ホストクラブでの売掛金を支払わなくていいケース
目次
売掛金問題
近年、ホストクラブの売掛金問題が横行しておりますが、ホストクラブによっては客の未払分を担当ホスト個人の毎月の給与から天引きされて、ホスト個人が客から回収する仕組みが採られています。これを売掛金といいます。
そうなると、ホストは自身の給与が減るわけですので、女性客に対して売掛金を支払うよう迫り、犯罪行為に走ってしまうことがあります。
こうした事態を受け、主要ホストクラブと新宿区との協議により、令和6年4月までに売掛金による支払制度を廃止する方針が出されましたが、これはあくまで業界内での自主的なルールであって、売掛金制度を設けるホストクラブに対する取り締まりを規定する法律や条例があるわけではありません。そのため、今もなお売掛金制度を採用する悪質なホストクラブが存在していることも事実です。
売掛金問題について、女性客の立場からすると、全ての場合において売掛金を支払わなければならないというものではありません。
そこで、今回は、ホストクラブの売掛金を支払わなくていいケースや実際にホストから売掛金支払の請求を受けた際の対応などについてご紹介します。 |
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売掛金は原則として支払義務が生じる
当たり前ですが、飲食店で食事をすればその費用をその場で支払うのが通常です。それはホストクラブであっても同じことです。
つまり、ホストクラブで飲食すればその日に支払義務が発生し、売掛(ツケ)ということで、後日に延ばすだけで、原則として客に支払義務が発生します。売掛金を撤廃するという自主的なルールには反していますが、法的には支払い義務はあります。
もっとも、ホストクラブという性質上、飲食代金は高額になるのが通常であって、一回だけでも飲食代金が数十万円から数百万円に及ぶため、通常人であれば、その日はおろか、複数回にわたる累計した飲食代金を売掛(ツケ)にしても、結局支払うことはできません。
売掛金を支払わなくていいよくある4つのケース
では、原則として支払わなければならないものの、例外的に支払う必要がないケースがあります。
以下では、客の立場から売掛金を支払わなくていいケースについてご紹介します。
身に覚えのない/水増しされた
ホストクラブとなるとアルコールは付き物です。アルコールを摂取して酩酊状態にある状態で、頼んでもいない高額なお酒が提供されたり、会計にのせられることがあります。
このような場合は、勿論支払う必要はありません。
支払いを求められた場合は、伝票や借用書、注文書などを見せてもらいましょう。
身に覚えのない請求や水増し請求であることが明らかな場合は、その分についての支払義務がないことを明確に主張した方がよいでしょう。
消滅時効が完成している
売掛金は、いわば支払請求権というホストから客に対する債権ですので、長期間支払いがなされなければ消滅時効により債権が消滅し、支払義務を免れます。
民法改正により、売掛金が発生した時期によって時効期間が異なりますが、2020年(令和2年)3月31日までの売掛金であれば1年、2020年(令和2年)4月1日以降の売掛金であれば5年となります(民法166条1項1号)。
ただし、時効期間の途中で訴訟によって請求を受けた場合や売掛金の存在を承認した場合(債務の承認)などには、消滅時効の完成を主張できません。 |
未成年者であった
未成年者(18歳未満)である場合、親権者の同意がない限り、契約を取り消すことができます。
ただし、多くのホストクラブでは入店時に年齢確認を行いますので、未成年者であると偽っていたような場合(詐術を使った場合)は、取消しが認められない場合があります。
ホストに対する恋愛感情を利用された
いわゆるデート商法になります。売掛金に関するトラブルではこの類型が最も多いように感じます。
消費者(客)が社会生活上の経験が乏しいことから、ホストに対して恋愛感情など好意の感情を抱き、かつホストも消費者に対して恋愛感情などの好意の感情を抱いていると誤って信じてしまっていることを知りながら、これに乗じて飲食などの契約を締結しなければ、関係が破綻することになる旨を告げることにより、消費者が困惑し、飲食などの契約の申込みをした場合には、消費者契約法4条3項6号に基づき、契約を取り消すことができます。
要するに、ホストが自分に対する恋愛感情(例えば、ホストから今月もっと入れてくれれば1位になれるし、ずっと一緒にいられると発言されるなど)を利用されて高額なお酒を入れさせたような場合には、ホストが、客の恋愛感情を利用したものと判断さ、消費者契約法に基づき取り消すことができます。
恋愛感情の有無については、明確な基準があるわけではなく、LINEなどの会話履歴や実際に同居生活の程度、生活費の負担割合などから判断されます。 |
ホストから売掛金を請求された場合にやるべきこと
行政窓口で相談
警察や弁護士に相談する前に、置かれている状況について行政窓口でアドバイスを受けると良いでしょう。こうした悪質ホストクラブに関する相談窓口は、各都道府県に設置されており、例えば東京都の場合、東京都女性相談支援センターや東京都消費生活相談センター、法テラスなどがあります。その他都道府県の相談窓口や連絡先については、厚生労働省で悪質ホストクラブ等の相談窓口が公表されていますので、参照ください。
警察に相談
ホストの脅迫的な言動で回収されそうになったり、自宅まで押しかけられて居座られたりした場合には、そのホストが脅迫罪や恐喝罪に当たる可能性があります。
また性風俗店で働くよう紹介されたりした場合には売春防止法や職業安定法、各都道府県の条例に違反する場合もあります。
ホストからこのような督促手段を用いられた場合には、警察に相談し、場合によっては被害届を提出することをお勧めします。
警察の担当部署は、保安課です。
お一人で不安な場合には、弁護士などの第三者に同行してもらうことも一つです。
注意が必要なのは、ホストが脅迫罪などで逮捕されたとしても売掛金の支払義務がなくなるわけではありません。 |
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弁護士に相談
もし支払わなくていい4つのケースにあてはまるような場合には、弁護士に相談しましょう。一般的には内容証明郵便等で支払義務がないことを主張しますが、場合によっては裁判に発展することもあります。
4つのケースにあてはまらずに原則通り支払義務があるような場合には、減額や分割払いの交渉をすることになりますが、こうした交渉事は当事者間では折り合いがつかないことがしばしばですので、やはり弁護士に相談した方が良いでしょう。
ただし、弁護士に相談・依頼する場合には、弁護士費用として数十万円は発生します。そのため、弁護士費用が用意できないような場合には、解決には至りません。法テラスを利用するにしても、弁護士費用を法テラスに立て替えて支払ってもらい、事件終了後に分割で法テラスに返済していくシステムになっていますので、結局は数十万円を負担することになります(当事務所では法テラスを利用してのご依頼は受け付けておりません。)。 |
やってはいけないこと
無視
売掛(ツケ)にしている以上、ほぼ間違いなくホストから接触があるでしょう。この時に無視することはお勧めしません。訴訟に至るリスクが高まりますし、最終的には強制執行で財産が差し押さえられることがあります。
犯罪行為
売掛金を支払うようホストから頻繁に連絡を受ける可能性があり、終いには売掛金をめぐって罪を犯してしまうこともあり、被害者にも加害者にもなり得ます。
原則的に支払義務があるものの、加害者になるようなことは絶対にしてはなりません。一方で、暴行や脅迫の被害に遭った、または性風俗店で働かされたなどの場合は、躊躇わずに警察に被害を申告しましょう。
今はホストから売掛金を請求されていないが、今後どうすればよいか?
やってはいけないことでも触れましたが、無視することはお勧めしません。
その上で、民事での解決で言いますと、現実的には、減額または分割払いの交渉をするか、よくある4つのケースにあてはまるので支払義務がないと主張するか、のどちらかになると思います。ホストから逃げる、連絡を絶つという選択が思いつくかもしれませんが現実的ではありません。仮にホストが売掛金回収を弁護士に依頼した場合には、住民票などから住所を把握し、訴訟を提起することまで視野に入れますので、そもそも支払義務がない又は犯罪被害に遭うおそれがない限りは、減額または分割を考慮しておいた方が良いでしょう。
よくある4つのケースについては、あくまで売掛金問題に関するよくあるケースとして挙げており、実際には複雑な事情が絡んでいることがあります。画一的に判断できるものではありませんので、弁護士や警察に相談する際には、時系列やLINEなどの会話履歴など客観的資料とともに相談するのがベストです。 |
なお、ホストが犯罪行為に出ているような場合には支払義務とは別として警察に相談する案件となります(支払義務とは別の話になるので、ホストが逮捕されても支払義務がなお存することはお伝えした通りです。)。
まとめ
ホストクラブに対する売掛金トラブルについて、女性客の立場から対応方法などについてご紹介しました。
当事務所でも売掛金問題に関するホスト側、客側双方からの相談が多く寄せられていますが、売掛金と言っても、その場で支払うべき飲食代金を売掛(ツケ)という形で後日に延ばしてもらっているにすぎないので、原則的には支払うべきものです。
それを念頭に、自分は未成年者であった、恋愛感情を利用されたなどの事情がある場合なども含めてホストクラブに対する売掛金についてお悩みの方は当事務所までご相談ください。