ホストと組織犯罪処罰法の「犯罪収益」
以前の報道で、「頂き女子」が逮捕された報道と同時に、「頂き女子」から金銭を受け取ったとしてホストクラブの責任者やホストが、組織犯罪処罰法で逮捕されたという報道がありました。
組織犯罪処罰法は、聞き慣れない言葉かもしれませんが、主に暴力団やテロ組織などの反社会的団体などによる組織的な犯罪に対処するために制定されたものです。
今回、ホストクラブの責任者やホストが組織犯罪処罰法で逮捕された、ということですが、なぜ、一般には反社会的団体とはいえないホストクラブ及びホストが組織犯罪処罰法で逮捕されるに至ったのか、についてご紹介したいと思います。 |
組織犯罪処罰法
組織犯罪処罰法とは、正しくは「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」と言います。
組織犯罪処罰法で規定していることは、主に一定の組織的犯罪を行った場合には刑が過重されること、犯罪組織へのマネーロンダリングを防止していること、組織的犯罪によって得た収益を没収・追徴すること、です。
組織的犯罪ということなので、処罰対象となる団体は、暴力団や特殊詐欺集団、悪徳商法集団になりますが、特別な肩書がなくても、例えば地元の不良仲間で結成されたグループで恐喝行為をしていた場合も処罰の対象となる団体(組織)になります。
また「犯罪収益」に関しては、組織犯罪処罰法上、財産上の不正な利益を図る目的で犯した死刑又は無期若しくは長期4年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪の犯罪行為により生じ、若しくは当該犯罪行為により得た又は当該犯罪行為の報酬として得た財産とされています(組織犯罪処罰法2条2項1号)。
詐欺行為によって得た財産は「犯罪収益」
今回、「頂き女子」は詐欺行為によって複数の男性から金銭を受け取ったものであって、詐欺罪に問われています。
詐欺罪は、その法定刑が10年以下の懲役で、「長期4年以上の懲役」となりますので、「頂き女子」が複数の男性から得た金銭は、組織犯罪処罰法の「犯罪収益」に該当することになります。
なぜホストとホストクラブの責任者が逮捕されたのか
組織犯罪処罰法上、「情を知って、犯罪収益等を収受した者は、7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」とあります(組織犯罪処罰法11条本文)。
ホストは、「頂き女子」から詐欺によって得られた金銭であることを知りながら、「頂き女子」がホストクラブの掛けとしていた売掛金を複数回にわたって受け取ったとされています。またSNSのやり取りなどから犯罪収益であることを認識していたという点も今回の逮捕に至った要因の一つとされています。
ここで重要なのは、犯罪組織に所属していなくても、詐欺等犯罪行為によって得たことを知って金銭を得たら、誰でも処罰の対象になり得るということです。 |
組織犯罪処罰法では、「団体」について、「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。)により反復して行われるものをいう。」としています(組織犯罪処罰法2条1項)。
先ほどもお伝えしました通り、組織犯罪処罰法は、暴力団や特殊詐欺集団に対する規制であるため、今回ホストクラブが組織犯罪処罰法の「団体」とされ、同法で責任者が逮捕されたことはとても珍しいケースといえます。
また近年社会的な問題となっているホスト又はホストクラブへの売掛金問題も、少なからず今回の逮捕の追い風になったのではないかと思います。
なお、組織犯罪処罰法には両罰規定がありますので(法17条)、ホストが情を知って、犯罪収益を収受したため、ホストの他、ホストクラブに対しても同様の罰金刑が科されます(ただし、両罰規定を法人に適用し罰するためには、法人の故意・過失が必要と解されています(最高裁昭和32年11月27日判決)。
最後に
組織犯罪処罰法は、一見すると暴力団がらみや特殊詐欺関係とお思いかもしれませんが、原則として、今回のように犯罪行為によって得られた金銭であるという事情を知りながら、それを受け取った場合は、誰でも処罰対象とありますので、注意が必要です。