貸主から立ち退き要求?!~立ち退きが認められる「正当事由」とは
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突然ですが、あなたが土地を地主(オーナー)から借りていて、オーナーから立ち退くよう求められたら、借りている身だからといって、これに従わなければならないのでしょうか。また賃貸借契約の期間が満了したら、更新されずに立ち退くよう求められても、やはり立ち退かなければならないのでしょうか。
地主がその土地を利用しなければならない何かしらの事情があり、立退料を支払ってでも借地人に立ち退いてもらう必要があるという状況であれば別ですが、原則は、貸主側から突然立ち退き要求があったとしても、契約期間満了で更新しないと言われても、借主はその土地を使い続けることができます。
借地借家法で借主は保護されている
例えば、借りた土地の上に建物を建てて生活をしているなど土地を借りて、住居や店舗としている場合は、多くは借主の生活基盤となっていることが多いです。
このような状況で、貸主側からの立ち退き要求が何もなく認められてしまうと、借主の生活基盤が脅かされてしまいます。
そのため、借主の生活基盤を保護するため、契約の更新などに関して定められているのが借地借家法です。これにより、借主は一定程度保護されています。
土地又は建物からの立ち退きを求める際には「正当事由」が必要
賃貸人から借地人又は賃借人に不動産からの立ち退きを求める際には、原則として正当事由が必要となります(ただし、借地上に建物が存在しない土地の賃貸借の場合は正当事由は不要です。)。
借地における立ち退きで必要な「正当事由」とは
前提として、借地人からの更新請求に対して賃貸人は異議を述べることができます(借地借家法5条)。ここでいう異議は、要するに契約を更新しないことを意味し、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができません(借地借家法6条)。
「正当事由」を判断するための要素
「正当事由」があるかどうか判断するための要素については、借地借家法で定められています。
①地主及び借地人が土地の使用を必要とする事情
地主側及び借地人側に当該土地を使用する必要性がどれだけ高度のものであるのかが最も重要な要素です。
地主側と借地人側双方の事情を考慮しますので、例えば、地主側の事情でいえば、再開発で既に他の周辺住民が退去済みであるとか、その土地に建物を建てて自分で使用するとか、といった事情になるでしょう(単なる土地の利活用として駐車場にするといった事情だけでは正当事由があると認められるのは難しいでしょう。)。
また、借地人側の事情でいえば、土地上の建物が劣化している、長年使用されていない、といった事情はマイナスの事情、つまり正当事由が認められる事情になるでしょう。
②その土地に関するこれまでの経過
ここでよく挙げられるのが、地代の支払い状況です。例えば、借地人が地代の支払いを長期間滞納している場合には、地主側に正当事由ありと判断されやすくなるでしょう。
③その土地の利用状況
例えば、その土地上の建物に誰も住んでおらず、老朽化が激しい建物がある場合は、借地人がその土地を利用していないと判断されて、地主側に正当事由ありと判断されやすくなるでしょう。もっとも、利用状況だけでは正当事由があるとはいえません。
④立退料など財産上の給付
借地人にとって生活の基盤となる土地から立ち退かなければならないことは酷といえます。そのため、土地の立ち退きの場合、地主から借地人に支払われる立退料の金額の妥当性や、代わりとなる不動産の確保状況など借地人にとって生活の基盤が失われないような措置を地主側が用意しているかも正当事由の判断にあたってはポイントになります。
借家における立ち退きに必要な「正当事由」とは
借家の場合であっても、賃貸人には立ち退きを要求するにあたって正当事由が必要となります。基本的には、借地における正当事由と同じですが、借家の場合は建物の現況が考慮要素に加わります。
①建物の使用を必要とする事情
基本的な考え方は、借地の場合と同じです。賃貸人又は賃借人にとって、その建物を使用する必要性が、双方の事情からどの程度あるのか判断します。借地人において、その建物を転貸している場合は、転借人における必要性も考慮されます。
②その建物に関するこれまでの経過
借家であれば、賃借人のこれまでの賃料支払など債務の履行状況、賃料の額、増額又は減額の有無と程度、更新の有無、信頼関係破壊の事実の有無、といったところを考慮します。
③建物の利用状況
利用状況では、賃借人が用法違反となるような利用をしていないか、必要不可欠であるといえる利用状況であるかになります。例えば、その建物を倉庫として利用しているような場合は、別の場所の倉庫を借りればよいことが多く、賃借人とってはマイナスの事情となり得るでしょう。
④建物の現況
借家の場合、建物の現況も正当事由を判断するための考慮要素に加わります。建物の現況とは、具体的には経過年数や残存耐用年数、腐朽状況、大規模修繕の緊急性・必要性になります。老朽化が進んでおり、いつ倒壊してもおかしくないような状況であれば、緊急に修繕を行う必要がありますから、正当事由を肯定する方向性の事情となります。
⑤立退料など財産上の給付
建物の場合であっても、支払われる立退料の金額の妥当性や、代わりとなる不動産の確保状況など賃借人にとって生活の基盤が失われないような措置を講じていれば、賃貸人にとってはプラスの事情となるでしょう(ただし、立退料の金額については実務上最も争いとなるケースが多く、立退料を支払ったからといって、それのみでは賃貸人にとってプラスの事情に働かない場合もあり得ます。)。
立退料の相場について
多くの立ち退きのトラブルでは、立退料の額について争いになります。
そして、その相場についてですが、状況や事情によって変動しますので、相場を示しづらいところがあります。
というのも、立退料の金額は、正当事由はもちろん、それに関連する事情をも考慮して決定されることが多く、そしてその関連事情などはケースバイケースです。
それ故に、正当事由がない方向の主張と立証を説得的に裁判所に伝えることができれば、自ずと立退料の額も高くなり、多くの立退料の支払が必要となりますから、ここが弁護士の腕の見せどころとなります。