業務上横領被害による刑事告訴のデメリットは?証拠がない場合や返済された場合も刑事告訴できる?
会社内部の者による不正行為の一つに、会社財産の横領(着服)があります。
会社が業務上横領被害を受けた際に、経営者が気になるポイントとしては、民事上での損害賠償請求等と並行して、刑事事件として刑事告訴をするべきなのか、証拠がなくても刑事告訴できるのか、そもそも証拠がないときはどうするか、といったところになるでしょう。
そこで、今回は、刑事告訴が正しい選択なのか、証拠がないときはどうするのか、などについてお伝えします。
業務上横領罪の構成要件と法定刑
業務上横領罪(刑法253条)は、業務上自己の占有する他人の物を横領したときに成立する犯罪です。
業務上横領罪の典型的な例は、従業員が会社の口座から金銭を自分の口座に移したり、従業員が会社の備品を質屋に入れて転売したり、といったケースです。
こうした業務上横領罪が成立し、逮捕・起訴されると10年以下の懲役になります(刑法第253条)。
実際、どの程度の刑罰になるのかは被害金額によるところが大きく、被害金額が数千万円に及び被害弁済が一切行われていないなどの事情があれば、犯人に前科がなくとも、一発実刑となる可能性が高いです。
被害金額が大きく、被害弁償がなされていない(あるいはなされていても全額の被害弁済がなされていない)ようなケースでは、被害者の処罰感情も峻烈であることが多く、犯行態様や動機、社会的影響なども総合的に考慮されますが、実刑判決となる可能性は高いです。
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刑事告訴をするメリットとデメリット
メリット
業務上横領で刑事告訴をするメリットとして、まず挙げられるのが犯人に刑事責任を負わせられる可能性があることです。
刑事告訴は犯人に対する処罰の意思表示も含まれますので、刑事告訴が受理されれば、必然的に捜査が開始され、捜査の結果、犯人が逮捕されることがあります。さらに、起訴となれば10年以下の懲役となる可能性もあります。
次に、被害金の返済につながりやすいところにあります。
まず、犯人が行った横領行為については、犯人が既に横領した金員を賭博などに使い切ってしまって犯人自身に返済能力がないケースが多く見られます。このような場合、入社時に身元保証契約を締結していれば別ですが、そうでない場合には犯人の両親には法的に被害金の返還や賠償を請求をすることはできませんので、仮に親に資力があってもやられ損となりかねません。
刑事告訴をすれば、必ずとは言えませんが、親が援助を申し出てくることも多く、犯人及び犯人家族からすれば、被害弁済をして不起訴処分を得るか、少しでも刑を軽くして実刑を回避しようとする動きが出ることがあります。全額かどうかはケースバイケースですが、刑事告訴をすることで被害金が(一部でも)返済される可能性はあります。
最後に、社内に対する示し(今後の犯罪の抑止)にもなります。
業務上横領被害があれば、会社として当然犯人を懲戒解雇にすることになりますが、刑事告訴をすることで社内に対して再発防止や秩序維持になることもあります。
デメリット
一方で、デメリットもあります。
メリットのところでも挙げましたが、刑事告訴をすれば被害弁済がなされるわけではありません。あくまで刑事告訴は犯人に処罰を求める行為になりますので、被害金の賠償等については民事訴訟にて行うのが原則です。したがって、まずは、刑事告訴をするのであれば、犯人との間で、被害弁償の交渉をしてみることが必要となるケースもあるでしょう。
また警察の捜査にも協力しなければなりません。証拠を揃えて刑事告訴が受理された後も、警察は必要とあれば関係者から聴取することもありますし、新たな証拠の提出を求められることもあり、捜査にも1年以上は掛かることが多く、従業員の少ない会社では通常の業務に支障をきたすことがあります。
そして、刑事告訴は確かに、犯人に対する処罰の意思表示を捜査機関に示すものではありますが、刑事告訴をしたからといって、必ずしも不起訴となるわけではなく、そもそも逮捕されないこともあります(ただし在宅捜査として捜査自体は行われます)。
証拠がないとき
業務上横領罪は、行為態様からして会社にバレないようにされることが多いです。そのため、横領被害の判明までに時間がかかり、証拠がほとんどないというケースも当然あり得ます。
業務上横領罪で刑事告訴をするとなると、ある程度の証拠は必要になります。この場合の証拠としては、防犯カメラの映像や口座の入出金記録などが挙げられます。
こうした証拠をできる限り集めることが刑事告訴やその他対応(懲戒解雇、損害賠償請求など)をするに当たっては重要となります。
証拠を集める際には、誰が、いつ、どこで、何を、どうやって、横領したのかという観点から集めるとよいでしょう。
もちろん、証拠がないとき、会社としてやってはならないことは、本人に対して問い質したり、横領したと決めつけて自白を強要するようなことはしてはなりません(強要して取られた自白は証拠能力自体が否定される可能性があります。)。また、それらをもって懲戒解雇したとしても、不当解雇として懲戒解雇が無効とされたり、その他刑事告訴が受理されない、横領被害金額も回収できなくなるという事態に陥ることがあります。
会社として最善の方法は何かを考えるべき
会社内部の者による横領行為に対して、会社として、どのような対応をしていくかを決断しなければならないときがあります。
その際にポイントとなるのが、被害金の回収を優先するのか、社内秩序維持のために刑事告訴をするのか、内規によって懲戒解雇するにとどめ横領の事実自体を公表させない方向でいくのか、になると思います。
会社として優先すべき利益はどこにあるのか、会社を守るために何が有効な手段となるか、というところから考えてみてもよいかもしれません。
確かに、横領行為は犯罪行為でもあるため犯人の処遇を捜査機関に委ねることも選択肢の一つですが、刑事告訴をする際のデメリットや、殆ど証拠がないなどのケースに応じて、最善の方法をとることに努めるべきです。
被害額が全額返済されている場合は?
業務上横領被害にあった後に、犯人から被害額が全額弁済されたというケースもあり得ます。
その場合でも、捜査機関に刑事告訴や被害届を提出しても問題ないでしょうか。
結論から言いますと、刑事告訴や被害届を提出したとしても、被害額が弁済されているのであれば、警察としては被害が回復しているとして事件は解決済みとして扱うか、犯人に聴取したとしても聴取した上で不起訴となる可能性が高いです。
最後に
業務上横領罪で刑事告訴する際のデメリットや被害金額が全額弁済された場合、会社としてやってはいけないことなどについてご紹介しました。
刑事告訴は、できる限りの証拠を集め、警察に受理されやすいような告訴状を作成することが重要です。
また刑事告訴でなくても、犯人との柔軟な交渉を行うこともケースによってはあり得る話ですので、会社として迅速かつ適切な対応をする必要がありますので、業務上横領の被害に遭われた際は速やかに当事務所までご相談ください。