し)

公安委員会は、第3条1項の許可を受けた者について、次の各号に掲げるいずれかの事実が判明したときは、その許可を取り消すことができる。

① 偽りその他不正の手段により当該許可又は承認を受けたこと。

② 第4条第1項各号に掲げる者のいずれかに該当していること。

③ 正当な事由がないのに、当該許可を受けてから6月以内に営業を開始せず、又は引き続き6月以上営業を休止し、現に営んでいないこと。

④ 3月以上所在不明であること。

※第3条第1項は風俗営業を営もうとする者は公安委員会から許可を受けなければならない旨、第4条第1項は許可を受けようとする者の基準に関する規定です。

 

第26条(営業の停止等)

1 公安委員会は、風俗営業若しくはその代理人等が、当該営業に関し法令若しくはこの法律に基づく条例の規定に違反した場合において著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるとき、又は風俗営業者がこの法律に基づく処分若しくは第3条第2項の規定に基づき付された条件に違反したときは、当該風俗営業者に対し、当該風俗営業の許可を取り消し、又は6月を超えない範囲内で期間を定めて当該風俗営業の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。

 

つまり、

① 偽りその他不正な手段で風俗営業の許可を受けた場合

② 許可を受けたものの、その後に許可を受けてはならない者に該当した場合

③ 6か月以上営業をしていない又は6か月以上休止状態で今も営業していない場合

④ 許可を受けた者が3か月以上所在不明である場合

⑤ 重大な法令違反があった場合

⑥ 風営法に基づく処分に従わなかった又は許可条件を守らなかった場合

これらいずれかに該当した場合、風俗営業の許可が取り消しになる可能性があります。

 

ホストの売掛金問題と営業許可の取消し

さて、冒頭でご紹介しましたホストの売掛金問題と風俗営業の許可の関係性について、まずはホストクラブの売掛金問題の概要などからご説明します。

 

ホストの売掛金問題

ホストクラブでは、お客の飲食代金をその日に回収せず、後払い(いわゆる、「ツケ」)にすることがよくあります。この後払いのことを「売掛け」と言います。単に「掛け」とも呼びます。ホストクラブの場合、1日で飲食代金が数十万円から数百万円に及ぶこともあるため、月に何度も来店する常連客に対しては、担当ホストの判断で、その日の実費精算ではなく後払いを許可し、毎月の締め日までにまとめて精算してもらうこともあるのです。お店にもよりますが、売掛けという制度は、ホストと客との間でのお金の貸し借りという考えで成り立っています。つまり、毎月の締め日までにホストがお客から売掛金を回収できなかった場合は、基本的にお店はホストの給料から天引きし、回収します。

そうすると、ホストにとっては自分の生活が苦しくなることになりますので、何としてでも売掛金の回収を行うことになります。お客が何百万円という額を実際にホストに支払えれば問題はないのですが、実際には支払いが出来なかったりするケースもあります。

悪質なホスト又はホストクラブは、支払わない女性客の売掛金を回収するため、風俗での仕事や路上での売春行為を強要するなどのケースがあり、これがいわゆるホストの売掛金問題と呼ばれる一つとして昨今社会問題となっています。

 

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ホストクラブの売掛金に起因する行為は重大な法令違反の可能性も

悪質なホスト又はホストクラブによる、利用料金を女性から返済させるために、女性客を売春させたり、性風俗などの業務を紹介することは、売春防止法職業安定法で禁止されています。

こうした違法行為は、「当該営業に関し法令若しくはこの法律に基づく条例の規定に違反した場合において著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるとき」(風営法26条1項)に該当する可能性があり、先ほどご紹介した風俗営業許可の取消事由になり得ます。

今回の報道は、売掛金に起因するホストの行為が、風営法上の重大な法令違反にあたると判断されたため、(かつ、店舗側もホストの当該行為を認識・認容していたとおそらく判断されたために)、東京都公安委員会がホストクラブに対し、風俗営業の許可を取り消したものと思われます。

 

まとめ

ホストの売掛金問題は、令和6年4月から売掛金による支払いを廃止する方針を新宿区と主要ホストクラブが明らかにしていますが、店舗によっては、今回の報道のように、まだまだ売掛金に起因した違反行為は横行しています。

最近では売掛金回収のために風俗などのスカウトグループが客の女性を海外へ斡旋し、海外で外国人の客を相手にするような手法も問題化してきています。

したがって、そもそもホストクラブを利用する際には、自己の支払えるお金の範囲内で遊ぶことを心掛け、もし万が一風俗などの業務を強制されそうになったら、すぐに警察や弁護士に相談してください。

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