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YouTube動画への映り込みは肖像権侵害に当たる?

今では誰もが街中などで撮影した動画や画像をインターネット上にアップすることができますが、中には、他人が映りこんでしまって、それが肖像権を侵害しているのか、特に手軽に誰もが投稿し、又は閲覧できるYouTubeでは、肖像権が侵害されているとして、当事者同士で争いになるケースがあります。

実際に自分が写っている、又は自分が撮影した動画や画像に肖像権侵害があるといえるのか、判断基準はあるのか、などについてご紹介したいと思います。

 

肖像権とは

肖像権という権利は、憲法上直接規定されている権利ではありませんが、過去の裁判例により法的権利として認められている権利です。

判例(最判昭和44年12月24日)では、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有するものというべきである。」としており、これがいわゆる肖像権の保障を表したものと考えられています。

また、別の判例(最判平成17年11月10日)では、上記判例を引用する形で、「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する。もっとも、人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」としています。

肖像権は、一般的に、人格権(プライバシー権)と財産権(パブリシティ権)からなるものといわれています。このうち、財産権は、著名人などのネームバリューから生じる経済的利益や価値を指していますので、一般の方がよく言う肖像権は、主に人格権を指します。

人格権(プライバシー権)とは、本人が公開されたくない私生活上の情報をみだりに公開されない権利をいい、例えば、名前、住所、勤務先、家族構成などが当てはまります。

 

肖像権侵害にあたるかの判断基準

他人が映りこんでしまった動画や画像、あるいは自分が写っている動画や画像が、肖像権を侵害しているかについての5つの判断基準は裁判例などによって示されています。

 

個人が特定できるか

肖像権侵害の問題は、主に個人が特定できるような状態で撮影・公開されている時に起こり得ます。そのため、顔や服装、姿態がはっきりとわかるように映っている場合は肖像権侵害に当たる可能性がありますが、モザイクがかけられていたり、ピントが合っていなかったり、映り込みが小さかったりした場合は肖像権侵害にあたるとは言い難いでしょう。

また屋外での撮影時に、通行人の顔が写りこんだ程度のものであっても肖像権侵害にはあたらないでしょう。

 

撮影された本人の許可があるか

肖像権は、「何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する」ものですので、本人の承諾なく撮影された写真や動画は、肖像権を侵害している可能性が高いといえます。また撮影の許可は得ていても、公開の許可を得ていない場合にも同じく肖像権侵害といえるでしょう。

許可を得る際には、動画撮影の目的や公開先などの説明を十分にした上でないと、後々トラブルになる可能性があります。

 

プライベートな空間で撮影されたか

平成17年の最高裁判例が示した基準のうち、撮影による人格的利益の侵害が社会通念上受忍の限度を超えるものであるかどうかは、本人の許可があるかなどの要素を総合的に考慮しますが、どのような場所で撮影されたかについて特に大きく影響します。

例えば、撮影場所が自宅やホテルの部屋、病室といった場所はプライベートな空間といえるため人格権(プライバシー権)の侵害に当たる可能性があります。しかし一方で、駅前とか街中といった公共の場所(いわゆるパブリックフォーラム)は、誰でも出入りが自由ですし、撮影されている姿をそこを通る人に見られたに過ぎないので、肖像権侵害が成立する可能性は低いでしょう。

 

拡散性の高いところで公開されているか

肖像権(特に人格権)の侵害は、許可なく撮影するだけでも成立する可能性は十分にありますが、撮影した動画を許可なくネット上に公開した場合には、肖像権の侵害が成立する可能性が高くなります。

 

 

受忍限度を超えるかどうか

冒頭でご紹介した最高裁判例では(最判平成17年11月10日)、「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する。もっとも、人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」としています。

つまり、肖像権(人格権)侵害の場合、受忍の限度を超えるものといえるかどうかも判断基準の一つとなります。

そして、受忍限度をこえるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性から判断されます。

例えば、撮影場所は公共の場所にするとか、悪意のある加工をしないとか、匿名性のアンケートなどで代替できないかなどになります。

特に、受忍限度と撮影場所に関して、最近の判例では、YouTube上に投稿された動画の内容が、被撮影者が警察官によって白昼の路上で逮捕された状況であり、受忍限度を超えたものであるとして、公共の場所での撮影であっても動画の内容が原告の名誉感情を侵害するとしたものがあります。

 

肖像権侵害と言われないために

本人の許可を得ることが望ましい

動画撮影・公開において、やはり本人の許可を得ることが望ましいでしょう。許可が得られなければ、トラブル回避のためにも、撮影や公開は控えるべきです。

また撮影にあたっては目的や使途などについて十分な説明をすることも重要です。

 

特定できないよう加工する

撮影の際には背景に通行人の顔が写りこんでしまうことはある程度はやむを得ないでしょう。しかし、そのような場合であっても、大きく映りこまないように撮影方法に配慮したり、特定できるほど映りこんでいる場合には、特定できないようモザイクをかけるなどして肖像権侵害のトラブルを回避することが重要です。

 

【被害者向け】肖像権を侵害されたとき

ここまでお読みになって自分の肖像権が侵害されていると思われた場合は、まずは投稿者に削除を依頼しましょう。

しかし、場合によっては、当事者同士では埒が明かないこともあります。そのような時はサイト運営者(YouTubeであればGoogle社、Instagramであればメタ社など)に専用のフォームを利用して削除依頼をすることができます。

またこれ以外にも弁護士に相談して、投稿者との交渉、運営会社に対する削除依頼などを代行してもらい、状況によっては法的手続をとることもあるでしょう。

 

 

どのような解決方法が最も早いのか、又は根本的な解決になるのか、これらについてはケースバイケースでの判断です。

肖像権侵害でお悩みの方は、この辺りも含めてアドバイスすることができますので、お気軽に当事務所までご相談ください。

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