刑事告訴受理後に告訴を取り消すときの注意点
これまでの刑事告訴に関するコラムでは、受理に至るまでの過程を中心にご紹介してきましたが、告訴が無事に受理されたものの、その後の事情や心境の変化などにより、告訴を取り下げたいという場合は、どうすればよいのでしょうか。
手続上、告訴を取り下げることは可能
刑事告訴は、被害者が捜査機関に対し、被害事実を申告するとともに、犯人に対する処罰の意思表示をするものです。
告訴が受理された後は、捜査機関に捜査が義務付けられ、場合によって犯人は逮捕され、最終的には犯人が起訴されるか、不起訴処分となるかが決まります。
刑事告訴はこうした手続で進んでいきますが、もちろん手続の途中で取り下げることは可能です。ただし、告訴は、公訴の提起があるまでは取り消すことができます(刑事訴訟法237条1項)。
公訴の提起とは、検察官が起訴状を裁判所に提出する方法で行われます(刑事訴訟法256条1項)。
告訴は、被害者の処罰感情を尊重する観点から認められますが、公訴が提起された以上は公益も重視しなければなりませんので、このような取下げに関する期間制限が設けられています。
刑事告訴を取り下げるときの注意点
再告訴はできない
刑事訴訟法237条2項は、「告訴の取消をした者は、更に告訴をすることができない。」と規定されています。
つまり、告訴を一度取り下げてしまうと、警察の捜査や検察の処分に大きな影響を与えることにもなりかねないため、もう一度告訴をすることはできません。
刑事訴訟法237条2項の規定は親告罪について適用される
先ほどご紹介した刑事訴訟法237条2項の規定は、親告罪についての規定であると解されています。
そのため、再告訴ができないのは、親告罪についてのみということになり、それ以外の罪については適用されずにいつでも再び告訴することができます。
ただし、理論上再度の告訴が出来ることと現実問題として捜査機関が簡単に再告訴を受理してくれるか否かは全く別の話であり、捜査機関からは相当嫌味を言われ再告訴を拒まれるであろうことは火を見るより明らかと言えますので、告訴の取消しは慎重に行いましょう。
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告訴の取下げができる人は原則として告訴人だけ
原則として、告訴人だけが告訴を取り下げることができます。ただし、弁護士に依頼して、弁護士が代理人として告訴することもありますので、その場合でも代理人によって告訴を取り下げることができます。
一方で、親権者や後見人といった法定代理人であっても、法定代理人が自己の名で告訴した場合は法定代理人が取り下げることができ(未成年者等が取り下げることはできません。)、未成年者が自己の名で告訴した場合もやはり未成年者だけが告訴を取り下げることができます(法定代理人が取り下げることはできません。)。
告訴の一部の取下げは認められる?
例えば、告訴状に記載する被告訴人(告訴される人、つまり加害者)が複数いて、告訴状が受理され、その後そのうちの一人についてだけ告訴を取り下げることはできるでしょうか。
この問題は、非告訴人(加害者)が複数の共犯関係にあり、共犯のうちの一人のみと示談して告訴取下げを検討する際などに実務上問題となることが多いです。
結論から申し上げますと、誰か1人だけを対象として告訴を取り下げることはできません。
本来的に、告訴は犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示であることから、特定の犯人という個別的な問題とはならないためです。
加えて、刑事訴訟法238条1項は、親告罪について共犯の一人又は数人に対してした告訴又はその取消は、他の共犯に対しても、その効力を生ずると規定していることからも、複数いる犯人の中から一人を指定しても意味はなく、告訴又はその取下げの効力は犯人すべてに及ぶことになります。
裏を返せば、犯人が複数いる場合でも、必ず全員を被告訴人にしなければいけないわけではありません。
最後に
あまりケースとしては多くありませんが、告訴の取消しは捜査機関に対しても影響を与えるものですし、犯罪の種類によっては、再び告訴することはできません。
告訴を取消したいと考え始めたら、告訴を取消すことによって起こり得る影響などをよく考えるべきでしょう。
また弁護士に依頼して告訴が受理された場合でも、その弁護士に相談してアドバイスを受けるようにしましょう。