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発信者情報開示請求におけるログの保存期間と法的な時効

はじめに

ここ数年、SNSが発達したことにより、SNS上での誹謗中傷の被害を受けたとの相談も格段に増加し、投稿者に対する発信者情報開示請求のご依頼も非常に多くなっています。

当事務所でも、多くの相談が寄せられているところです。

しかし、中には、ログ保存期間の問題や時効によって発信者情報開示請求ができないケースも頻繁にあるのが実情です。

 

今回は、発信者情報開示請求が技術的、または法的な時効があることについてご紹介したいと思います。

 

発信者情報開示請求の流れ(投稿者が特定されるまで)

まずは、発信者情報開示請求の流れについて確認しますと、①誹謗中傷の投稿がなされた掲示板やサイトの管理者に対して、裁判手続によって投稿者(加害者)が使用したIPアドレスを開示してもらいます。②次に、開示されたIPアドレスを保有するプロバイダ(NTTやKDDIなど)に対し、裁判手続によってIPアドレスを使用した契約者の氏名や住所などの情報を開示してもらいます。

このように、一般的には、二段階の手続を踏んで、発信者情報の開示を受けます。

またこうした二段階の手続が煩雑であったため、法改正がなされ、新制度として二段階の手続をまとめてできる発信者情報開示命令の手続によっても発信者の情報開示を受けることができます(現在、旧制度と新制度が併存しており、いずれの方法によることも出来ますが、いずれの制度も一長一短ですので、当事務所では投稿先掲示板がどこかによって方法を変えて対応しています。)。

 

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投稿者が特定されるまでの大まかに要する時間

発信者情報開示を裁判手続によって請求した場合、請求後直ちに情報が開示されるわけではありません。

あくまで、大まかな時間ですが、掲示板やサイト管理者からIPアドレスの開示を受けるまで1か月から3か月、IPアドレスの開示を受けてから契約者の氏名や住所の開示を受けるまでが3か月から6か月、となります。

したがいまして、発信者情報開示請求手続に着手してから最終的に投稿者を特定できるまで、およそ6か月はかかる見込みとなります。

法改正後の新制度であっても、少なくとも3か月はかかると言われています。

これに加えて、投稿者が、NTTドコモなどの通信事業者から通信回線を借り受け、サービスを提供している事業者(ahamoなどのいわゆるMVNO)と契約している場合は、②でプロバイダに発信者情報の開示を求めても、契約者情報を保有していないと回答され、当該MVNOに発信者情報開示請求を行うことになりますので、更に時間はかかります。

また、サイト名は伏せますが、裁判所の命令を無視して開示手続きを怠ったり、ログ保存期間に間に合わないように遅延させてくるような相手方もおります。

ログ保存期間がある

ここまで発信者情報開示請求における投稿者が特定されるまでの流れとスケジュール感についてお伝えしましたが、発信者情報開示請求にはログの保存期間による事実上の時間制限が存在します。

誰がそのIPアドレスを使用したのかに関する情報(アクセスログ)は、ほとんどのプロバイダは3か月から6か月を保存期間としています。

ドコモやKDDI、ソフトバンク等の大手プロバイダでは3ヶ月間、OCN等の自宅用Wi-Fiを提供しているプロバイダでは6ヶ月間、MVNO等は通信の数が大手プロバイダと比べると圧倒的に少ないためか、それ以上の期間保存している場合もあります。

中には保存期間を永久としているプロバイダもありましたが、実際には大手プロバイダの3ヶ月間の保存期間に間に合うように動いていく形になります。

 

特定されてから損害賠償請求するまでに要する時間と法的な時効

投稿者(加害者)が特定されると、被害回復のため損害賠償請求訴訟を提起します。

裁判期日は通常1か月に1回開かれますので、ケースバイケースですが、数ヶ月で損害が賠償される場合もあれば、論点が多い場合には1年近くかかる場合もあります。

 

法的な時効

民法上、損害賠償請求権は、損害及び加害者を知ったときから3年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法724条1号)。

通常、誹謗中傷という投稿がなされた時点から起算しますが、発信者情報開示請求で開示を受けた契約者と加害者が一致しない(例えば契約者が親で、加害者がその子ども)ケースもありますので、この場合は加害者を知ったときから時効が起算します。

 

まとめ

以上の通り、SNS上での誹謗中傷被害を受けてから、最終的に加害者から損害を賠償されるまでは半年から1年はかかると見込んでいた方が良いでしょう。

ご相談の中には、1年以上前の投稿に対して発信者情報の開示をしたいというものもありますが、このような場合、残念ながら発信者情報の開示を受けることは厳しいと思われます。

ご相談の際には、こうした技術的なアクセスログの保存期間があることは事前にご了承ください。

弁護士に相談する場合、投稿日から1週間以内程度で依頼すると、余裕をもって進めることができますが、投稿日から1ヶ月半ほど経過していると間に合わない可能性も大分高くなってきます。

その辺りも含めアドバイス致しますので、SNS上の誹謗中傷でお困りの方は当事務所までお気軽にご相談ください。

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