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インバウンド犯罪~外国人が日本国内で罪を犯し、帰国した場合はどうなるか?

はじめに

昨今、円安の影響ならびに新型コロナウイルスに対する措置が世界的に緩和されたこともあり、日本に訪れる外国人の数は多くなってきています。

観光地などではオーバーツーリズムが問題とされている市町村がありますが、日本に滞在する外国人が日本国内で犯罪をするケースが増えています(特に暴行、傷害、器物損壊など)

当該外国人が日本国内にいれば逮捕に至るケースもありますが、犯罪の実行行為後、すぐさま母国に帰ってしまうケースもあります。

このような場合、日本の警察が行使する逮捕権や日本での裁判権は当該国に及ぶのでしょうか。

 

日本の捜査権や裁判権は及ばない

結論からいうと、罪を犯した外国人が判明しても、その外国人が逃げてしまった場合には、日本の捜査権や裁判権は及びません。捜査権が及ぶのは原則として自国内に限られているためです。

被害者にしてみれば、無念でしょう。

 

逃げ得を許さない制度がある

罪を犯した外国人からすれば、いわば逃げ得でしょう。しかし、こうした逃げ得をする外国人を日本国として許さない制度として、「犯罪人引渡し」と「代理処罰(国外犯処罰規定)」があります。

 

外交ルートによる身柄引渡し請求は基本的に逃亡犯罪人引渡条約に基づくもの

日本で罪を犯し国外に逃亡した犯罪人等を確実に追跡し、逮捕するため、一定の場合を除き、犯罪人の引渡しを国相互間で義務付けることをいいます。よくニュースなどでは犯罪人引き渡し条約と言われています。この条約により、現在、日本ではこの条約をアメリカ韓国の2か国と締結しています。

他の国家間で比べてみると、日本がアメリカと韓国の2か国であるのに対し、そのアメリカは69か国、韓国は25か国、中国は52か国、欧州では多数国間条約として欧州犯罪人引渡条約が締結されており、これに韓国、南アフリカ、イスラエルも加入しています(いずれも2020年時点)。

では、なぜ日本が2か国しか条約を締結していないのかというと、死刑制度が大きく関係していると言われています。他国の立場からすれば、例えば、日本で殺人事件を起こした自国民の身柄を、日本に引き渡すことになれば日本の刑法で殺人罪に問われ、最悪の場合死刑とされる可能性があります。このような背景がある状況で身柄を日本に引き渡そうという考えにはなりにくいでしょう。

もし、アメリカから犯罪人引渡し条約に基づいて犯罪人の引渡し請求がなされた場合(外国から日本に逃亡してきた場合)、日本国内では、逃亡犯罪人引渡法で定められた手続に従います。概略を言いますと、引き渡し請求が外務省にされると、外務省から東京高等検察庁を経て、東京高等裁判所で審理が開始されます。審理手続は2か月以内に決定することになっており、原則として引き渡す運用になっています(ただし、被疑者が日本国籍の場合・政治犯である場合等は引渡し対象外です)。

一方で、日本で犯罪を行って国外へ逃亡した場合は、この条約を締結していない限り、原則として引渡しがなされないことになります。

 

 

二国間共助の取り決めはあるのか

では、条約を締結していなければ犯罪人の引渡しを請求できないかというとそうではありません。条約を締結していない国と二国間共助を取り決めている場合には、その取り決めに従って相手国に協力を要請することができます。現在日本が二国間共助の取り決めをしているのはアメリカ、韓国、中国、香港、EU、ロシアなどと締結しています。そして、令和6年1月25日、日本はブラジルと刑事共助条約を締結し、双方の請求に基づき捜査その他刑事手続について共助をすることができるようになりました。

したがいまして、条約を締結しておらず、かつ二国間共助も締結されていない場合、あくまで自国民の扱いは、その国の法律などに基づくため、原則的に引き渡さない立場をとる国に関しては引渡しを受けることは難しいといえます。

もっとも、個々の事件で犯罪人の身柄拘束と引渡しが行われる場合もあります。昨今話題にありましたフィリピンに滞在中の犯人が指示を出し、日本国内で犯罪行為を行わせるという、いわゆる闇バイトに関して、犯人の身柄が日本に引き渡されています。これに関して、日本はフィリピンと引渡し条約も締結していなければ、二国間共助の条約も締結していません。しかしながら、日本側からフィリピンに犯人たちの強制送還を求め、フィリピン国内で強制送還の手続がされ、それと同時に引渡しがなされたということになります。こうした個々の事件でも引渡しはなされるわけですが、日本で起きた重大犯罪を察して、フィリピン側が対応してくれたというわけです(なので、外交はとても大事なのです。)。

 

代理処罰

日本と犯罪人引渡し条約を締結していない、個々の事件ごとに外交ルートによっても相手の国が拒否された、でも日本で犯した罪に対する罰を受けさせる方法は場合は、相手国の法令に基づいて犯人の処罰を求めます。これを実現する制度が代理処罰です。正式には国外犯処罰規定に基づく訴追といいます。

簡単に言いますと、日本はその国と条約を締結していないし、捜査権が及ばない。でも日本国内で罪を犯して、その国に逃げ込んでいるので、その国で捜査し裁判をしてください、というものです。

代理処罰の要求が行われるのは、被疑者の逃亡先が被疑者が国籍を有する国であるなど、外交ルートによっても日本への引渡しを受けることが望めないような場合です。

ただし、代理処罰は、日本から捜査によって得られた資料など情報を提供し、その国で逮捕、裁判、処罰ができるというものですが、代理処罰を求める国においても、海外での犯罪を犯した自国民を処罰する国外犯規定があることが前提です。例えばイギリスには、国外犯規定はあるものの、強盗罪は対象外とされているので、代理処罰の要請はできません。

またその国で捜査し裁判してくださいということなので、その国の法律で裁かれることになります。結果的に日本での感覚とは違う刑罰が適用されることがあります。

 

まとめ

外国人が日本国内で罪を犯して、母国に帰ってしまっても、こうした制度が設けられており、過去には実際に犯罪人引渡しや代理処罰を要請している事実があります。

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