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給与を差し押さえたい!でも相手の勤務先が分からないとき

はじめに

例えば、相手にお金を貸したが、相手からなかなか返済されない、やむを得ず相手を被告として訴訟を提起したところ、こちらの請求を認める判決を得ることができ、民事裁判では勝つことが出来た。ところが、相手は支払おうとせず、一方、相手が勤め人であり会社から給料を得ている場合、その給与を差し押さえて債権の回収を図ることができます。

給与は労働の対価として勤務先から支払われるものですが、それを差し押さえると、差し押さえた給与の一部が勤務先から直接支払われます

つまり、給与を差し押さえるためには相手(債務者)の勤務先に関する情報として住所や会社名が必須となります。

しかし、多くの場合、債務者の勤務先情報を把握しているケースは少なく、把握していても債務者が転職していたりするなど古い情報であったりすることもあります。

では、最新の債務者の勤務先情報を知るためにどのような手続があるのかご紹介します。

 

第三者からの情報提供命令手続

民事執行法が改正されたことにより、勤務先名やその住所といった情報を市町村や厚生年金を扱う日本年金機構等から入手できる手続が新設されました。それが第三者からの情報取得手続です。

 

手続における「第三者」とは

勤務先情報を得るために、情報提供元の第三者とは、市町村(特別区含む)又は日本年金機構(国会公務員共済組合、地方公務員共済組合、全国市町村職員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団も含む)になります。

どちらを選択するかですが、市町村は第三者からの情報取得手続の申立てをする年の1月1日時点において債務者が居住していた市町村となります。ここで注意が必要なのがその市町村が保有する情報は前年における給与支払者の情報となります(例えば、申立てが令和6年であれば、市町村が保有する債務者の情報は令和5年のもの)。

つまり、原則として1月1日時点で債務者の住所のある市町村を第三者としますが、発令の時期によっては、市町村が勤務先に関する情報を把握していない可能性があるため、その前年の1月1日時点の債務者の住所がある市町村を第三者とする必要があります。

一方、日本年金機構等の場合は、債務者が加入している機関を第三者としますが、債務者が厚生年金保険などに加入していない機関を第三者とした場合は情報を得ることができません。

債務者が厚生年金に加入していない、正社員として雇用されていなければ給与を差し押さえるメリットはあまりないといえるでしょう(アルバイトの場合には、給与差押をされたらすぐに他のバイトに簡単に転職して執行を免れることが出来てしまうためです。)。

 

申立ての前提要件

1 債権者が以下のいずれかの執行力のある債務名義を有していること

執行力のある債務名義とは、家事調停調書執行文が付与された公正証書判決などがこれにあてはまります。

特に勤務先情報を得ようとする場合は、債権が①養育費請求権や婚姻費用請求権など扶養義務等に係る債権であるか、②人の生命身体の侵害による損害賠償請求権(主に交通事故など)でなければ第三者からの情報取得手続を申し立てることはできません。

これは通常、勤務先は秘匿性の高い情報であり、そのため申立てできる債権者も限られています。

 

 

 

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2 先に実施した強制執行等が不奏功であったこと

強制執行等が不奏功(失敗したこと)であったことは、①配当又は弁済金交付手続で完全な弁済を受けられなかった、又は②知れている債務者の財産に対して、強制執行しても完全な弁済を受けられないこと、を意味します。

①については、申立前6か月以内に実施された配当又は弁済金交付手続で、申立人(債権者)の債権が全額弁済を受けられなかったことの証明が必要になります。

②については、債権者が調査をした結果、判明した債務者の財産に対して強制執行しても債権の完全な回収が得られない又は調査したが財産が判明しなかった事情を裁判所に財産調査結果報告書で説明します。

 

3 財産開示手続を先行させていること

勤務先情報を取得する場合、事前に財産開示手続をしなければならないとされています。つまり、財産開示手続を経てからでないと、第三者からの情報取得手続を申し立てることができません。

 

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申立てができない場合

債権者において、申立ての前提要件を満たしていたとしても、債務者側の事情により申立てができないケースがあります。

例えば、債務者が破産又は民事再生手続開始決定を受けたという場合は情報取得手続の申立てをすることができません。

 

給与の差押えには差押可能額がある

給与所得者にとって、給与は生活の基盤です。そのため、給与を差し押さえること自体は可能ですが、その範囲には制限があります。

原則として、税金や社会保険料を控除した手取り額の4分の1まで差押えすることができます。例外として、手取り額が44万円を超える債務者については、33万円を超える部分について、全額差し押さえることができます。

 

 

 

最後に

給与債権を差し押さえる前提となる債務者の勤務先情報を取得するための手続についてご紹介しました。手続きを申し立てるにあたっては、法律で決まった債権を有するのか、執行文が付与されているか、財産開示手続を経ているかなど事前準備が多くあります。

債権回収はスピードが大事ですので、こうした手続で止められてしまっては一部すら債権回収をすることができなくなるおそれがあります。

そのため、勤務先情報を法的手続により得て、債務者の給与を差し押さえたい場合には、債務名義を取得後、速やかに弁護士に相談することをお勧めします。

 

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