未成年者略取及び誘拐罪での刑事告訴
目次
SNSで普及し、誰でも気軽に投稿できる時代ではありますが、Xや出会い系サイトでは、未成年者による「家出した」、「泊るところがない」という投稿をきっかけに(「神待ち」(=家に泊めてくれる神様待ちという意味)等と言われます)、レイプや殺人など重大な犯罪に発展してしまうこともあります。
また、こうした投稿以外にも、離婚した夫婦間の子を一方当事者が勝手に連れ去ったことで誘拐罪になるのでは、という昔からの問題もあります。
今回は、こうした未成年者を略取又は誘拐した場合に成立する犯罪として未成年者拐取罪(刑法224条)について、よくあるケースも交えながらご紹介したいと思います。
未成年者略取及び誘拐罪とは
未成年者略取及び誘拐罪とは、未成年者を略取又は誘拐する犯罪行為をいいます。
略取と誘拐を合わせた言葉で拐取(かいしゅ)と呼ばれることもありますが、ここでは略取と誘拐それぞれについてご紹介したいと思います。
構成要件(犯罪の成立要件)
未成年者略取及び誘拐罪が成立するためには、①略取誘拐された者が未成年者であること、②略取又は誘拐がなされたこと、③故意、が必要となります。
未成年者
未成年者について刑法上の定義はありません。そのため、民法の規定に基づきますが、民法では、令和4年の改正により、成人年齢が18歳に引き下げられました(民法4条)。
したがいまして、未成年者略取及び誘拐罪による被害者(略取又は誘拐された者)の年齢は18歳未満ということになります。
略取又は誘拐
略取とは、暴行又は脅迫を手段とする場合、誘拐とは、欺罔又は誘惑を手段をする場合をいい、これら手段を用いて、未成年者を現在の生活状態から離脱させ、自己又は第三者の実力的支配下に移して行動の自由を奪うことをいいます。
つまり、略取も誘拐も、行為の結果としては同じですが、結果を生じさせる手段に違いがあります。
故意
最後に、故意です。
未成年者略取及び誘拐罪における故意は、平たく言いますと、未成年者を拐取するという認識・認容のことをいいます。
未成年者略取及び誘拐罪は親告罪
未成年者略取及び誘拐罪は、親告罪であるため(刑法229条)、未成年者本人又は親など告訴権者からの刑事告訴がなければ処罰されることはありません。
つまり、略取等の被害事実があれば勝手に捜査機関が捜査してくれるものではなく、刑事告訴があって初めて処罰され得るということになります(ただし、捜査機関の捜査自体は告訴前であっても行われます。)。
家出少年・少女を保護しても犯罪?
例えば、「家出したい」というSNS上の書き込みをみて、やり取りをし、自宅に連れ込んで泊めたケースでは、未成年者略取・誘拐罪の成否については、未成年者からの同意があったとしても、未成年者の親権者の同意がなければ、未成年者略取及び誘拐罪が成立します。
未成年者本人の同意があれば成立しない?⇒「親権者の同意」が必要です。
未成年者略取及び誘拐罪は、未成年者の自由だけではなく、親の監護権も保護法益に含まれると考えられています。
つまり、未成年者本人の同意があっても、親の同意がなければ、未成年者略取及び誘拐罪が成立します。親の同意については、両親がいれば両親から、片親しかいないのであればその親からの同意が必要になります。
同意に関して、特に争点となるのが、別居中の一方親権者が他方親権者の監護養育下にある子を連れ去った場合に、未成年者略取及び誘拐罪が成立するといえるか、ということです。
この点については、最高裁判例(最決平成17年12月6日)が、一方親権者は、他方親権者の下から子を奪取して自分の手元に置こうとしたものであって、そのような行動に出ることにつき、子の監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められないから、その行為は、親権者によるものであるとしても、正当なものということはできない。また本件の行為態様が粗暴で強引なものであること、子が自分の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていない2歳の子であること、その年齢上、常時監護養育が必要とされるのに、略取後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いことなどに徴すると、家族間における行為として社会通念上強要され得る枠内にとどまるものと評することもできない、としています。
つまり、離婚係争中で別居中の一方親権者が、他方親権者の監護養育の下にある未成年の子を有形力を用いて連れ去った場合、一方親権者が行った行為が、その子の監護養育上、現に必要とされるような特段の事情がある場合や家族間の行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまる場合は、違法性が阻却されるとしています。
他の犯罪が成立する可能性も?
単純に未成年者を拐取した場合は、未成年者略取及び誘拐罪が成立することになりますが、何らかの目的をもって拐取した場合は、他の犯罪が成立し、未成年者略取及び誘拐罪よりも重い罪に問われる可能性があります。
例えば、身代金を得る目的で人を拐取した場合は身代金目的等略取罪(刑法225条の2)が成立し、この場合の「人」は未成年者に限られません。
ちなみに、身代金目的等誘拐罪はその準備をした者に対し2年以下の懲役に処されることもあります。
まとめ
未成年者略取及び誘拐罪は、家出少女を連れ込んで泊めたり、別居中の一方当事者の下にいる子を連れあったりすれば成立し得る犯罪です。宿がなくて可哀想だし危険だからと安易な気持ちで未成年者を自宅やホテルに泊めると、逮捕され実名報道になる可能性も高い犯罪です。
さらに、身代金やわいせつなどの目的をもって誘拐すれば、別の犯罪が成立することもあります。
特に、別居中の自分の子を連れ去る行為は、行為態様などからして犯罪にあたる場合もあれば、違法性が阻却され罪に問われない可能性もあります。
自分の子だから問題ないと誤解して犯罪者にならないよう注意する必要があります。