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仮差押えの流れ~供託金は必要なのか?空振りになる可能性は?

仮差押とは

裁判所の命令で、債務者の財産を仮に差し押さえることで、債務者が自由にその財産を処分することができないようにする手続をいいます。

通常の債権回収の手続をとるとした場合、訴えを提起し、勝訴判決(債務名義)を得て、強制執行を行う流れになります。

しかし、訴えを提起してから勝訴判決を得られるまでは、一般的に、半年から1年、長ければそれ以上の時間がかかる場合もあります。その間に債務者が財産を処分してしまえば、たとえ勝訴判決を得たとしても、債権回収を図ることができなくなります。

このような場合に備えて、選択される手続が仮差押えです。

 

差押えとの違い

法的手続には、仮差押えと似た手続として差押えがあります。

差押えとは、強制執行の一つで、債務者による財産の処分を禁止する手続です。

仮差押と差押えは、共に債務者による財産処分を禁止するという点では共通しています。

しかし、差押えをするためには債務名義が必要であるのに対し、仮差押えは必要ありません。また仮差押は迅速性の観点から、裁判所の判断が誤ることもあり得ます。そのため、裁判所から万が一債務者に生ずる損害を担保するために担保金(供託金)が必要になります。一方で差押え手続は訴訟の段階で債権者と債務者との間の債権債務の存在は審理済であって裁判所の判断が誤ることはないので担保金は必要ありません。

 

仮差押手続の流れ

さて、仮差押えは裁判所の命令によって債務者の財産を仮に差し押さえる手続ですので、裁判所に仮に差し押さえることを求める申立てをしなければなりません。

申し立てるにあたっては、仮差押命令申立書と呼ばれる書面を提出しますが、申立書には債権が存在すること(被保全債権の存在)、仮に差し押さえなければ債権者による債権回収が困難となる理由(保全の必要性)を記載しなければなりません。

加えて、仮差押えを申し立てるにあたっては疎明資料も併せて提出します。

申立後、通常であれば、相手方である債務者に手続保障が与えられますが、仮差押えの場合は、保全の必要性及び迅速性の観点から、債務者に知らされることはありません。そのため、東京地裁の場合、申立後は債権者(又は代理人)と裁判官との面接が申立日の翌日か翌々日以降必ず行われます。

面接などの審理を経て、裁判官が仮差押命令発令の要件を満たすと認められれば、担保金の供託が認められます(供託金の納付は法務局で行います。)。

 

 

発令に必要な書類全てが提出されたことを裁判所が確認すれば発令となります。スムーズにいくスケジュール感でいえば、面接日から翌日、遅くとも数日で発令されるのが通常です。

 

裁判所によって仮差押の決定がなされたら、仮差押えをする対象が預貯金口座であった場合は銀行などの第三債務者に決定書が送付されます。その後、債務者本人に送達されます。まず第三債務者に送付されるのは、債務者本人に送付してしまうと、債務者が財産を処分してしまう事態を防ぐためです。

ここで、第三債務者というワードが出てきましたが、第三債務者とは、例えば、債権者が債務者名義の銀行口座を仮に差し押さえたというケースでいえば、銀行等金融機関が第三債務者となります。不動産を仮差押えする場合には、第三債務者は登場しませんし、裁判所から法務局に仮差押えの登記が嘱託(依頼)されます。債務者がたとえ別の誰かに売却したとしても、先順位の仮差押登記がありますので、別の誰かは自己名義の登記はできないことになります(というより、不動産売買では登記簿謄本を確認するのが常ですので、仮差押登記がある時点で将来強制執行される可能性があることを考慮して、買っても結局は自分の物にならないのではないかと思うことでしょうから、その不動産を購入する人はほとんどいないでしょう。)。

 

仮差押命令の効力

法律上の効力と事実上の効力

仮差押は、決定正本が第三債務者に送達されたときに効力を生じます(民事保全法50条5項、民事執行法145条5項)。

そのため、法律上の効力としては、第三債務者に送達されたときに、債務者による財産の処分が禁止されます。

 

次に、事実上の効力ですが、心理的プレッシャーともいえますが、銀行口座を仮に差し押さえられたときは、債務者の口座から一定金額は引き出せません。また給与は原則として総支給額の4分の3が差押禁止とされ、最大で4分の1が差し押さえ可能となります(民事執行法152条。もっとも、実際には手取り額や法定控除後の金額など実務上の取扱いがあるため、具体的な計算が必要となります。)。

こうした効力により、仮差押えは債務者に相当な心理的プレッシャーを与えることができ、債務者が支払に応じる可能性も高くなります。

 

空振りになることもある?

仮差押は、裁判所から決定書が金融機関に送達された時点での残高に対し効果が生じますので、その時点で預金残高が少なければ満足な回収にならず空振りとなることがあります。

そのため、ケースによっては仮差押えのタイミングをよく検討しなければなりません(例えば給料日に合わせるなど)。

 

仮差押えなど債権回収は弁護士にご相談を

仮差押えを始めとする債権回収は迅速な対応は必須で、事案によっては適した時期に行わなければならないこともあります。

また仮差押えの申立てにあたっては、保全の必要性などを法的に記載しなければならず、弁護士のサポートが必要となります。

迅速な債権回収を図るためには弁護士に相談することをお勧めします。

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