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口座の売買、譲渡・譲受は犯罪収益移転防止法違反、詐欺罪に問われる

犯罪収益移転防止法とは

正式名称は、犯罪による収益の移転防止に関する法律といいます。

この法律が制定された目的は、犯罪者や犯罪組織、テロ組織などへの資金供給を絶つことで犯罪行為による被害を減らし、犯罪行為で得られたお金がビジネスで使われないようにするためです。

つまり、この法律は、犯罪によって得られたお金がマネーロンダリングやテロ資金供与などに利用されるのを防止するため金融機関等に本人確認などの義務を課しています。

制定当初は、専ら金融機関等への義務付けに関する規定でしたが、口座を利用した犯罪行為が続発したため、平成23年に改正され、口座の売却や譲渡に対する罰則が強化されています。

 

犯罪収益とは

犯罪収益移転防止法上、犯罪収益(犯罪による収益)とは、組織的犯罪処罰法2条4項又は麻薬特例法2条5項に規定する犯罪収益等をいうとされています(犯罪収益移転防止法2条1項)。

組織的犯罪処罰法2条4項では、犯罪収益、これに由来する財産又はこれらの財産とこれらの財産とこれらの財産以外の財産とが混和した財産をいい、麻薬特例法2条5項は、薬物犯罪収益に由来する財産又はこれらの財産とこれらの財産以外の財産とが混和した財産をいいます。

 

 

特定事業者に課せられる義務

犯罪収益移転防止法は、特定事業者による措置が規定されています。

特定事業者として挙げられているのが、金融機関の他、宅地建物取引業者、郵便物受取りサービス業者、弁護士や司法書士なども含まれています。

こうした特定事業者は、預貯金口座の開設時などの取引時の確認、確認記録の保存、疑わしい取引の届出、が義務付けられています。

つまり、特定事業者は、特定取引を行う際、顧客に対する本人特定事項、取引の目的(口座開設であれば開設の目的など)等の確認が必要です(犯罪収益移転防止法4条)。

また特定事業者は、取引時確認を実施した場合又は特定業務に係る取引を行った場合、確認記録又は取引記録を作成し、これを7年間保存しなければなりません(犯罪収益移転防止法6条及び7条)。

さらに、特定事業者が取引に係る業務遂行の過程で、収受した財産が犯罪収益ではないかとの疑いをもった場合には、「疑わしい取引」として、速やかに行政庁に届け出なければなりません(犯罪収益移転防止法8条)。疑わしい取引であるかどうかの基準は、取引時確認の結果や取引の態様、その他の事情を考慮すると明確化され、特定事業者側で判断することになっています。この届出義務に違反した場合は、特定事業者は2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこの両方に処せられます(犯罪収益移転防止法25条)。

 

行政庁の特定事業者に対する監督

行政庁は、特定事業者を監督する立場にあり、具体的には、特定事業者に対し、必要な限度で、報告又は資料の提出を求めることができるほか、立入検査や指導、是正命令を出すことができます。

こうした行政庁の監督行為に対して、特定事業者が違反行為をした場合には、1年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこの両方に処せられます(犯罪収益移転防止法25条及び26条)。

 

他人に自己名義の口座を売れば、罰則を受ける

今までご紹介した内容は、主に特定事業者の義務違反に対する犯罪収益移転防止法上の罰則についてでした。

しかし、犯罪収益移転防止法は、平たく言いますと、一般の方が口座売買をした場合についても罰則を設けています。

つまり、自己又は他人名義の口座(通帳・キャッシュカード)を譲り渡す(譲り受ける)行為をした場合、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又はこの両方に処せられます(犯罪収益移転防止法28条1項及び2項)。

今ではネットバンキングもあり、ログインに必要なIDやパスワードを譲り渡す(譲り受ける)行為も同じく、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又はこの両方となります。

最近では、SNSで高い報酬を謳い、コンタクトしたところ、口座売却をもちかけるという闇バイトもあります。

 

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詐欺罪や窃盗罪に問われる可能性も

口座譲渡が金融機関に対する詐欺罪(刑法246条)に当たる可能性もあります。

例えば、高い報酬に釣られて、SNSのやり取りの相手から「銀行口座を開設し、通帳とキャッシュカードを郵送してくれたら、報酬を得ることができる」というものであり、実際に口座を開設しようと銀行窓口に行ったとしましょう。

通常であれば、口座開設の目的を問われます。一般的には、給与振り込みのため、生活費のため、貯蓄のため、となります。開設した口座を売却(譲渡)するため、と言う人はまずいないでしょう。そうすると、口座を売却する目的を隠して、虚偽の目的を告げて口座開設をし、通帳やキャッシュカードを受け取ることになりますので、金融機関に対する欺罔行為、つまり詐欺罪が成立することになるのです。この場合、10年以下の懲役となります。

 

また詐欺罪の他に、ATMで引き出すパターンの場合には窃盗罪(刑法235条)が成立することもあります。

例えば、闇バイトの依頼内容が、「(売買された)他人名義の銀行口座の通帳とキャッシュカードを持って、その他人になりすまして、現金を引き出す」というものであった場合、他人の財産(金融機関のATM内の預金の占有)を侵害するものですので、窃盗罪が成立し、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。

 

 

銀行口座凍結のリスクも

銀行口座を売却したことが捜査機関に発覚した場合、売却した口座が犯罪行為に使われたことが判明した場合は、口座が凍結される可能性があります。口座が凍結されると、その口座での取引ができなくなります。それのみならず、口座売買に関する犯罪行為で処罰されれば、口座売買に関係のない他の自己名義の口座がすべて凍結されるほか、以後他の金融機関含めて口座開設が一切できなくなる場合もあります

 

口座に関するトラブルは、重い刑罰が科されることもある

近年、口座売却に関するトラブルは多くあり、金銭を得る目的で、又は軽い気持ちで、口座を売却してしまうと、犯罪収益移転防止法違反として、罰則を受ける可能性があります。

口座売却のみならず、開設の時点でも金融機関に欺罔行為を行えば犯罪収益移転防止法違反より重い罪である詐欺罪、他人名義の銀行口座からお金を引き出せば窃盗罪、が成立する可能性があります。

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