家族が危篤状態でも勾留中の者は来られないのか?~勾留の執行停止という手段
勾留の執行停止とは
刑事手続において、勾留という身体拘束に対して、一時的に停止して身体拘束を解く制度があります。これを勾留の執行停止といいます(刑事訴訟法95条)。
そもそも勾留とは、被疑者が逮捕されたのち、証拠隠滅や逃亡のおそれがあると判断された場合にとられる手続です(最大20日の拘束期間)。起訴された後も多くの事件では保釈を取らないと、判決が言い渡されるまでは、基本的に勾留(起訴後勾留と言われる)が続きます。
勾留の執行停止に類似した手続に「保釈」がありますが、勾留の執行停止は、保釈と違い、お金を納める必要はありません。また保釈は起訴された後の勾留に対して利用する手続ですが、勾留の執行停止は起訴前から、つまり逮捕後勾留されてから申し立てることができます。 |
勾留の執行停止の決定は、裁判所による職権発動?
勾留の執行停止は、裁判所の職権によって認められています。被疑者又は被告人本人、その弁護人に求める権利はありません。
そのため、権利はありませんが、裁判所の職権発動を促すような形で、申立てをします。
「促す」としたのは、裁判所には、勾留の執行停止の申請について裁判する訴訟法上の義務はないと考えられているからです。
どのような場合に、職権が発動されるのか、つまり勾留の執行停止が行われるのか、についてですが、法律上の規定はありません。
一般的に、一時的に釈放する緊急性と必要性がある場合と考えればよろしいです。
例えば、被疑者又は被告人の体調が悪く直ちに手術等の緊急の治療が必要な場合、被疑者又は被告訴人の親族の冠婚葬祭に出席する場合、受験や就職面接など被疑者又は被告人の将来に大きな影響を及ぼす場合などです。
執行停止が認められる期間
一時的であるため、勾留の執行停止期間は、必要最小限の期間しか認められません。具体的に言えば、数時間から数日でしょう。
例えば冠婚葬祭に出席する場合には数時間や長くても1日未満でしょうし、危篤状態や臨終に立ち会う場合には数時間といったところでしょう。
執行停止がなされるのは、裁判所が「適当と認めるとき」
条文上、「裁判所は適当と認めるときは」とされていますが、判例ではこの「適当と認めるとき」とは、勾留の執行停止をする緊急かつ切実な必要性がある場合をいうとされています。
実際には、治療の必要、親族の危篤、臨終に立ち会う、冠婚葬祭に出席するというような場合は基本的に執行停止が認められる運用です。
しかし、運用といえども、執行停止の申立てをすれば、必ず認められるわけではありません。例えば、結婚式に出席するためであっても、逮捕前の生活状況、家族関係に照らし、執行停止が適当でないとされた裁判例もあれば、勾留中の者が選挙に立候補し選挙運動の必要性について、適当と認められないとした裁判例もあります。
裁判所の職権ということですので、判断はケースバイケースということです。 |
執行停止期間を終えたら…。
執行停止は裁判所による決定でなされますが、同時に終期が定められますので、それが過ぎれば再び留置施設に戻り勾留されることになります。
そして、法改正前までは戻らなかった場合の罰則はありませんでしたが、法改正により、被告人が正当な理由なく、終期として指定された日時に、出頭すべき場所(警察や拘置所など)に戻らない(出頭しない)場合は、2年以下の拘禁刑に処せられます(刑事訴訟法95条の2)。
この他、勾留の執行停止は、住居を制限されることがあり、許可を受けずに正当な理由なく離れたり、その住居に帰着しないときも2年以下の拘禁刑に処せられます(刑事訴訟法95条の3)。
勾留の執行停止が認められなかった場合は?
お伝えした通り、勾留の執行停止は裁判所の職権で認められるもので、弁護人からその発動を求めることになります。
そのため、発動されなかった場合、つまり勾留の執行停止が認められなかった場合の不服申立てはできません。
一方、保釈の場合は、却下決定された場合でも、準抗告や抗告で不服申立てができます。
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まとめ
勾留中であっても、裁判所が適当と認めるときは、親族の危篤や臨終に立ち会うことができます。
ただし、単に「危篤だから」という理由だけでは認められにくく、入院先の病院名や病名等を明らかにし、緊急かつ必要性が高いことを示し、また罪証隠滅や逃亡のおそれがないことも明らかにして、裁判所に執行停止が適当と認めてもらうことが重要となります。
勾留中の被疑者又は被告人がいて、勾留の執行停止の必要性・緊急性がありそうだと思ったら、まずは弁護人に相談してみましょう。