相続分の譲渡をした方がいいケースとは?-相続放棄や相続分の放棄との違い
目次
相続分の譲渡とは
自分の法定相続分を他の人に譲渡することを相続分の譲渡といいます。
例えば、父親が死亡し、母親と兄と弟が相続人となった場合、法定相続分は、配偶者である母親が2分の1、兄と弟がそれぞれ4分の1ずつになります。このとき、弟が自分の法定相続分4分の1を兄に譲渡すれば、弟は遺産分割協議に参加する必要はなくなり、兄の法定相続分は4分の1から2分の1に増えます。これを相続分の譲渡といいます。
相続分の譲渡先は第三者でもいい?
相続分を譲渡するのは、相続人に限らず第三者でも問題ありません。相続分を受け取った人(譲受人と言います。)は、遺産分割協議に参加することができます。
一方、相続人が第三者に相続分を譲渡した場合であって、他の相続人は、1か月以内であれば、その価額及び費用を償還して、その相続分を取り戻すことができます(民法905条)。これを「相続分の取戻権」といいます。
取戻権は遺産分割という家庭内の争いに第三者が介入して混乱を招くことを防止するための制度であることから、取戻権を行使する場合には、買主の同意は不要であり、相続人から一方的に権利行使すれば取り戻すことができます。
ただし、取り戻した権利は相続人全員の共有となります。
相続分の譲渡のメリットとデメリット
メリット
相続分の譲渡をするにあたり、いくつかメリットがあります。
一つは遺産分割協議に参加する必要がなくなります。
遺産分割協議では、どの相続財産を誰がどの割合で受け取るのかを決め、最後に相続人全員が押印しなければ成立しませんが、相続分を譲渡した相続人は、押印はもちろん、協議自体に参加する必要はありません。
遺産分割は話し合いがこじれて調停になることが多く、解決まで年単位で時間が掛かることも往々にしてありますが、早期に現金化できるという点は大きなメリットです。
更に、譲渡するにあたり、譲渡先を自由に選ぶことができますし、その対価としては有償でも無償でも問題ありません。
デメリット
相続放棄の場合、放棄が家庭裁判所で認められると、最初から相続人でないことになりますので、プラスの財産もマイナスの財産も相続しません。したがって、被相続人の負った借金や負債を肩代わりすることは絶対にありません。
しかし、相続分の譲渡の場合、被相続人にマイナスの相続財産があれば、譲渡した人にも負債の支払義務が残ります。
また相続分の譲渡は遺産分割前にしなければならず、遺産分割してしまうと譲渡できなくなるという時間的な制限があります。
次に、遺言がある場合では、相続分の譲渡ができないケースがあります。
例えば、遺言の内容が「預貯金につき相続人〇〇に2分の1」というように相続分が指定されている場合は譲渡できますが、「相続人〇〇に不動産(又は預貯金)を相続させる」というように遺産が指定されている場合は譲渡できません。
最後に、相続分の譲渡は有償でも無償でもできますが、無償で譲渡した場合は譲受人に贈与税がかかりますし、有償で譲渡した場合は譲渡所得税が発生する可能性があります。贈与税の方が税率で比較すれば相続税より高くなりますので、税金まで計算すると相続分譲渡を行うと損になってしまうケースもあります。
したがって、相続分を譲渡する際は税金の面からも慎重に検討する必要があります。
相続分の譲渡はどのような時に利用した方がいい?
相続分の譲渡を行う背景は相続人によって様々ですが、以上のメリット・デメリットを考慮して、どのような場合に相続分の譲渡をした方がいいのでしょうか。
例えば、早期に現金化したい事情がある場合(それでも税金がかかる可能性はあります。)、面倒な相続手続はしたくない場合(負債を相続する可能性やそもそも譲渡できない遺言の内容である場合があります。)、特定の誰かに遺産相続させたい希望がある場合(それでも取り戻される可能性があります。)、相続人が多数いて協議に参加する人数を減らしたい場合、などは相続分の譲渡を検討してみてもよいかもしれません。
相続分の譲渡に必要な手続は?
相続分を譲渡するにあたって、裁判所などでの特別な手続は不要です。
そのため、法律上は口頭でも成立します。ただし、相続分の譲渡があった事実を譲渡人と譲受人以外の人に証明するためには、必ず書面で残しておくのべきです。
相続分の放棄とは
相続分の譲渡と似た手続として、相続分の放棄があります。
相続分の放棄は、放棄する相続人が持つ相続割合を、他の相続人が取得することになります。
例えば、父親が死亡し、母親もすでに他界しており、両親には子3人(長男、二男、三男)いた場合、相続人である子3名の法定相続分はそれぞれ3分の1になりますが、このとき、三男が相続分の放棄をすると、三男の法定相続分3分の1を長男と二男で取得することになります。つまり、長男と二男の相続分は元々の3分の1に、三男の相続分の放棄によって取得した6分の1を加えた2分の1をそれぞれ有することになります。
「相続放棄」と「相続分の放棄」の違い
相続放棄は家庭裁判所での申述が必要であり、自己のために相続開始があったことを知ったときから3ヶ月以内という期間制限がありますが、相続分の放棄であれば家庭裁判所を通じた手続きは不要であり、単に他の相続人に対して放棄の意思表示を行えば出来ますし、期間制限もありません。
この点で相続分の放棄の方が簡単に行うことはできますが、相続分の放棄では借金(債務)の弁済義務は消えませんし、遺産分割協議へも参加する必要があります。
他方、相続放棄の場合、家庭裁判所という公的な期間を通した手続きですから、その分効果としても大きく、借金の弁済義務は消滅しますし、遺産分割協議への参加もする必要自体がなくなるという点でメリットが大きいです。
【まとめ】相続分を譲渡するか迷われたら弁護士に相談を
相続分を譲渡する際は、早期に現金化できることや遺産分割協議に参加する必要がないなどメリットがある一方で、負債も相続する可能性があることなどデメリットもあります。
また相続放棄をするか相続分の放棄をするか、個別にかつ慎重に判断する必要がありますので、お悩みの方はお気軽に当事務所までご相談ください。
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