痴漢行為でも不同意性交の罪に問われる?
最近、電車内での痴漢行為で、初犯の痴漢行為に対して、懲役4年の実刑判決が下されました。
これは、従前ではほとんど考えられないほど重い判決であり、去年の刑法改正が影響しています。
令和5年7月の刑法改正により、強制性交等罪と準強制性交等罪が統合され、不同意性交等罪に名称が変更されました。
この記事では、不同意性交等罪の構成要件を挙げつつ、痴漢行為でも不同意性交等罪に問われるのか、また多様化する痴漢行為について、どのような罪に問われるのか解説します。
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♦ 性犯罪に関する規定が変わりました。 |
不同意性交等の罪(刑法177条1項)
前条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部若しくは物を挿入する行為であってわいせつなものをした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑に処する。
前条とは176条(不同意わいせつ罪)のことを指します。
つまり、刑法176条1項各号に掲げる行為又は事由によって、被害者に同意しない意思を形成等させ、これに乗じて、性交等わいせつなものをした者は、5年以上の有期拘禁刑に処せられる可能性があります。
この罪が成立するためには、176条1項各号に掲げる行為又は事由によることの他に、①同意しない意思を形成等させ、②性交等(わいせつなもの)をすることが必要です。
【参考条文】 不同意わいせつ(刑法176条) |
次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、6月以上10年以下の拘禁刑に処する。
1 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと 2 心身の障害を生じさせること又はそれがあること 3 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること 4 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること 5 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと 6 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること 7 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること 8 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること |
性交とは
条文上、同意しない意思の形成等が先にありますが、どういう行為が性交等にあたるのかをまずは解説します。
一般的に、性交とは、男性性器(陰茎)を女性性器(膣)に挿入する行為をいいます。
肛門性交とは肛門内に陰茎を挿入する行為をいい、口腔性交とは口腔内に陰茎を挿入する行為をいいます。性交、肛門性交、口腔性交は、行為者が自己または第三者の陰茎を被害者の膣内、肛門内、口腔内に挿入する行為のみならず、自己または第三者の膣内、肛門内、口腔内に被害者の陰茎を挿入する行為も含まれます。
ここで注意が必要なのが、性交は、男性器を女性器に挿入することという定義付けされているわけではなく、加害者と被害者がともに男性あるいは女性ということは十分にあり得ます。
これらの他に、膣若しくは肛門に身体の一部若しくは物を挿入する行為も対象となります。
「身体の一部若しくは物」については、端的に言いますと、男性器以外の挿入も対象となります。例えば、指、舌といったものから、錠剤といった陰茎とは異なる形状のものも含まれます。
なお、口腔に対する身体・物の挿入は対象とはなりませんが、不同意わいせつ罪(刑法176条)が成立する可能性があります。
わいせつなものとは
判例によると、わいせつとは、「いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」をいいます(最判昭和26年5月10日)。
わいせつの内容は、現代社会において性風俗や価値観が多様化していることに鑑み、時代によって変化するものではありますが、基本的には陰部の露出や性交等行為を公共の場で行う行為はわいせつに該当すると考えられます。
わいせつな行為と認められたものとしては、過去の裁判例から、女児の乳部を撫でまわし、スカートの中に手を差し入れて、パンツの上から臀部を撫でた行為、膝の上に馬乗りになって女の陰部をスカートの上から強く押し撫でた行為、少年の肛門に異物を挿入した行為、無理やりキスをする行為、婦女を無理やり裸にして写真撮影をする行為、男女に性交を強要する行為があります。
なお、最大判平成29年11月29日によれば、わいせつな行為の判断構造は、行為に法的性質があるか否か、行為に性的意味があるか否か(それが明確な場合は性的な意味があるとし、不明確な場合は具体的状況等を考慮して判断)、行為に可罰的違法性(犯罪が成立するためには何らかの意味で違法であるというだけでは足りず、刑罰を科すに値する程度の実質的な違法性をも備えていなければならない考え方)があるか否か、というものがあります。 |
同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態
同意しない意思を形成することが困難な状態とは、性的行為をするかどうかを考えたり、決めたりするきっかけや能力が不足していて、性的行為をしない、したくないという意思を持つこと自体が難しい状態をいいます。
平たく言いますと、相手が嫌だと思うことすらできない状態をいいます。
例えば、女性がアルコール摂取によって酩酊状態で意識がはっきりしない状態(形成困難な状態)にあるにもかかわらず、性交等に及んだ場合などです。他にも、被害者において、いきなり行為をされ判断する余地がなかった場合、虐待が原因でそもそも同意しないという考え自体がない場合、思わぬ現実に直面してフリーズ状態にあった場合などもこれにあてはまります。
同意しない意思を表明することが困難な状態とは、性的行為をしない、したくないという意思を持つことはできたものの、それを外部に表明することが難しい状態をいいます。
簡単に言いますと、嫌と言ったりすることが難しい状態です。
例えば、加害者が上司、被害者がその部下であったとして、社会的地位を利用して、「性交等をしないと仕事を回さない」などと言い(表明困難な状態)、性交等に及んだ場合などです。他にも、教師と生徒、コーチとアスリートという関係性も含まれます。
同意しない意思を全うすることが困難な状態とは、性的行為をしない、したくないという意思を外部に表すことはできたものの、その通りになることが難しい状態をいいいます。
例えば、性的行為をしたくなく「嫌だ」と言われたにもかかわらず、押さえつけてそれ以上抵抗できる状態にさせなかった場合などがこれにあてはまります。他にも、ナイフを突きつけて性行為を迫り、性交等をした場合など行為者が無理矢理に性交等に及んだというケースもあり得ます。
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♦ 不同意性交等罪・不同意わいせつ罪で刑事告訴するときのポイント |
不同意性交等罪及び不同意わいせつ罪の成否は、被害者の同意があったか否かで左右されます。性行為に対する被害者の同意の有無は、性行為がなされた当時の状況に加え、その前後における行為者と被害者のやり取りの内容や行動など総合的に考慮して判断されるでしょう。 |
痴漢も不同意性交罪に問われる可能性がある?
ここまで不同意性交罪に関して、概括的に紹介しましたが、電車内で痴漢行為をした場合、不同意性交罪に問われるでしょうか。
例えば、痴漢行為が指を膣に挿入したというものであった場合、指を膣に挿入した行為は「膣に身体の一部を挿入する行為」(性交等)であって、こうした行為が電車という公共の場で行われたのであれば「わいせつなもの」といえるでしょう。
そして、被害者自身はまさか電車内で痴漢行為をされるなんて思っていないでしょうし、それが現実に直面したことで恐怖や驚愕することでしょう。そうすると、被害者において、性的行為につき同意しない意思を形成または表明することが困難な状態に陥り、痴漢行為者はこうした被害者の状態に乗じて、痴漢行為をしたといえる場合、不同意性交等罪(刑法177条)に問われ、5年以上の有期拘禁刑となる可能性があります。
不同意性交等罪に問われなくても、不同意わいせつ罪や迷惑防止条例違反に問われる可能性は十分にあります。
【まとめ】
以前は、下着の中にまで手指を入れて性器を弄ぶ行為は強制わいせつ罪、単に服の上から体を触る痴漢行為については迷惑防止条例違反で処罰されるのが通常でした。
しかし、昨年の刑法改正により、痴漢行為の態様によって、痴漢の中でも相当重いといえる下着内に手を入れ性器に手指を挿入するといった行為については不同意性交罪に問うことが出来るようになりました。
そうなると、前科前歴が一切ない初犯であっても、一発で実刑となって刑務所に行くような事案が今後ますます増えてくると思います。
更に最近では、集団で痴漢行為を行い、痴漢している場面を撮影するなどの事案も多く、そのような場合には更に性的姿態撮影罪にも問われる可能性もあり、より重い判決が見込まれます。
痴漢行為は多様化しており、一概に痴漢行為の全てが不同意性交等罪に問われるわけではありませんが、例えば、背後から密着し性器を押し付ける行為も痴漢行為であり、不同意わいせつ罪や迷惑防止条例違反に問われる可能性があります。また「触らない痴漢」として、卑猥な言葉を耳元でつぶやく行為、髪の臭いを嗅ぐ行為、iPhoneのAirDrop機能を利用して性的画像を送る行為も迷惑防止条例違反やわいせつ物頒布罪(刑法175条後段)にあたる可能性がありますが、最終的にどの罪に問われるかはケースバイケースで判断されます。 |
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