少年事件における弁護人・付添人の役割
はじめに
少年事件では、成人事件と同様、弁護士が弁護人として、又は付添人として手続に関与していきます。特に逮捕されてしまった子の保護者からすれば、今後どのような手続となり、子の処分はどうなるのか、更生できるために自分たちができるとは何かあるのか、などなど不安なことは多いと思います。
今回は、少年事件における弁護人や付添人が子や裁判所などに対してどのような働きをするのか、少年事件手続の流れに沿いながら、手続としてこのようなことが用意されているという概括的なところをご紹介します(もっとも実際にその手続をとるかは、ケースバイケースであり、事案に応じて必要性や効果を勘案の上で判断しますので、必ずしもその手続を採らなければいけないものではない手続もあります。)
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捜査段階における身体拘束からの解放に向けた弁護活動
少年が逮捕されると、逮捕されてから48時間以内に警察による取調べと検察官への送致がなされます。そして、検察官への送致後は24時間以内に検察官による取調べと勾留などの請求がなされます。
そのため、少年が早期の身体拘束から解放されるために、逮捕直後から弁護人が介入できれば、弁護人としては警察の取調べに対する対応方法(黙秘権を有することや供述調書の署名押印を拒否できること等)、また、任意出頭が求められている場合には、それに拒否し続ければかえって逮捕の可能性があることなど事前にアドバイスや説明をすることができます。
場合によっては、弁護人が任意の取調べに向けて、少年側にとって有利な情報を記載した上申書を事前に作成の上で同行することで逃亡や罪証隠滅のおそれがなく、勾留の必要性がないことを示すことで逮捕を免れることもあります。
また検察官は、犯罪の嫌疑があるものと思料するときは事件を家庭裁判所に送致します(少年法42条1項)。ここでは、少年に犯罪の嫌疑がないことに関する意見書を裁判所に提出することもあります。
少年事件の場合、少年に対する勾留の要件(やむを得ない場合)はそれほど厳格ではありませんので、勾留請求がなされることがあります。これに対しては、勾留に関する意見書を検察官に提出して、勾留の要件を満たさないことを個別事実に基づいて主張し、勾留に代わる観護措置を求めます(一般的に、検察官はやむを得ない場合でない限り原則として勾留に代わる観護措置をとることになります。)。
一方で、検察官から勾留請求がなされてしまった場合であっても、弁護人は裁判所に対して、少年に逃亡や罪証隠滅のおそれがないことを具体的に示して、「やむを得ない場合」とはいえない旨(場合によっては勾留に代わる観護措置を求める旨も)の犯罪の嫌疑または勾留に関する意見書を提出することがあります。
しかし、意見書を提出しても、最終的に裁判官が勾留決定をし、少年の身柄が拘束されてしまうことがあります。そうなると勾留決定に対する準抗告を申立てます。
また勾留の要件や必要性が認められる場合であっても、その後に被害者と示談が成立したなどの事情の変化によっては、もはや勾留の必要性はなくなるといえますので、勾留取消請求をすることもあります。さらに、少年が勾留中であっても、受験や学校イベント(卒業式など)などに参加する必要があるときは勾留の執行停止を求めることがあります。
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家裁送致後審判前における付添人の活動
捜査機関が捜査を終え、家庭裁判所に事件を送致した後、家庭裁判所は少年に対して観護措置をとるか判断します(少年法17条1項)。
国選・私選問わず、家裁に送致されると、弁護人の選任の効力は失われ(少年法42条2項)、その後の手続として関与していくためには付添人という立場に代わります。
そのため、万が一家裁に送致される場合に備えて、引き続き付添人として活動するために準備します(国選であれば申入書を、私選であれば付添人選任届を家裁に提出)。
その一環として、家庭裁判所に観護措置の要件を満たさない旨の意見書を提出することもあります。
観護措置決定手続に対して
付添人として選任されると、観護措置決定手続で立会いを求めることができます。しかし、この手続では付添人の立会いを認める法律上の規定はありませんので、お願いベースで立ち会うべき理由を裁判官に主張することになります。
観護措置決定前であれば、少年が非行事実をどう考え、反省しているかの意見書を家庭裁判所に提出することもあります。実務上、観護措置は家庭裁判所が事件受理後24時間以内にとることになっていますので(少年法17条2項)、提出するのであれば、それまでに提出するという迅速な対応が求められます。
観護措置決定後に対しては、異議申立てや観護措置取消を求めることができます。異議申立てについては、先ほど紹介した諸手続よりもハードルはより高くなり、観護措置の必要がないことや観護措置による支障をきたすことについて、具体的事実を疎明資料とともに(学校の内申書や両親の陳述書など)主張します。
実務上、異議申立てが認められるのは、非行が軽微である場合、前歴がない場合、進学などに大きな影響を与える(試験に重なる、退学処分の危険性が高いなど)場合が多く、観護措置取消については、家庭裁判所が観護措置の必要がなくなったと判断した場合は、職権で取り消すことになっています(少年審判規則21条)。そのため、裁判所の職権発動を促す形になりますので、申立書という形よりかは上申書で観護措置の取消しを求めます。
少年との面会
少年鑑別所に送られた少年は、そこで原則4週間過ごすことになります。東京の場合ですが、少年鑑別所は2か所あり、少年の住居が23区内であれば東京少年鑑別所(練馬区)、23区外であれば東京西少年鑑別所(昭島市)になります。
調査官との面談
調査官は、家庭裁判所の命に従い、少年の問題性の把握に努めます。そのため、場合によっては相性が合わないなど少年と対立することがあります。このような時は、少年に対して適切なアドバイスをすることになりますし、必要に応じて、調査官と密に連絡を取り合うなどして、共に少年の立ち直りを目指します。
また調査官の把握する少年に関する情報や家族に関する情報を共有してもらうため(付添人が把握している情報も共有することもあります。)、調査官と面談をすることがあります。ここで、調査官が考える少年の要保護性とすり合わせることで、調査意見に反映してもらいます。
調査官は保護者に対しても面接調査しますので、必要であれば付添人が立ち会うこともできます(立ち会う際には事前に調査官と保護者に一報しておくと良いでしょう。)。
つまり、審判までに調査官と緊密に連絡をとり、情報や意見の交換を活発に行います。被疑者段階から受任している付添人としては、調査前に少年の生い立ちや交友関係など付添人として知っている情報を早々に調査官に提出してしまい、調査の方向性と付添人の方向性のすり合わせをします。(中には1回の面接で処遇意見を決めてしまう調査官もいますが、そのような場合であっても、付添人しか知り得ない情報や事情を伝えます。)。
意見書の提出
審判開始前であっても、裁判官は事件記録をもとにある程度処遇方針を決めていることがあります(少年事件には成人の刑事裁判の原則である予断排除の原則や伝聞法則の適用はありません。)。
そのため、審判前に必要な情報を提示して付添人としての処遇に関する意見書を提出します。特に、調査官による調査結果は処遇に大きく影響を及ぼすことになり、調査官の意見提出は審判の3日前になされることが多いので、その前か同時に提出することになります。処遇に関する意見書では、少年の更生可能性や家庭環境などが整っていることなどを主張します。
その他にも記録の閲覧謄写をすることもあります。記録は、少年の前歴の有無、家庭環境、友人関係、学校環境などに関する情報が載っている法律記録と、調査官による調査結果や鑑別所での鑑別結果など社会調査の結果を乗っている社会記録があります。ともに膨大な量になることもあります。
少年審判における付添人の活動
審判は少年の処遇を決める重要な手続で、審判手続は少年のプライバシーに踏み込みますので、原則非公開とされます(ただし、被害者による傍聴制度はあります。)。
また審判手続について細かな決まりごとはありませんので、進行は裁判官の自由裁量になります。裏を返せば、柔軟な対応で審判が進められる可能性が十分にあるということです。
そのため、審判開始前においては、裁判官と事前に流れなどを協議しておくことで、付添人にしても、少年にしても、また出席される保護者(裁判所の許可が必要)にしても有益なものとなり、これを受けて、付添人としては、この少年にとってどのような審判の進行が望ましいのかイメージすることができます。
さて、審判日当日は、一般的に、人定質問→少年を審判に付すべき事由の要旨告知→少年の弁解録取→非行事実に関する審理→要保護性に関する審理→調査官と付添人の処遇意見→少年の意見陳述→裁判官による審判という流れで進められます(少年審判規則29条の2)。
多くの少年は、この審判の場で自分の処遇が決まることを薄々感じ取りますので、緊張しています。緊張故、時に、裁判官から少年に対する質問内容を少年がうまく理解できなかったり、尋ねられていることに対して的はずれな回答をしてしまうこともあります。このようなときには、付添人から少年に対して適宜補充して質問をしたりして助け舟を出すこともあります。
審判は柔軟な進行がされるため、付添人から少年に質問できることもあります。このようなときは、それまで少年と面会する中で、少年の言葉から出てきた率直な言葉を、改めて話してもらうような働きかけや質問が必要になるでしょう。また、付添人が保護者等に質問する場合にも、事前準備は勿論ですが、保護者側の意識として回答先は裁判官に対してでもあり、かつ少年に対してでもあるという意識をもつことが重要です。
手続の最後に、少年の意見陳述がありますが、少年が裁判官に自分の気持ちを伝える場でありますので、少なくともそういう機会があることは少年に伝えておいてもよいでしょう。
なお、試験観察になった場合は、終局処分ではないので、定期的な面談を行うなど付添人としての活動は継続していきます。
最後に
審判がなされ、少年の処遇が決まれば、付添人としての任務は終了となります。
今回は弁護人又は付添人として、こういう手続がある、こういう手続になる、という一般的な説明にとどめましたが、根本的なところは、付添人、裁判官、調査官など裁判手続に関わる関係者は、少年が更生するためにはどうすればよいかを考えます。
そのため、付添人が少年の更生のためにどのような活動を行うかは、少年の性格や事件の性質などケースバイケースでの判断になります。
何より重要なのは、少年とどれ程向き合うことができたのか(信頼関係を築けたか)ということです。