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誹謗中傷や名誉毀損で訴えられる基準とは?

まえがき

パリ五輪開催期間中、日本では日本人選手による金メダル獲得のニュースが連日流れており、私も楽しく観戦し、自分ももっと頑張ろうとポジティブな気持ちをアスリートの方々からいただきました。しかし、一方で、アスリートや審判に対して誹謗中傷のコメントが数多く寄せられているというニュースもありました。

確かに、一言言ってやりたい外国選手や審判がいましたし、投稿者の気持ちも分かる面もあるのですが、インターネット上の誹謗中傷の書き込みは一度投稿すれば全世界の誰もが目にできる状況に置くということを意味しますから、本当に投稿は慎重に考え、もしかしたら巡り巡って誹謗中傷した本人が目にするかもということまで考えた上できつい言葉や度を超えた表現は投稿すること自体を控えていただきたいと思っております。

法的にも、内容によっては民事上の不法行為責任のみならず、刑事事件としての犯罪も成立する可能性があります。

こうした社会問題化しているインターネット上の誹謗中傷に対しては、法改正も進められており、最近では令和4年7月7日施行の刑法改正による侮辱罪の法定刑引き上げ、令和4年10月1日にはプロバイダ責任制限法が改正され、発信者情報開示命令制度が新設され、令和6年5月17日にはそのプロバイダ責任制限法がインターネット上の誹謗中傷に対し削除申請がし易くなるよう法整備され、名称も情報流通プラットフォ―ム対処法(施行日は公布日から1年以内)へと改正されます。

それでは、インターネット上において誹謗中傷の被害を受けた、誹謗中傷に当たるような書き込みをしてしまった場合、誹謗中傷で訴えられる基準はどこからなのでしょうか。

 

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誹謗中傷とは?

法律上、誹謗中傷という言葉はありませんし、誹謗中傷に関する定義などの規定も存在しません。

一般的に、誹謗中傷とは、誹謗と中傷を組み合わせた言葉であり、誹謗とは人の悪口を言うこと、中傷とは根拠のない内容で人を貶めること、をいうとされています。

よく比較する言葉に「批判」がありますが、批判は物事の良し悪しを評価したり、論ずることをいい、単に相手を否定したり、攻撃する誹謗中傷とは区別されます(ただし、明確に区別できるものではありません。)。

 

誹謗中傷の書き込みによる成立し得る犯罪

誹謗中傷に当たる書き込みをした場合、民法上の不法行為責任は成立し得ますが、刑法上成立し得る犯罪はいくつかあります。

名誉毀損罪(刑法230条)

刑法上、名誉毀損罪は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」と規定されています。

誹謗中傷で訴えられる基準を考えるにあたっては、名誉毀損罪その他犯罪の構成要件に該当するかどうかを考慮する必要があります。

名誉毀損罪の構成要件は、「公然と」、「事実を摘示して」、「人の名誉を毀損した」ことにあります。

「公然」とは不特定又は多数人が閲覧することができる状態をいいます。インターネット上の書き込みは誰でも見ることができますので、ブログ、掲示板、SNSの投稿欄、動画のコメント欄などの書き込むことは、この「公然」性の要件を満たすことになります。ただし、DM上での誹謗中傷の場合は、不特定多数の人が閲覧できる状態ではありませんので、原則として公然性を満たしません。一方で、特定少数であってもそこからさらに伝わる可能性が高ければ公然性が認められる場合もあります(伝播性の理論)。もっとも、DM上での誹謗中傷であっても、脅迫や恐喝等の犯罪行為に当たる場合には、警察は犯人を特定することは可能です。

次に、「事実を摘示して」とありますが、その人の社会的評価を低下させるような具体的な事実を摘示することをいいますが、摘示する内容は真偽を問わず、一般的に知られていない事実でも広く知れ渡っている事実でも当てはまります。
最後に、「名誉を毀損」です。もう少し平たく言いますと、人の社会的評価(客観的・外部的評価)を低下させる(評価を落とす)ことをいいます。名誉毀損罪は、結果的に社会的評価が低下していなくても成立する犯罪ですので、社会的評価が低下する危険性がある書き込みをした時点で成立します。
また、名誉毀損罪の成否を検討するにあたって、注意が必要なのが、同定可能性と違法性阻却事由の有無です。

同定可能性とは、つまり、自分に対する書き込みではあるが、第三者から見てもそれがわかるようでなければ同定可能性が認められません。またその書き込みが公共の利害に関する事実であったり、公益を図る目的にあること、事実の真実性が証明された場合は違法性阻却事由が認められ、名誉毀損罪は成立しません。但し実務上、裁判所の判決で違法性阻却事由が認められることはそれほど多くありません。

結論として、誹謗中傷、とりわけ名誉毀損罪で訴えられる基準は、書き込みの内容から①公然性、②事実の摘示、③社会的評価の低下、④同定可能性、⑤違法性阻却事由の有無を検討することになります。

 

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侮辱罪(刑法231条)

誹謗中傷が名誉毀損罪に当たらなくても侮辱罪が成立する可能性があります。

侮辱罪は、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」と規定されています。

「侮辱をした」とは簡単に言いますと事実の摘示なく軽蔑の表示をしたということになります。軽蔑ですので、ブス、バカ、キモイ、キチガイなど客観的には本当かわかりませんが、個人の主観的な悪口を具体的に事実を指摘することなく書き込んだ場合は侮辱罪が成立し得ることになります。

公然性に関しては、名誉毀損罪と同じですが、事実の摘示や違法性阻却事由の有無の要件は侮辱罪では求められません。

インターネット上ではあらゆる言葉を使って誹謗中傷がなされていますので、例を挙げるとキリがないのですが、侮辱罪は名誉毀損罪と比べて、成立する範囲は広いといえるでしょう。

ちなみに、事実の摘示の有無の判断基準は、「証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項」に該当すれば事実の摘示があるとする最高裁の判例があります(最判平成10年1月30日)。

信用毀損及び業務妨害罪(刑法233条)

誹謗中傷によって低下するのは社会的(客観的・外部的・主観的)に限られません。経済的な側面における人(又は法人)の社会的評価が低下することもあります。

刑法上、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と規定されています。

信用毀損罪(刑法233条前)も名誉毀損罪と同様、社会的評価が低下する危険性がある書き込みをした時点で成立しますが、公然性は要件に含まれませんので、少数の者に伝達する場合も当たります。そして、信用毀損罪において肝心の「虚偽の風説を流布」又は「偽計を用いて」ですが、「虚偽の風説を流布」とは客観的事実に反する噂や情報を伝えること「偽計を用いて」とは相手を騙す、人の勘違いや無知を利用するなどして虚偽の情報を流す方法が偽計とされます。

このように、名誉毀損罪の場合書き込んだ内容の真偽は問われませんが、信用毀損罪の場合は真実であれば成立しません。客観的事実に反する情報や虚偽の情報を伝えることが構成要件となっているからです。

 

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各罪で訴えられる基準は?

インターネット上の誹謗中傷に対して、主に成立し得る犯罪について名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪をご紹介しました。

もっとも、これら犯罪以外にも行為態様によっては脅迫罪、ストーカー規制法違反などにあたる可能性もあります。

では、誹謗中傷の被害に遭った方であれば投稿者に法的責任を追及できるのか、または、誹謗中傷に当たる書き込みをしてしまった方が名誉毀損罪などで刑事告訴されてしまうのか、被害者に訴えられる基準はあるのでしょうか。

結論としては、訴えてくるか否かは被害者次第です。被害者以外、誰にも分かりません。

実際問題、こういう書き込みが名誉毀損罪に当たる、という明確な基準はありません(それ故に裁判所の判決においても、棄却されたりするケースも世の中で多々あるわけです。最終的には裁判官が決めることになります)。書き込みの一部だけを切り取れば一見犯罪に当たらないよう場合でも、全体で見れば犯罪に当たると評価できるケースもあるからです。さらに、裁判例においても、判断が分かれているような投稿内容も見られます。

そのため、弁護士に相談する際には、誹謗中傷に当たると思われる書き込みをスクリーンショットで保存するなどしておくと良いでしょう。その際にはスマホからではなくパソコンから、当該投稿ページのURL全文が最後まで見える形でスクショを撮影してください。

書き込みの内容から、事実の摘示はあるのか、これによって社会的評価は低下したのか、同定可能性は認められるか、など総合的に検討して誹謗中傷に対する法的対応についてアドバイスできます。

 

最後に

インターネット上では今日もどこかで多数の誹謗中傷の書き込みがなされています。

その内容によっては名誉毀損罪や侮辱罪に当たる可能性もありますが、当たらない可能性も勿論あります。その他刑事責任だけでなく、民事上の損害賠償責任が生ずる可能性もあります。

しかしながら、訴えられる明確な基準は結論としてはありません。被害者が「弁護士に相談しました。」、「警察に相談しました。」と行っても嘘であるケースも多々ありますし、本当に相談して弁護士に開示請求を依頼しても裁判官の判断で開示が認められないこともあります。

投稿者を特定するための発信者情報開示請求にしても最終的な判断は裁判官によってなされますし、心証形成に至るまでの主張立証責任を果たしていかなければなりません。また刑事告訴をするにしても、証拠や捜査機関と協議しながら受理してもらわないとなりません。

これらはかなり高度な知識を要するところですが、当事務所ではインターネット上の誹謗中傷被害遭っている方、誹謗中傷の書き込みをしてしまった方からのご相談を受けておりますので、お悩みの方はお気軽にご相談ください。

 

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