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YouTuber/VTuberに対する誹謗中傷について、発信者情報開示請求を行う

はじめに 

インターネットが普及し、動画配信サイトで自身が撮った動画をアップロードし、収益化している、いわゆるYouTuber/VTuberの活動が盛んになっています。 

しかしながら、こうしたYouTuber又はVTuberに対して、匿名の心無い誹謗中傷コメントがなされることも多くなっています。 

YouTuberの場合、多くが本人の顔などを公開していることも多いですが、VTuberは自分の本名や容姿を公開せず、アバターを用いて活動を行うため、本人とは別の人格として活動しているとみなされる側面があります。 

そのため、特にVTuberに対して誹謗中傷が行われた場合、本人に対するものなのか、アバター(キャラクター)に対するものなのか、が問題となり、インターネット上の仮想人格に対する誹謗中傷によっても名誉毀損が成立するのかは判例等でも取り上げられています。 

 

 

 発信者情報開示に利用される主な手続 

まず、一般的に、発信者情報開示請求というと、以下の4つの方法で開示請求を行うことが考えられます。 

 

1 仮処分 

→法改正前における主要な手続。ログ保存期間との関係で、迅速に保全を求めることができる。 

 

2 発信者情報開示命令、提供命令、消去禁止命令 

法改正後に創設された新制度であり、これまで二段階で行う必要があった発信者情報開示請求を1つの手続で行えるようにしたもの 。

 

3 発信者情報開示請求訴訟 

法改正後は実務上の運用はあまりないものの、今も利用されているケースはある。 

 

4 任意による開示請求 

→プロバイダによってだが全く応じないところが多く、実効性は乏しい。 

 

誹謗中傷を受け投稿者が特定されるまでの基本的な流れ 

そして、YouTubeに限ったことではありませんが、匿名掲示板であっても、YouTubeチャンネル上のコメントであっても、インターネット上で誹謗中傷の被害を受け、投稿者を特定するための基本的な流れは、以下の通りです。 

 

仮処分からのルート

1 サイト管理者(YouTubeの場合はGoogleLLC)からIPアドレスの開示を受ける 

2 そのIPアドレスを元に接続プロバイダ(NTTやKDDIなど)が判明するので、そのプロバイダに対して開示請求又はログ消去禁止、あるいはその両方を請求する (契約者への意見照会はここでされる)

3 接続プロバイダから、そのIPアドレスを用いていた契約者の情報として氏名住所の開示を受ける 

 

開示命令申立てからのルート

1 開示命令(提供命令を含む)を申立て、YouTubeから接続プロバイダ名やIPアドレスの開示を受ける 

2 接続プロバイダに開示命令(消去禁止を含む)を申立て、プロバイダから契約者へ意見照会がなされる 

3 接続プロバイダから契約者(投稿者)の氏名や住所といった情報の開示を受ける

 

 YouTuberに対して誹謗中傷がされたケース 

では、実際にYouTube上でYouTuberが誹謗中傷されたケースで各手続について簡単にご紹介します。 

 

仮処分の場合 

まずはYouTubeを管理しているのは、現在はGoogleLLCなので、サイト管理者であるGoogleLLCに対して、投稿時IPアドレス(YouTubeは投稿時IPアドレスを保存しているため)開示の仮処分を求めます。 

投稿時IPアドレスが判明したら、接続プロバイダを割り出し、ログ保存や投稿者の情報の開示を求めます。 

仮処分で仮処分の申立てから投稿者が投稿されるまでは、おおよそ3か月を目安に考えておくとよいでしょう。 

 

開示命令を選択した場合 

開示命令についても基本的な流れは同じです。この場合に投稿者が特定されるまではおおよそ3か月から6か月となるでしょう。 

 

裁判手続を経なくても開示されるケースがある?!

通常、発信者情報開示請求を行う場合は、基本的な流れでもお伝えした通り、仮処分でIPアドレスの開示を求め、そのIPアドレスからログ保存と投稿者の氏名住所の開示を求めることになります。 

 

もっとも、YouTubeの場合、別の手続を採ることもできます。チャンネルが収益化されていて、そのYouTuberがYouTube(Google社)との間でパートナープログラムによる収益化関係にある場合(いわゆる広告収入)、YouTube側は広告収入を振り込むためにYouTuberの氏名住所・銀行口座を把握しているのです。 

つまり、YouTuberのチャンネルが収益化されている場合、裁判(仮処分や開示命令)手続を経なくても、チャンネル運営者の氏名住所の開示をダイレクトに求めればよいということになります。仮処分はログ保存期間を経過してしまうと特定することができなくなる危険性がある場合にとられるものであり、その危険性がなくチャンネルが収益化しているケースであれば、無理に仮処分などの手続を採る必要性はないのです(逆に言えば、ログ保存期間の影響がなく時間制限がないため、仮処分はそもそもできないことになります)。 

とはいえ、GoogleLLCは任意での開示には応じませんので、正式な訴訟手続である発信者情報開示請求訴訟をもって、開示を求めることになります。訴訟の場合、訴訟提起から判決まで短くとも3か月以上は要します。 

 

 

 手続としてベストなのはどれ? 

ここまでYouTubeにおける誹謗中傷について、発信者情報開示請求により投稿者の氏名住所を特定する諸手続を紹介しましたが、正直、ベストな手続はケースバイケースです。 

前提としてチャンネルが収益化しているのか、していないのか、で入り口は変わりますし、 ログ保存などさまざまなその時の状況を踏まえて最適な手段を検討いたします。

いずれにしろ、誹謗中傷をした人物を特定するためには、発信者情報開示請求を行う必要がある 

一般的に、誹謗中傷の投稿については、ログ保存期間との関係で、3か月程度で投稿者に関する情報が消滅し、それ以降発信者情報開示請求を行っても、投稿者を特定することはできません。 

投稿者を特定するためには、まずサイト管理者からIPアドレスを割り出し、そのIPアドレスを元に通信事業者を特定し、その通信事業者から契約している投稿者の氏名や住所を開示してもらうという流れになります。 

 

投稿者が特定できたら…。 

諸手続で投稿者の氏名住所を特定したら、民事上で損害賠償請求するか、刑事上の刑事告訴をするか、になります。 

 

 

 

米国のディスカバリ制度 

補足ですが、GoogleLLCのような米国法人を相手方とする場合、アメリカにおける裁判手続のための証拠開示制度を利用することができます。この制度を利用して、米国企業に対し、アカウントに登録されている情報の開示を求めます。 

ただし、この制度を利用するためには、アメリカの弁護士資格を有する代理人への依頼が必要です。もしこの制度を利用したいと思われましたら、対応可能な法律事務所をご検討ください。 

 

Vtuberへの誹謗中傷に関する特有の問題点 

Vtuberとは 

インターネット上には、大手動画配信サイトYouTubeがありますが、Vtuber(バーチャルYouTuber)とは、YouTube上で2Dまたは3Dのアバターを使って動画を投稿したりライブ配信をしたりして活動する人のことをいいます。 

ここ数年でVtuberという存在が世間的に認知され始めているからか、活動・活躍の場が広がっていき、その世界にのみ存在するアバターが、まるで自分の意思をもって活動しているかのような場面が増えています。 

しかし、その一方で、YouTube上でのVtuberに対する誹謗中傷が増え、それに対する法的対応を採らざるを得ないケースが増加していることも事実です。 

 

同定可能性の問題 

YouTubeで誹謗中傷された人が、自身の名誉権を侵害されたとして、発信者情報開示請求を行う場合、その誹謗中傷の投稿が、その人自身に対してなされたものであるといえることが必要です。これを同定可能性といい、発信者情報開示請求ではしばしば争点となります。 

他方、Vtuberの場合、通常は自分の本名や容姿は公開せず、アバターというキャラクターで表面上は活動しているため、本人とキャラクターは別の人格とみなされることがあり、同定可能性が認められないケースもあります。 

Vtuberという存在に対する名誉毀損がそもそも成立するのか、また発信者情報開示請求が認められるのか、については従来から議論されてきました。 

この点、最近の裁判例で、Vtuberに対する誹謗中傷がなされた事案において、発信者情報の開示を認めた裁判例(東京地判令和3年4月26日)があります。 

この裁判例では、芸能プロダクションが多数のVtuberタレントを抱えていること、タレントの個性を活かしたキャラクターを製作していること、動画配信における音声が本人のものであって、配信中の動きも本人の動きを反映していること、配信の内容がVtuber自身の現実生活における出来事等を内容とするものであることなどの諸般の事情を考慮して、当該Vtuberの活動は単なるCGキャラクターではなく、本人の人格を反映したものであって、誹謗中傷の内容が配信に反映された本人自身の行動を批判するものであるとして、発信者情報開示請求を認めました。 

上記裁判例は一例にすぎませんが、このようにVtuberの活動の背景や内容、キャラクターの設定によっては、本人の人格であるとして、発信者情報開示請求が認められるケースが今後も増えていくと思われます。

 

 

発信者情報開示請求は弁護士にご相談を 

これまでご紹介しました通り、発信者情報開示請求は、一般の方にとっては専門用語が多く、手続も複雑ですので、読んでも難解で分かりにくいところがあります。

これに加えて、主張立証の面でも専門的な知識が必要になることはなんとなくお分かりいただけたかと思います。 

ご自分で色々と調べてみても、そもそもどの手続をとれば良いのかすら良く分からないということが多いと存じます。そのような際は、実績のある当事務所までお気軽にご相談ください。 

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