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美人局の被害に遭った場合の対応方法

美人局(つつもたせ)とは?

例えば、マッチングアプリなどで知り合った女性と実際に会う約束をして、女性と合意の下でホテルに入ろうとしたところ、あるいはホテルから出てきたタイミングで、(偶然遭遇したように装って)突然知らない男性や集団が話し掛けてきて「俺の彼女に何してるんだ?」であるとか「俺は反社の人間だ。俺の女に手を出したな。」と言われて、金品を要求されるという事案が多く発生しています。あるいは、知らない男性が現れなくても、同意してホテルに行ったのに、性行為後になって女性から「無理やりさせられた。被害届を提出されたくなければお金払って。」と事後的に言われるケースもあります。

このように共犯関係にある男女が女を使って性交渉を持つなどしてターゲットの男性を罠にはめて、それに言い掛かりをつけてターゲットから金品を要求する犯罪行為美人局(つつもたせ)と言います。

美人局の手口としては、女性がデートや性行為をし、その後に女性や共謀者である男性から脅されるというケースが多く、古典的な意味での美人局とは、夫婦が実行する犯罪として知られていましたが、SNSの普及と発達によって、現在では主に、出会い系サイト、マッチングアプリ、XやInstagramのDMなどのSNSを利用しての美人局が多いです。

さらには未成年者を利用した美人局も多く発生しています。

 

美人局の代表的な手口

美人局が行われる手口には、いくつか代表的なものがありますので、美人局被害に遭わないための予防として、また「あれは美人局であったのでないか」と確認する意味でも美人局的なよくあるケースも含めて挙げておきます。

・ホテル内や自宅で脅迫して金品を要求する/奪う

・待ち合わせ場所で脅迫して金品を要求する/奪う

・ぼったくり店に連れていかれ、法外な飲食代金を支払わされる

・未成年者であることの口止め料を請求される

・性行為中の様子を盗撮され、それをネタに脅迫される(この場合免許証などの写真が撮られていることもあります)

・妊娠を偽装され、中絶費等を請求される

 

 

美人局で加害者側に成立し得る罪とは?

では、こうした美人局によって加害者側に成立し得る犯罪をご紹介します(実際には脅し方によってどの罪が成立するか異なります)。

 

恐喝罪

まずは恐喝罪です。恐喝罪とは暴行や脅迫によって人を畏怖させて、財物を交付させたときに成立する犯罪です(刑法249条1項)。強盗にまで至らない、判例上の言葉で言えば、「相手方の反抗を抑圧するに至らない程度の暴行・脅迫」が用いられた場合に成立します。

例えば、共謀関係の男性が「俺の女に手を出しやがったな。彼女未成年なんだよ。警察に通報されたくなかったら金を払え。」と脅し文句で言われ、被害者が警察に通報されるのを嫌がりやむなく自分の意思でお金を支払った場合、「反抗を抑圧するに至らない程度の脅迫」があったといえるので、恐喝罪が成立する可能性があります。

 

脅迫罪

脅迫罪は、人を脅して怖がらせる犯罪であって(刑法222条)、構成要件は人の生命、身体、自由、名誉又は財産に対して、畏怖させるに足りる程度の害悪の告知をすることです。

したがいまして、例えば、「家族や職場にバラす」などと言われれば、それは被害者の名誉に対する害悪の告知といえる可能性がありますので、脅迫罪が成立することになります。恐喝(未遂)罪は金銭を喝取(いわゆるカツアゲ)する目的で行われた場合に成立するのに対し、脅迫罪は脅迫行為を行った時点で既遂になります。

 

 

強盗罪

加害者側の行き過ぎた行為の一つとして、例えば、「俺の女に手を出しやがって」と言いながら被害者の首筋にナイフを突きつけるなどした上で財布などを強奪したような場合には、強盗罪(刑法236条)が成立します。

恐喝罪と何が違うのかと思われるかもしれませんが、考え方としては、脅迫されても犯人に反抗(抵抗)することが可能であったが、自分で自ら財物を交付してしまった場合には恐喝罪、脅迫行為が「反抗を抑圧するに足りる程度の暴行脅迫」であり、それにより財物を奪い取られてしまった場合には強盗罪が成立します。

例えば、首筋にナイフを突き付けられれば、被害者からすれば少しでも抵抗すれば首を切られて殺される可能性があると考えるのが通常ですから、犯人に反抗したくても出来ない状況といえます。よって、この状況は、「反抗を抑圧するに足りる程度の暴行」があったと認められ、恐喝ではなく強盗になる可能性が高いです。)

 

詐欺罪

例えば、マッチングアプリで出会った女性とラブホテルに行き性交渉したところ、後になって、実際には女性は妊娠していないのに、「コンドームが破けていたようで妊娠検査薬で検査したら妊娠してしまっていた。中絶費用を支払って。」と言われたケースではどうでしょうか。このような場合、美人局の被害者(ターゲットにされた男性)の認識では、「自分の行った性行為で相手方が妊娠してしまった」との錯誤(勘違い)に陥ってしまっています。

美人局では、このようにターゲットとなる男性を欺いて財物を交付させることもあります。このケースでは詐欺罪(刑法246条)が成立する可能性があります。

 

 

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被害者側にも犯罪が成立してしまう?

ここまでは、男性をターゲットにした女性や共謀関係の男性に対して成立する犯罪をご紹介しましたが、ターゲットにされた男性にも犯罪が成立し、逮捕される可能性があります

 

不同意わいせつ罪・不同意性交罪

美人局の加害者側の女性が18歳以上であって、その女性に対し、同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態であることに乗じて、わいせつな行為をした場合は、不同意わいせつ罪(刑法176条1項)に該当する可能性があります。

しかし、後から男性が共謀して脅してくるような美人局の場合は、性行為の時点で実際には同意があった場合が多いので、一般的には美人局の被害者に不同意わいせつ罪が成立する可能性は証拠関係上も立証できず、罪に問われる可能性は一般的には低いと思われます。

ただし、女性が性交渉含め性行為を拒否する意思を本当に示していたのに、無理やり行為に及んだというような場合は、相手方が美人局の加害者であろうと、当然、不同意性交罪が成立します。

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美人局の加害者側女性が18歳未満であった時は注意が必要

お伝えした通り、美人局は成人男女による犯罪行為とは限りません。未成年者と性的関係をもつことが犯罪行為であるという認識を逆手にとられることがあります。

相手方が未成年者であることを認識していた場合には、仮にその女性が17歳で性交を行った場合、、性交渉の対価(または実際に対価を渡さなかったとしても、対価を渡す約束で)として金銭等の授受があれば児童買春をしたとして、児童買春・児童ポルノ規制法に違反することになります。この場合、5年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられます。

また、児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態が撮影された写真等(いわゆる児童ポルノ)を所持あるいは提供した場合も上記法に違反します(所持は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金、提供は3年かの懲役又は300万円以下の罰金)。

さらに法令違反のみならず、各自治体が設定する条例違反に該当する可能性もあります。東京都では、青少年育成条例において、青少年(18歳未満の者)とみだらな性交又は性交類似行為を行ってはならないとし、これに違反した場合、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます。

もし16歳未満の美人局の加害者側の女性と性行為をした場合、同意の有無関係なく不同意性交等罪(刑法177条3項。5年以上の有期拘禁刑)に問われる可能性があります。

 

その他の法的責任

美人局の被害者が、別の犯罪(児童買春等)では加害者になってしまうことはあり得ますが、法的責任という広い意味で言えば、刑事責任のみならず民事責任を負う可能性もあります。

例えば、美人局の典型例では、「妊娠した」と言って、堕胎費用を要求してくるケースもありますが、本当に妊娠したという場合は養育費や慰謝料の支払義務が発生することがありますし、性行為をした女性が実は本当は既婚者で夫から不貞行為の慰謝料請求がなされることもあります。

 

 

美人局被害に遭ったら?

美人局トラブルに遭ってしまった場合、その場を収めるために金品を渡したとしても解決せず、何度も繰り返し金品を要求されることがあります。

しかし、美人局を契機とするこれら行為は犯罪行為にあたる可能性が十分に高いことはこれまでご紹介した通りです。そのため、まずは弁護士又は警察に相談し、場合によっては被害届を提出した方がよいでしょう。

しかし一方で、美人局の被害者が、加害者と判断されて被疑者側として捜査を受け、場合によっては逮捕される可能性もあります。それでも、美人局の被害に遭っていて、警察に行こうにも行きにくい、どうすればよいのかわからないというような場合は弁護士に相談しましょう。

弁護士に相談することで、自分の身に置かれた状況から適切なアドバイスを受けることができますし、美人局加害者に対する対応や、別件の加害者になりそうであり、自首したいのであれば同行をお願いしてもよいでしょう。

 

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最後に

美人局はケースによっては被害者として、加害者に対し、恐喝罪等で警察に被害届を提出することができますが、被害者であるはずなのに別件で加害者になってしまう可能性があります。

このような状況で美人局の被害に遭ったと警察に相談してもよいのか不安でしたら、一度弁護士に相談することをお勧めします。

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