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余罪捜査はどこまでされるのか?再逮捕の回数は?

よくニュースなどで逮捕された被疑者に対して、「警察は更に余罪があるとみて捜査を進めています。」と報道されることがあります。また実務上でも余罪で再逮捕、追起訴となることも少なくありません。

 

 

余罪とは

余罪とは、現在取り調べられている罪や起訴された罪ではない、別の犯罪をいいます。

通常、逮捕状や勾留状、起訴状には、被疑事実として、誰が、いつ、どこで、誰に(何に)、何をしたのか、という六何の原則(5W1H)に基づいて記載されます。

例えば、起訴状であれば「被告人は、令和●年●月●日頃、東京都●●において、●●が左腕にさげていたバッグの中から、同人所有の現金●円及びクレジットカード在中の財布1個(時価●円相当)を抜き取り窃取したものである。」という記載になります。

現在進行中の刑事手続に関する犯罪事実、つまり逮捕状や起訴状に記載されている被疑事実を本罪というのに対し、記載されていない被疑事実を余罪として、区別されます。

 

余罪捜査(取調べ)は原則は禁止【事件単位の原則】

余罪捜査は本罪で逮捕されたら常に行われるかというと、原則として行われません。

これは、逮捕・勾留の効力が逮捕状や勾留状に記載されている被疑事実についてのみ及び、それ以外の事実には及ばないとする刑事事件における事件単位の原則に基づくものです。

事件単位の原則は、逮捕状などの令状記載の犯罪事実に限定することで、被疑者の身柄拘束の理由を明確にし(つまりあなたは被疑事実に記載されている事実で今身柄拘束されていますよと知らせ)、被疑者の人権を保障しようという趣旨です。

このことから、余罪について捜査機関が取調べを行うことは令状なしで取調べを行うことになってしまい、横行しかねず、被疑者の人権を保障できなくなるので許されないのです。

 

例外的に余罪捜査が許される場合

しかし、原則である以上、例外は存在します。余罪捜査の禁止を貫くと、余罪が沢山ある場合、被疑事実ごとに逮捕・勾留が繰り返されることになってしまいますので、被疑者側にとってもメリットはあります。

例えば、窃盗罪詐欺罪・業務上横領罪・強制性交等罪・性的姿態等撮影罪などの性犯罪といった犯罪は、繰り返す傾向があるため、余罪捜査がされることがあります。

余罪捜査が例外的に認められる場合は、本罪と余罪とが同種事犯の場合(何件も盗撮や窃盗を行っている場合など)や、両者が密接な関係にある場合、被疑者が自ら進んで余罪の取調べを希望したような場合に認められています。

 

余罪が発覚するケースは?

捜査機関が本罪について捜査する中で、余罪が発覚するケースがあります。そのきっかけはさまざまありますが、よくあるケースとしては、押収した携帯電話やパソコンに余罪の証拠が残っていることが捜査から判明した場合、取調べによって被疑者本人又は共犯者によって自白がされた場合、別の被害者から新たに被害届の提出された場合等が多いです。

 

1 捜査・取調べ

捜査や取調べの過程で、余罪が発覚することがあります。例えば、盗撮事件で被疑者のスマホを解析した結果、本罪とは別の盗撮画像や動画が発見された場合は警察が余罪として捜査を開始することが多いです。

 

2 被疑者又は共犯者による自白

被疑者による自白で、余罪が発覚するケースは最も典型的といえます。本罪について取調べを受ける過程で、捜査官から「他にも何か罪を犯していないか」旨の質問や確認がなされ、それに対して供述(自白)すれば捜査機関は捜査を行い、証拠を集めた結果、余罪が発覚することがあります。

また共犯者がいる場合には、共犯者の自白によって発覚することもあります。

本来は違法な捜査方法なのですが、「切り違え尋問」という手法も警察はよく行っています。「切り違え尋問」とは、共犯者がいる場合に、実際にはどの共犯者も自白していないのに、被疑者に対して「お前の共犯者はもう全部自白して別件もやったと認めているぞ。他の件についても自分の口から話せ。」というように向け、共犯者が自白したという虚偽の情報を与えた上で心理的に圧力を加えて自白させて、次にその自白を共犯者にも示して共犯者をも自白させる尋問方法をいいます。

切り違え尋問は最高裁の判決で明確に違法という判断がされていますが、令和になった現代でも、このような取調べ方法は未だに行われているのが現状です(最高裁昭和45年11月25日刑集 24巻12号1670頁)。

3 被害届

本罪での取調べが始まった後、余罪の被害者から被害届が出されることで発覚するケースもあります。

 

余罪捜査が行われやすい犯罪とは?

余罪捜査については原則として行われませんが、どのような罪を犯したかによっては、警察や検察も余罪があるかもしれないという前提で捜査を進めることがあります。

このように余罪が多い犯罪類型としては、万引き、覗き、盗撮、業務上横領、薬物事犯、詐欺、児童ポルノがあります。

特に盗撮に関しては、盗撮画像や動画をスマホなどの機器に保存していたり、たとえそれらを削除しても内部データとして残っていて復元できることもあるのです。

そのため、スマホなどを捜査機関が解析していくことで、余罪が発覚し、捜査が進められることになるのです。

 

 

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余罪と再逮捕【再逮捕再勾留の原則】

仮に本罪について釈放された後でも、別の被害者によって被害届が提出された場合など余罪が発覚したときは、再逮捕される可能性があります。

刑事手続における身柄拘束では、再逮捕再勾留の原則があります。これは同一の犯罪事実について、逮捕・勾留を複数回行うことはできないという原則です。この原則によれば、余罪について発覚しても再逮捕されないのではないかと思われるかもしれませんが、再逮捕再勾留の原則は、あくまでも同一の犯罪(本罪)についての原則であるため、本罪とは別の犯罪である余罪については適用されないのです。

したがいまして、本罪で釈放された後でも、後日余罪が発覚すれば再逮捕される可能性はあります

余罪が数え切れないほどある場合、全ての余罪で再逮捕されるのか?
何回まで再逮捕されるのか?

窃盗や盗撮などは常習的に何十回も行い、最終的に逮捕される場合が多いです。

このような場合、全ての犯罪事実に関して再逮捕されるのでしょうか?

法律上の決まりとしては、再逮捕に回数制限はありません。したがって、理屈上は事件の数だけ再逮捕を繰り返すことができ、一つの事件について逮捕・勾留で最大23日間身柄を拘束することができます。

しかし、そうなると一生捜査が続いてしまうことになりそうですが、実務上はすべての事件について再逮捕されることはなく、再逮捕の回数は多くても4,5回で打ち切られることが多いです。ただし、殺人や強盗、不同意性交致傷など重大事件に関しては、被害者の数だけ再逮捕されることは多いです。

ただし、これは特に否認している被疑者にとっては見通しが見えない苦痛であり、警察も「余罪はまだいくらでもあるから、自白するまで再逮捕を繰り返して絶対に出さないからな。」等と脅してきますし、実際に否認して不起訴に終わっても釈放と同時に再逮捕をされるケースは多いです。

このような違法捜査が行われている場合、弁護人から捜査機関に対して抗議を行いますし、窃盗や詐欺、盗撮などの被疑事実であれば再逮捕もある程度(5回以内程度)の回数で打ち切られますから、やってもいないことを早く出られると思って自白することは絶対にしないでください。

 

余罪についても起訴された場合、どういう扱いになるか?

余罪は、本罪とは別の刑事手続として逮捕・勾留されますが、余罪について起訴された場合、本罪との関係はどうなるのでしょうか。

 

1 本罪とともに起訴される

本罪について、検察官が起訴するか不起訴とするかの判断をまだしていない場合は、余罪についても本罪と併せて判断されます。

本罪余罪両方について検察官が起訴すると判断した場合、本罪とともに併せて起訴されます。

この場合、余罪について再逮捕・再勾留するかはケースバイケースですが、本罪の起訴前勾留期間で、余罪についても捜査を終えられると判断された場合は再逮捕・再勾留はありませんが、本罪の起訴前勾留期間で余罪の捜査を終えられそうにないときは余罪について再逮捕・再勾留されることもあります。

 

2 追起訴される

本罪についてすでに起訴されている場合は、余罪について再逮捕された上で勾留期間が一から始まり、その後、追起訴の扱いになります。

余罪が本罪の捜査過程の中でどのタイミングで発覚するのか、または余罪の捜査を終えられるのかによって扱いは異なってきますし、捜査機関の判断によるところです。

 

 

3 本罪のみ起訴される

余罪は発覚したものの、捜査の結果、起訴するに十分な証拠が揃わなかった場合は本罪についてのみ起訴されることがあります。

 

4 本罪余罪両方とも不起訴

検察官の判断で、余罪だけでなく本罪についても不起訴処分となることがあります。不起訴処分となれば、勿論身柄拘束は解かれます。

 

5 本罪は不起訴処分でも余罪について起訴される

先ほどもご紹介しましたが、本罪について不起訴処分を得て釈放されたとしても、後日余罪で再逮捕される可能性があるだけでなく、余罪で起訴されることもあります。

 

余罪が考慮されて刑が重くなることがある。

余罪については、量刑事情として考慮することができないのが原則です。起訴後の刑事裁判では本罪のみを審理することになるためです。ただし、本罪の量刑を決めるうえでの一資料として余罪が考慮され、実際には、量刑が重くなることがあります。

すなわち、量刑判断においては裁判官は被告人の性格や常習性の有無などを考慮しますから、余罪の扱いが余罪を処罰する趣旨ではなく、単に被告人の性格、経歴および犯罪の動機、目的、方法などの情状を推知する事情として用いる場合には量刑の資料とすることができるとされています。

一方で、自ら自発的に自白した結果、余罪が発覚したという場合は、ケースによりますが、余罪の自白が反省とみられることはあります。ただし、判決の量刑判断にあたっては、自白のみではなく、示談や被害弁償の有無、身元引受人の監督誓約など総合的に考慮されます。

 

余罪についても不起訴に向けた弁護活動が必要になる

もし本罪で示談が成立して不起訴処分を得たとしても、余罪についても同じ手続を踏む必要があります。つまり、余罪についても不起訴処分を得るためには活動をしていかなければなりません。

本罪と併せて起訴されてしまうと刑が重くなってしまうことがありますので、弁護士に相談しましょう。

当事務所ではこれまで刑事事件において不起訴処分を得てきました。余罪についても捜査される可能性があったりして、逮捕された場合はお早めに当事務所までご相談ください。

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