危急時遺言について~遺言者が死亡の危険に迫られている場合には、口頭での遺言が出来ます
危急時遺言とは
危急時遺言とは、遺言を作成しようとする方が病気や事故等によってもう死期がすぐそこまで迫っている場合に、例外的に口授(遺言者の言葉で話すこと)によって遺言を行うことができる、例外的な制度です。
(通常、遺言書を作成する場合には、口授ではなく遺言者が全文自筆にて遺言書を書いたり、あるいは公証役場まで赴いて遺言書を作成しなければなりませんが、危急時遺言はそのようなことをする余裕がない場合にのみ例外的に認められている遺言方法になります。)
危急時遺言についての民法上の規定
民法第976条には、危急時遺言についての規定が定められています。
- 民法第976条
- 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
- 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
- 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
- 前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
- 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
このように、遺言者が口が聞けない場合や耳が聞こえない場合などの規定も設けられています。
危急時遺言を行う際の注意点
・公正証書遺言では証人2名の立会いが必要なのに対して、危急時遺言では更に人数要件を増やして証人3名の立会いが必要とされていること
証人については、誰でも良いわけではありません。
証人になることができない人は、未成年者、推定相続人(遺言者の相続人になる人)、受遺者(遺言によって財産を貰う人)、これらの配偶者及び直系血族(両親や祖父母、子、孫など)です。
簡単に言えば、遺言者が将来的に亡くなった場合に、利害関係を持つ可能性がある人は証人になれないとされており、この条件に当てはまる身内はかなり広範囲になりますから、基本的には親戚はほとんど証人になれないと考えて良いでしょう。)
・危急時遺言の日から20日以内に家庭裁判所の確認を得なければ、危急時遺言書自体が無効になってしまうこと
危急時遺言は、他の遺言の方式では許されていない口授のみでの遺言を許していることから、家庭裁判所での確認という特別な手続を必須要件としており、裁判官により遺言者の真意に基づいて遺言書が作成されたものであるか否かの判断を行います(民法976条4項5項)。確認審判を申し立てることが出来る人は、証人の1人または利害県警人(推定相続人・遺言執行者・受遺者等)に限られています。
裁判所の審判が出るまでおおよそ1~2ヶ月ほど要し、その後は問題がなければ裁判所から確認完了通知が来ます。
・作成時に遺言者と意思疎通が出来る状態でなければならない
危急時遺言についても、通常の遺言書と同様に、遺言書作成時に遺言者の方に、遺言の内容を理解して、遺言書を作成する結果としてどのように財産が分配されるのかを理解する能力(遺言能力)がないと、遺言書は無効となります。
したがって、例えば遺言者が認知症や成年被後見人であって全く会話が成立しないような場合には遺言能力がないとして遺言書が無効になってしまいますし、逆にこのような方であっても頭がはっきりしている状態であれば遺言能力が認められる場合もあります。
(ただし、成年被後見人の方の場合には、一時的に能力を回復しているときであっても、医師二人以上の立会いの上で遺言作成に立ち会った医師が署名押印等を行わなければならないという加重要件があります(民法973条))。
・遺言者の死亡後には、危急時遺言書を家庭裁判所に提出して検認請求を行うこと
危急時遺言書についても、自筆証書遺言書と同様に、遺言者が死亡した場合には遅滞なく家庭裁判所に遺言書を提出して、検認の請求を行わなければなりません。
検認とは、裁判所において相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして,遺言書の偽造・変造を防止するための手続のことをいいます。
・遺言者が生命に危機のある状態から回復し、通常の形式で遺言ができるようになってから6ヶ月間生存するときには、危急時遺言は無効となる(民法983条)
危急時遺言はあくまで生命が危機的状況という緊急時に特別に簡単な方式で認められている遺言方法ですから、緊急性を脱して6ヶ月間遺言者の方が生存されている場合には危急時遺言は無効となります。
したがって、その場合には自筆証書遺言や公正証書遺言等、別の方法での遺言書を作成することを忘れないようにしましょう。
まとめ
危急時遺言は、滅多にあるものではありませんが、遺言者が病院で生死を彷徨っている状態から意識を取り戻した際などに緊急でご依頼を受けることが稀にある案件です。
危急時遺言を作成する場合、遺言者の方に死がまさに迫っている場面ですから、時間的にかなり緊急性があります。
また、手続が通常の遺言のケースとは異なるため、一つでもミスがあると遺言書自体が無効となってしまいますし、家庭裁判所における審判申立ても必須となりますので、弁護士へご依頼いただくのが良いと思います。
当事務所では、弁護士のスケジュールの都合でどうしてもお受けできない場合を除き、可能な限り迅速に対応しておりますので、危急時遺言の作成でお悩みの方は弁護士直通の携帯電話にお電話下さい。