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犬同士が喧嘩して互いに噛みつきあって怪我を負わせてしまった場合の飼い主の責任

はじめに

以前のコラムでは、犬は法律上「物」として扱われるということはお伝えしました。

そして、飼い犬が他人にケガを負わせてしまった時は、原則として占有者である飼い主がその責任に対応することになります。具体的には、刑事では過失傷害罪、民事では損害賠償請求を受ける可能性があります。

では、公園内やドッグラン施設内での犬同士の噛みつきの場合、飼い主はどのような法的責任を負うのかについてご紹介します。

 

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♦ ペットと法律問題

事例に基づく解説

犬同士の噛みつき事故であっても、場合によっては裁判にまで発展するケースがあります。実際、当事務所でも他人の飼い犬に噛まれてしまったという事案で、裁判(しかも和解が成立せずに判決まで)になったケースがありますが、噛まれたという被害者側の主張が全面的に認められた判決結果となっています。

例題として、あなたと飼い犬Xがある公園内を散歩していたとします。すると、飼い犬Yを連れたAさんと飼い犬Zを連れたBさんが立ち話をしていました。あなたとAさん及びBさんは以前から顔見知りであったため、あなたもAさんとBさんの立ち話に加わって話をすることにしました。その時、各飼い犬の状況はXとYはリードに繋がれていましたが、Zはノーリードの状況でした。

しばらくすると、飼い犬Zが歩き始めたため、飼い犬YがZに唸り、それに反応したあなたの飼い犬Xは、飼い犬Yの臀部に噛みつき、Yにケガを負わせてしまいました

このようなケースで、Xの飼い主であるあなたにはどのような法的責任が問われるのでしょうか。

動物占有者の責任

動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負います(民法718条1項本文)。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りではありません(同項ただし書)

つまり、動物占有者は、原則として、他人に加えた損害を賠償する責任を負いますが、例外的に、相当の注意をもって管理をしていたと立証し認められればその責任は負いません。

この「相当の注意」について、過去の判例で「通常払うべき程度の注意義務を意味し、異常な事態に対応できる程度の注意義務まで課したものではない。」(東京地判平成19年3月30日)とされています。

やや抽象的な言い回しですが、相当の注意を尽くしていたかどうかは、ケースバイケースの判断になります。相当の注意を尽くしていたとはいえないと判断された過去の事例として、体長約80センチ、体重約25キロの犬を15分間置いて離れたことや、首輪とリードを付けていたとしても、噛みついたのは散歩中の出来事であるから、首輪とリードのみでは他人に噛み付くことを防ぐには不十分な対策である、とされたケースがあります。

このように、実務上、裁判で「相当の注意」をきちんと払っていたと認められるためのハードルは結構高いです。

 

逆に、「相応の注意」を尽くしていたとされた判例では、「本件ドッグランのフリー広場は、犬を引き綱から外して、自由に走り回らせることを可能にする施設であるから、ここに立ち入る者は、飼い主の監視及び制御可能性の下で、犬が引き綱から解き放たれ、自由に走り回ることが許され、現に自由に走り回っていることを前提として行動すべきであり、他方、飼い主も、上記施設は一般に開放され、多くの人が利用することが予定されているのであるから、犬を解き放てば後は全く注意義務を負わないのではなく、通常払うべき程度の注意義務を負うものというべきである。」としています。

 

今回のケースで責任を負うか否かは、端的に言うと、飼い犬Xが飼い犬Yに噛み付かないよう、Xの飼い主であるあなたは相当の注意をしていかどうかがポイントになります。

 

実際の判例

今回のケースの類似判例として、東京地判令和3年5月14日があります。

先ほどのケースから発展して、その後ケガをした飼い犬Yの飼い主Aから、飼い犬Xの飼い主であるあなたに対して、治療費や慰謝料を求めて、訴訟が提起されました(おそらくは飼い主同士の話し合いでは解決しなかったのでしょう)。

 

裁判所は、被告(あなた)には、飼い犬Xが飼い犬Yに危害を及ぼすようなことがないよう、飼い犬Xの動静に注意し、Yと十分な距離を取るか、YがXに近づいた場合はリードによってXを適切に制御すべき義務があるのにこれを怠ったとして、Xの飼い主であるあなたに事故によって生じた損害を賠償すべき責任を負うとして、治療費や慰謝料の支払いを被告であるあなたに命じました。

なお、飼い犬Zの飼い主Bは、本件訴訟の当事者に含まれていなかったため、Zのノーリードについては裁判所の判断はありません。

 

まとめ

多くの犬同士のかみつき事故は、飼い主に故意がなくても、ちょっとしたことで飼い犬が反応し、それによって予想外の行動を起こし、飼い主にとって想定外の被害を受けたり、与えたりしてしまうことがあります。

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