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発信者情報開示請求から刑事告訴する

インターネット上で誹謗中傷の被害を受けた場合、誹謗中傷の投稿者に対して法的責任を追及したいとお考えになるでしょう。

基本的に、とり得る手続としては、投稿者を特定するためには発信者情報開示請求、その後に民事上の損害賠償請求(慰謝料)を求める、又は刑事告訴をすることになります。

 

今回は、発信者情報開示請求から刑事告訴をする際の手続の流れについてご紹介したいと思います。

 

発信者情報開示請求手続

発信者情報開示請求の目的である投稿者を特定するためには、基本的にサイト管理者に対する発信者情報開示請求を経て、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求、の2段階の手続を踏むことになります。

 

サイト管理者に対する発信者情報開示請求

サイト管理者とは、文字通りサイトを管理運営する企業・団体であって、例えば、XであればX社(アメリカ法人)、Instagramであればメタ社(アメリカ法人)、TikTokであればTikTok社(シンガポール法人)、となります。

なお、サイト管理者に対して発信者情報開示請求をするためには、手続に必要な書類として、日本でいう法人登記簿謄本が必要でした。しかし、従前はこれら外国法人は日本で登記していませんでしたので、当該国から日本でいう法人登記簿を取得する必要がありました。現在では多くの外国の情報技術系企業が日本で登記しており、発信者情報開示請求手続に大きな支障はありません。

サイト管理者に対して直接投稿者の氏名や住所を開示するよう求めても、サイト管理者はこれら情報を保有していません。そのため、サイト管理者に対しては、IPアドレス(ネット上の住所)の情報を開示するよう求めます。

 

アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求

サイト管理者からIPアドレスなどの情報の開示を受けたら、それをもとにアクセスプロバイダを割り出します。アクセスプロバイダとは、ドコモやauなどです。

アクセスプロバイダは契約書情報として投稿者の氏名や住所を保有していることがほとんどですので、これら情報の開示を求めるため、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求をします。

 

法改正により発信者情報開示命令申立てができるように

発信者情報開示請求の基本的な流れはご紹介した通りですが、請求の法的根拠であるプロバイダ責任制限法が改正され、もう一つの手続として、発信者情報開示命令申立手続が新設され、2段階で行う必要があった発信者情報開示請求が一体的に行えるようになりました。

これにより、サイト管理者(コンテンツプロバイダ)とアクセスプロバイダに対する各請求を1回の裁判手続で審理することができます。

 

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投稿者に対して刑事告訴をする場合

冒頭でも触れましたが、ネットの投稿は民事上の損害賠償請求の対象になり得ますが、刑法が規定する犯罪に当たる可能性もあります。

どの犯罪に当たるかは、投稿内容によって異なりますが、ほとんど場合は名誉毀損罪(刑法230条1項)又は侮辱罪(刑法231条)、業務妨害罪(刑法233条)になります。

 

告訴期間に注意

刑法の場合、犯罪の種類によってはいつでも刑事告訴できるわけではありません。

例えば、名誉毀損罪や侮辱罪は親告罪といって、告訴がないと公訴を提起することができず、親告罪の告訴は犯人を知った日から6か月を経過したときはすることができません(刑事訴訟法235条)。

 

告訴状受理までのハードルは高い

発信者情報開示請求によって投稿者の氏名や住所の情報が開示され、その者に対する刑事告訴をすることにした場合、告訴状には投稿者のどのような行為がどの犯罪の構成要件にあたるのかを記載する必要があります。

そして、記載できたとしても、いざ警察に提出しようとすると、何かと理由をつけて告訴状が受理されない対応をされることがほとんどです(弁護士が代理で作成提出したとしても同じような対応をされることがあります。)。

 

刑事告訴受理後は捜査機関に任せるしかない

告訴状が受理されたとしても、その後の捜査の進展や最終的な起訴になるか不起訴になるかは、告訴人、つまり誹謗中傷の被害者は何もしようがありません。警察に任せるしかありません(もっとも最終的に投稿者が起訴されたか不起訴にされたかは通知されます。)。

 

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どのタイミングで刑事告訴するべきなのか

ここまで発信者情報開示請求から刑事告訴の受理まで、順を追ってみてきましたが、どのタイミングで刑事告訴すればスムーズなのでしょうか。

これについては、一概には申し上げられませんが、もちろん、警察の捜査の一助という気持ちがあるのであれば発信者情報開示請求で投稿者の氏名や住所を明らかにしてから、刑事告訴するのも一つでしょう。

ただ、発信者情報開示請求や刑事告訴を自分でやるにしても専門的であるため時間はかかるでしょうし、弁護士に依頼する場合でも費用が発生します。

警察の中には、「投稿したのが誰なのかわからないですよね。まずはそこを明らかにしてもらわないと。」と、捜査権限があるのに、訳の分からないことをいう警察官もいます。

またサイト管理者から取得したIPアドレスを捜査機関に提供すれば、投稿者の氏名住所の特定は警察が行うこともあります。

したがいまして、どのタイミングで刑事告訴をするのかは、ケースバイケースの判断になりますので、警察又は依頼されている弁護士がいれば相談されることをお勧めします。

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