なぜ?警察が刑事告訴の受理を断る理由
目次
自分が犯罪の被害に遭い、犯人の処罰を求めるために、警察に刑事告訴をしに警察署に行っても何かと理由を付けられて断られた、受理してくれなかった、どうすればよいか、というご相談は本当に多く寄せられます。
今回は警察が刑事告訴を断る理由をご紹介しますので、自分で刑事告訴をするにあたって事前に確認しておくとよいでしょう。
警察には刑事告訴を受理しなければならない義務がある
前提として、本来警察は告訴が行われたときはこれを受理しなければならないという義務があります(犯罪捜査規範第63条)。犯罪捜査規範は警察官が捜査にあたって遵守すべき手続等を定めたものです。
そのため、どのような理由であれ刑事告訴を受理しないという選択はないはずです。
しかし、実務上、被害者であっても、弁護士であっても、告訴状や証拠書類を警察署に持参して刑事告訴をしに行っても、何かと理由をつけて即受理されることはほとんどありません。
では、警察はどのような理由をつけて刑事告訴を受理しないのか、以下に見ていきましょう。
証拠が足りない
警察が刑事告訴を断る理由として最も多いのが「証拠が足りない」という理由付けです。
しかし、刑事告訴は本来は証拠の有無にかかわらず受理しなければならないわけですし、受理すれば警察は捜査を開始しなければならないので、証拠が足りなくても告訴状を受理して、警察が捜査によって証拠を収集していくべきなのです。証拠を集めるのは、被害者ではなく捜査機関の仕事です。
そのため、証拠が足りないからというのは、刑事告訴を断る理由にはなりません。
例えば、田舎道の路上で見知らぬ人から抱きつかれたという不同意わいせつ被疑事件を想像してもらえればおわかりになるかと思いますが、目撃者もいない、防犯カメラもない、客観的な証拠など用意できるはずがない事件を警察が受け付けないなら、そのような犯罪がやりたい放題の野放しになってしまいます。そのようなことが許されるはずがないのです。このような場合には、被害者に陳述書を作成してもらい、それを証拠として提出します。
民事不介入
警察は民事不介入(犯罪性のない個人間におけるトラブルには警察は介入しない)の立場をとることは既にご存じかと思います。
しかし、これはあくまで「犯罪性のない」個人間のトラブルに対する立場であって、例えば、個人間で詐欺が行われれば(あるいは詐欺かどうかは確定的にはわからなくても、詐欺の疑いがあれば)、それは犯罪性のない個人間のトラブルといえません。このような場合、被害者は民事手続をとることもできれば刑事手続をとることもできます。
このように民事で解決できるのであるから、警察は介入しないとして刑事告訴を断る理由も多いです。
犯人を特定することが困難
警察が「犯人を見つけるのは難しいですね。」とか、「最終的に犯人を特定することはできないと思いますよ。」などと言って刑事告訴を断ることもあります。
しかし、告訴状を提出する時点で、被害者に刑事告訴を諦めさせるような言葉を向けるのはあり得ないことです。
犯人を捜査して特定するのは警察の仕事だからです。
どうせ不起訴になるから
警察に門前払いにされ続けた被害者が、弁護士に依頼した上で告訴状を提出しようとするときに一番よく言われるのがこの言葉です。「本件では証拠が足りないので、検察に送致しても絶対不起訴になりますよ。」、「こんな事件受けると検察に我々(警察)が怒られるんですよ。」ということは良く言われます。
しかしこれも、結局捜査機関が捜査を尽くしてみないと更なる証拠が出てくるかどうかもわかりませんし、実際に被疑者を警察署に呼び出して取調べを行えば自白する可能性もありますから、何も捜査していない段階で不起訴になるという判断を警察が行うのは明らかに間違っています(起訴するか不起訴にするかは起訴独占主義といって、検察官に委ねられている権限ですから、起訴も不起訴も警察が決めることは出来ません。)。
被害者としては、結果的に不起訴となったとしても、被疑者を警察が呼び出して取調べを行ったり、捜査を尽くしてもらうことで溜飲が下がることも十分にあることですし、それを行うことが捜査機関の仕事であり義務ですから、全く理由になっていないとしか言いようがありません。
その他の理由
警察が刑事告訴を断るその他の理由としては、そもそも犯罪が成立しないと判断することもあります。
判例では、告訴の内容その他の資料から判断して犯罪が成立しないことが明らかであるような場合には告訴として受理することを拒むことができるとしたものがあります。
もっとも、このような場合であっても、犯罪の不成立が明白な場合の判断については慎重になされるべきであり、門前払いの如く断る理由にはならないでしょう。
刑事告訴は犯罪の立証は不要
被害者には犯罪の立証を行う義務はなく、証拠を集めるのは捜査機関の仕事であり義務です。なので、被害者の方がそこを勘違いしていると、警察に上手く丸め込まれて「証拠が集められないから仕方ないか…」と本来諦める必要の全くない事件を諦めてしまうことになってしまいかねません。
ただし、警察も、日々数千件と行われているような、ネット上の小さな友達同士の小競り合いの誹謗中傷などを片っ端から事件として正式に受理していると、本当に大きな事件があったときに対応できなくなってしまいます。
警察が告訴の受理を拒否するのには、警察もマンパワーが限られているという実質的な理由があることも知っておく必要があります。
刑事告訴は弁護士にご相談を
以上のハードルの高さから、刑事告訴をする際には弁護士に相談することをお勧めします。
勿論自分でも刑事告訴をすることはできますが、今回ご紹介した理由で警察から断られるケースは多くあります。
実務上、個人で警察に出向くより、弁護士が代理人として(弁護士に委任する費用は発生しますが)告訴状等を提出する方がスムーズに受理してもらえることが多いです。
当事務所ではこれまで多くの刑事告訴に関する案件を受任し、受任した全てを受理させることができています。受理までの期間はケースバイケースですが、警察が受理しようとしない姿勢を見せても、粘り強く、時には公安委員会等へ苦情を申し入れるなどして、最終的に受理させています。
【関連記事】 👇こちらもあわせて読みたい |
♦ 刑事告訴の概要と、告訴を警察に断られた場合の対応
♦ 実効性のある刑事告訴をするために~弁護士の選び方と依頼するメリット |