COLUMN

コラム

遺言執行者は何ができ、何をすべきか【遺言執行者の権限について】

遺言執行者とは

被相続人の遺言の内容を相続人の代表者として実行する者をいいます。遺言執行者の存在は必ずしも必要ではないものの、遺言執行者がいた場合は相続手続がスムーズに進むことが多いです。

では、遺言執行者として何ができるのか、何をすべきなのか、また相続人は遺言執行者に何かすべきなのかなどについてご紹介したいと思います。

 

遺言執行者の権利義務

遺言執行者に選任された場合、遺言を執行するための権利と義務が発生します。具体的にどのような内容の権利義務が発生するのかをご紹介します。ご自身が相続人であって、他者が遺言執行者となっている場合にも参考となり得ます。

 

相続人の調査・確定

遺言執行者に選任された場合、まずは相続人の調査を行います(誰が相続人で、相続人が何人いて、どこに住んでいるか等の調査)。基本的には、被相続人の出生から死亡までの戸籍を役所から取り寄せます。婚姻関係や家族関係が判明したら、相続関係図を作成しておくとわかりやすいです。

 

相続人に対し就任通知書と遺言書写しを送付する

民法上、遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行われなければならず(民法1007条1項)、その任務を開始したときは、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません(同条2項)。

つまり、相続人が確定したら、相続人に対し、遺言執行者に就任した旨の通知書を送付します。

そうすることで、相続人は、誰が遺言執行者になったかを把握することができます。勿論遺言書に記載されているからといって、必ず就任しなければいけないものではありませんので、就任を拒否することができます。ただし、その場合は相続人に伝えた方が良いでしょう。

遺言執行者が通知義務を履行せず、相続人が損害を被れば、相続人は、損害賠償請求をすることができます。

また、相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて就職をするかどうかの催告をすることができ、この催告に遺言執行者が確答しないときは就職を承諾したものとみなすことができます(民法1008条)。

従いまして、遺言書で、相続人以外の者が遺言執行者と記載されている場合、その遺言執行者に催告をすることで、相続手続が進むこともあり得ます。

 

また遺言書で遺言執行者の指定がないとき、又はその者の死亡などによっていなくなったときは、家庭裁判所に対し、遺言執行者選任の申立てをすることができます(民法1010条)。遺言執行者選任の申立ては、例えば、相続人が多忙で自分では手続が出来なかったり、共同相続人がいるが相続人同士で手続を誰にするのか揉めたり、関係性が複雑な場合、相続人にとっても煩雑な相続手続を第三者に代行してもらいたいなどの場合に活用されます。

 

相続財産目録の作成・交付

次に、遺言執行者は、相続財産の目録を作成し、これを相続人に交付しなければなりません(民法1011条1項)。

ただ目録を作成するのみならず、権利証や被相続人名義の通帳などの相続関係書類を保管・管理するとともに、不動産登記簿謄本や残高証明書を取り寄せることも行います。

 

執行と完了報告

前提として、遺言執行者は、相続財産の管理や遺言の執行に必要な一切の行為をする権利及び義務を有し(民法1012条1項)、遺言執行者がその権限内で遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接効力が及びます(同法1015条)。

具体的な行為を紹介しますと、主に、相続財産の引渡し・管理その他関係書類の引渡し・管理、執行の妨害をしている者がいるときはその者の排除、訴訟行為、財産の処分になります。

 

中心業務と言える遺言の内容を実現する手続を進めます。具体的な執行手続は遺言の内容によって異なりますが、例えば、遺言書にA銀行B支店の預貯金を相続人である子2人に2分の1ずつ分けるという内容が記載されている場合には、A銀行B支店の口座を払い出し、遺言書の指示通りの比率での分配を行うことになります。不動産であれば所有権移転登記の申請を行うことになります。

 

その他にも相続人の一人が遺言に反して勝手に不動産の登記名義を自分のものにしてしまった場合、遺言執行者は、その登記の抹消を求めることができます。

逆に言えば、相続人は、遺言執行者がいる場合、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることはできず、これに違反してした行為は無効になります(民法1013条1項及び2項本文)。

全ての遺言の内容を実現することができたら、相続人に対して任務完了の旨を報告します。

これにて遺言執行者の業務は終了です。

 

ここからは遺言執行者の権利義務とは別論になりますが、遺言執行者に付随する手続などについて簡単にご紹介します。

 

遺言執行者の選任は絶対に必要か?

先ほど家庭裁判所に対する遺言執行者の選任について触れましたが、そもそも遺言執行者の選任は必須といえるのでしょうか。

絶対に必要といえるのは、特定遺贈認知相続廃除の場合です。

特定遺贈とは、相続財産を相続人以外の者に取得させることをいいます。民法改正により、特定遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができるようになっています(民法1012条2項)。

次に、遺言による認知の場合、遺言執行者が認知の届出を行う必要があるため、遺言執行者の選任は必須となります。

最後に、遺言によって相続廃除を行う場合には、家庭裁判所に申し立てなければならず、申立ては遺言執行者が行うことになります。

相続廃除について簡単に紹介しますと、相続する権利を有する人の中に、遺言者(被相続人)に対して、虐待・侮辱・被相続人の財産を勝手に処分したとかギャンブル等で多額の借金を作りその返済を被相続人にさせたとか重大な犯罪行為により有罪判決を受けているなどの著しい非行をした人がいる場合に、その相続人の相続人としての権利を奪うことを言います。なお、生前に相続廃除をしたが、後の事情によって遺言により取り消したい場合も遺言執行者の選任が必須となります。

 

遺言執行者を解任できないの?

遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができます(民法1019条)。

 

その任務を怠ったときとは?

例えば、遺言執行者が相続財産を管理しない、財産目録を調査しない、相続人からの求めに対し進捗状況の報告をしない、といったものが挙げられます。

 

その他正当な事由とは?

遺言執行者は、その立場上、公平な立場であることが求められますので、例えば、特定の相続人の利益に与した行動をした場合は正当な事由にあたるでしょう。

 

具体的に、遺言執行者が任務を怠ったのか、解任を求める正当な事由があるといえるのか、についてはケースバイケースですので、一度弁護士に相談することをお勧めします。

 

コラム一覧