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レンタカーや試乗車を乗り逃げするとどうなる?

はじめに

日本版ライドシェアサービスが2024年4月より東京などの一部地域で開始されました。

ライドシェアと似た言葉に、カーシェアリングやレンタカー、試乗車がありますが、これらは目的と所有者の面から違いがあります。

ライドシェアは個人の車であり、いわゆる相乗りを目的としますが、カーシェアやレンタカーはタイムズやトヨタなどの事業者が車の貸し出しをします。

 

今回は、レンタルで借りた車や試乗車を乗り逃げしたときに成立し得る犯罪について、有名な判例とともにご紹介したいと思います。

 

レンタカーを乗り逃げすると横領罪?それとも詐欺罪?

結論から言いますと、レンタカーを返却しない場合、レンタカーを利用している人に横領罪が成立する可能性があります。過去の事例からすれば、詐欺罪も成立する可能性があります。

では、レンタカーを乗り逃げしたケースで、横領罪か詐欺罪、どこで線引きされるのでしょうか。

 

横領罪と詐欺罪

前提事実~レンタカーを借りるのは契約に基づく行為~

レンタカーを借りる際、事業者と利用客との間で、自動車の賃貸借契約を交わします。レンタカー店が利用客に店の車を貸して、期日までに返却するという内容になりますので、車自体の所有権はレンタカー店にあります

一方で、契約によって車を事実的または法律的に支配しているのは利用している客になりますので、利用客が車を占有している状態になります

 

横領罪

横領罪は、「他人から委託」され、「自己が占有している」「他人の物」を不法に領得した場合に成立する犯罪です。

委託関係は、事実上の関係があれば足りますので、必ずしも法律上の委託または受託する権限を有していなければならないわけではありません。

つまり、レンタカーを借りるという行為は、法的に言うと、レンタカー店から車の賃貸借という委託により、レンタカー店が所有する車を、借りる側が事実的または法律的支配の下に占有する、という状態にあります。

そして、利用客が占有するレンタカーについて、横領行為(不法領得の意思を実現する一切の行為)をすれば、横領罪に問われる可能性があります。

ここでいう「不法領得の意思」とは、その物につき権限がないのに所有者でなければできない処分をする意思をいい、「処分」とは売買、質入れ、贈与、費消、着服、拐帯(持ち逃げ)などがあります。

 

横領罪の場合、不法領得の意思が外部に発現したときに既遂となりますので、未遂に関する処罰規定はありません。そのため、レンタカーの拐帯(持ち逃げ)横領の場合は、例えば返却期日までに返却しないなどの事実によって、不法領得の意思が外部的に発現していると捉えられる可能性があります。

 

詐欺罪

詐欺罪は、①欺罔行為、②被害者の錯誤、③財産交付行為、④一連の因果関係が構成要件として必要とされる罪です。

①欺罔行為については、レンタカーを借りて返却するつもりがないのに、店でレンタカーを借りると嘘をつく行為です。②こうした利用客の欺罔行為は、レンタカー店における車を借りる目的という認識と異なっており、③財物であるレンタカーを利用客に交付しており、④こうした一連の流れに因果関係があるといえれば、詐欺罪に問われる可能性があります。

 

横領罪か詐欺罪かは、借りる際に「乗り逃げする意思があったか」

つまり、レンタカーを借りて乗り逃げする行為が、横領罪なのか詐欺罪なのかは、利用客が借りる際に、最初から乗り逃げする意思があった場合は詐欺罪、最初はそのつもりはなかったが借りている途中で盗むと決めて返さなかった場合は横領罪になります。

 

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試乗車を乗り逃げすると?

試乗車を返却しない場合、その車の占有者(所有者ではない)は誰なのかが問題となります。

試乗車を所有する店の試乗車に対する占有が、利用客に移転したとしたならば、利用客において、試乗車を借りた段階で、最初から乗り逃げする意思があった場合は詐欺罪、最初はそのつもりはなく借りたが、途中で返却する意思がなくなった場合は横領罪が成立することになり、レンタカーの場合と同じ考えになります。

 

試乗車の乗り逃げに関する判例(東京地裁八王子支部平成3年8月28日判決)

事案は、試乗車を乗り回すことに興味を覚えた者が、自動車販売店を訪れ、自動車を購入すると嘘を言って商談をした後、試乗をしたいと話を持ち掛けて、販売店にあった試乗車を乗り逃げしたというものです。

これについて裁判所は、「被害者の試乗車に対する占有の意思に欠けるところはなく、かつ自動車販売店の営業員等が試乗車に添乗している場合には、試乗車に対する自動車販売店の事実上の支配も継続しており、試乗車が自動車販売店の占有下にあるといえるが、添乗員を付けないで試乗希望者に単独試乗させた場合には、たとえ僅かなガソリンしか入れておかなくとも、試乗者においてガソリンを補給することができ、ガソリンを補給すれば試乗予定区間を外れて長時間にわたり長距離を走行することが可能であり、また、ナンバープレートが取り付けられていても、自動車は移動性が高く、殊に大都市においては多数の車両に紛れてその発見が容易でないことからすれば、もはや自動車販売店の試乗車に対する事実上の支配は失われたものとみるのが相当である。そうすると、添乗員を付けなかった本件試乗車の被告人による乗り逃げは、被害者が被告人に試乗車の単独試乗をさせた時点で、同車に対する占有が被害者の意思により被告人に移転しているので、窃盗罪は成立せず、したがって、詐欺罪の成立を認めたものである。」と判示しました。

 

つまり、販売店が試乗をさせる際に、添乗員を付けていれば占有がなお継続していると認められますが、客のみで単独試乗させた場合は、その時点で販売店の試乗車に対する占有が失われ、客が乗り逃げの意思を隠して試乗し乗り逃げした場合は詐欺罪が成立するというものです。

 

判例では詐欺罪の成立を認めましたが、最終的にどのような罪が適用されるかはケースバイケースで、捜査機関での取調べなどによる供述内容から判断されます。

 

友人が貸した車を返却しない場合は?

車の貸し借りは、事業者と利用客との間のみではありません。個人間でも行われることがあります。個人間における車の貸し借りに関するトラブルについても補足としてご紹介します。

 

友人に貸した車が返ってこないまま、友人がその車で事故を起こした場合

当たり前ですが、運転手である友人が被害者から交通事故に関して、不法行為に基づく損害賠償請求を受けうる立場になります。

ただ、そこに車を貸した所有者が関わらないかと言うと、そうではありません。法律上、事故を起こした車を貸した所有者にもある程度の責任が生じると考えられています。

つまり、貸した所有者は、自動車損害賠償保障法3条の「運行供用者」にあたると考えられ、被害者から損害賠償請求を受ける可能性があります

 

 【参考条文】 自動車損害賠償保障法3条本文
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。

 

貸した車を見つけた場合

友人に返却を催促しても、なかなか返却されない中で、自力で自分の車を見つけた場合、友人に無断で車を引き上げるようなことをしてはなりません。所有者であるのになぜ?と思われるでしょうが、法律上、自己の権利を侵害された権利者が、法律の手続によらずに実力行使をもって権利を実現することは原則禁止されています。これを自力救済の禁止といいます。

そのため、見つけたからといって車を取り返した場合は、所有者自身が窃盗罪不法行為責任を負う可能性があります。

法律の手続を行うとすると、車の引渡請求訴訟を行い、勝訴判決をもって執行手続を経て、車を取り返す手続を行えば自力救済の禁止に反することはありません。

刑事手続の面からすれば、まずは警察に相談しましょう。しかし、警察に相談しても、個人間の貸し借りという観点から民事不介入の姿勢を取られることもあります。

もし警察の対応に不満がある場合は、友人に対する刑事告訴を選択することができます。ただし、刑事告訴は専門的な知識が必要となりますので、その場合は弁護士に相談することをお勧めします。

 

勿論友人から任意で返してもらう分には問題ありませんので、法的手続は最終手段とお考えになった方がよいでしょう。

 

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