生成AIと著作権をめぐる法律問題
近年、生成AIは画像、文章、音楽などを自動生成する技術として、驚異的なスピードで進化しています。OpenAIやGoogleなどが提供するAIツールは、クリエイティブな可能性を広げる一方で、著作権をはじめとしたクリエイターの権利に関する議論をさらに活性化させています。
本コラムでは、生成AIがクリエイターの権利にどのような影響を与えるのかを、法律的観点から解説し、その具体的なリスクや現行法の課題、さらにクリエイターとして取り得る対応策についてご紹介します。
生成AIと著作権法の関係
著作権法は、人間の創作的活動を保護する法律です。日本の著作権法では、「創作性」と「人間の関与」が著作物として保護を受けるための重要な要件と解されています(著作権法2条1項1号参照)。
- 創作性:思想または感情を創作的に表現していること
- 人間の関与:人間が何らかの創作行為を行っていること
しかし、生成AIが作成したコンテンツは、多くの場合「人間による創作」ではないため、現行法上は著作物として保護されない可能性が高いと考えられます。これは、動物が撮影した写真の著作権を誰が持つかが争われたアメリカの有名な事例(Naruto v. Slater)でも、「撮影者が人間でない以上、人間の著作物とは認められない」と結論づけられたことに類似する考え方です。
もちろん、動物とAIでは状況が異なりますが、人間以外の“主体”が作ったものを著作物として保護すべきかどうかという論点は共通しています。
生成AIをツールとして使用する場合
一方で、生成AIが制作したコンテンツを基にしてクリエイターが作品を作り上げた場合は、最終成果物に人間の創作性が含まれるため、著作権が認められる余地があります。
- 例:AIが作成した画像をもとに、クリエイターが細部を編集・加工して新たな価値を生み出した場合
この場合、生成AIはあくまで「創作の補助的なツール」と位置づけられるため、作品として完成した段階では人間の創作性が反映され、著作権法上の保護対象となる可能性が出てくるのです。
クリエイターの権利侵害のリスク
学習データの問題
生成AIの開発・運用には膨大なデータが必要とされますが、その中には他者が保有する著作物などが無断で取り込まれているケースが考えられます。
もし、その結果生成されたコンテンツが既存の著作物と類似しすぎている場合、著作権侵害やパブリシティ権侵害、商標権侵害などが争点となるリスクが生じます。
- 具体例:特定の画家の絵画が学習データとして取り込まれ、それと酷似した作風の画像がAIにより生成されるケース
この場合、オリジナルの著作物と比較して「依拠性」や「類似性」が認められると、著作権侵害に該当する可能性があります(最高裁の著作権侵害に関する一般的な判断基準として、昭和56年3月27日判決等)。
ライセンスや契約違反の問題
AIツールを使用する際の利用規約や契約書の内容によっては、
- 学習データの利用範囲
- 生成物の帰属(著作権の所在)
- 二次利用や商用利用の可否
などについて詳細な規定が設けられていることがあります。これらの条件に違反してツールを使用した場合、ライセンス違反や契約違反として法的責任を問われる可能性がある点も留意が必要です。
法律の整備と課題
著作権法30条の4によるデータ分析の例外
日本の著作権法30条の4では、データの分析目的であれば著作権者の許諾を得ずに著作物を利用できる旨が規定されています。これに基づき、生成AIの学習のためのデータ収集が一定の条件下では合法と解される場合があります。
しかし、実際にどの範囲までが「分析目的」で許容されるのか、あるいは生成結果との関係で「利用の範囲を逸脱していないか」など、実務面での解釈や透明性の確保が課題となっています。
AIが著作権を取得できるか
現時点の日本の著作権法は、人間の創作活動を前提としており、AI自体に著作権を認める制度設計はありません。これは前述のとおり、海外でも概ね同様の結論が主流です。
したがって、現行法下では、AIが生成する作品の著作物について、人間の創作活動には該当しないが故に、AI自体が著作権をもつことは認められていません。
しかし、生成AIがますます進化し、人の指示・関与が極めて限定的な状況でコンテンツが生み出されるケースが増えるにつれ、従来の枠組みでは対応しきれない場面が生じています。今後の法改正やガイドラインによって、AIと著作権の関係をどのように整理していくかが大きな論点となるでしょう。
クリエイターの対応策
生成AIが急速に広がる中で、クリエイターはどのようにして自身の権利を守るべきでしょうか。
1 著作権管理の強化
自身の作品を保護するためには、ブロックチェーン技術を利用した証拠保全など、より厳格な管理体制を整えておくことが有効です。作品の権利情報を明確にし、不正利用や改ざんに対抗する手段を持つことで、紛争発生時の立証がスムーズになります。
2 契約内容の明確化
AIツールを利用する際には、
- 使用目的
- 使用範囲(商用利用・二次利用の可否など)
- 生成物の著作権の帰属
- 機密保持やデータの取り扱い
を明確に規定した契約を締結することが重要です。特に、生成物を商用利用したい場合や、第三者に再ライセンスを与えたい場合には、事前の交渉・確認が不可欠となります。
3 法的措置の検討
著作権やその他の権利(商標権、パブリシティ権など)が侵害された場合には、差止請求や損害賠償請求などの法的措置をとることができます。
侵害に対して消極的な対応をとると、逆に「著作権を行使しない権利放棄」と見なされるリスクを指摘する説もあるため、適切な時期に権利主張を行うことが望ましいでしょう。
AI生成物が著作権侵害になるケース
著作物の定義とAI生成物
日本の著作権法上、「著作物」とは、「思想または感情を創作的に表現したもの」と定義されています(著作権法2条1項1号)。
つまり、創作性と人間の関与が必要となるわけです。
他方、生成AIはアルゴリズムに基づいて自動的にコンテンツを出力するため、通常は「人間の創作」に当たらず、著作物とは認められにくいという解釈が一般的です。
AIによる著作権侵害(権利侵害)の要件
仮にAI生成物が著作物として認められる場合、またはAI生成物が既存の著作物を改変したものである場合、以下のような要件を満たすと著作権侵害が成立する可能性があります。
- 著作物であること
- 著作権の存在
- 著作権は、著作物が創作されたときに自然に発生し、著作者の死後70年を経過するまで存続(著作権法51条)
- 依拠性
- 既存の著作物を参考・参照していること
- 類似性
- 表現上の本質的な特徴が既存著作物と実質的に同一または似ていること
- 著作物利用の権限がないこと
- 著作権者から利用許諾を得ていないこと
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最後に
生成AIの進化は、私たちの生活や仕事で役立つものではありますが、それに伴う法的リスクや権利侵害の問題にも向き合う必要があります。クリエイターが自身の権利を守りつつ、生成AIを活用するためには、技術だけでなく、法律をも考慮していかなければなりません。
クリエイターにとっては、自身の権利を守るために、作品管理の徹底、契約内容の明確化、法的措置の検討といった対策は必須になってくると思われます。ただし、現行法は、生成AIを考慮した内容ではないので、クリエイターが権利侵害を主張するためには、現行法に基づいて主張していくことになります。
万一、AI生成物との依拠性や類似性により著作権侵害が疑われる場合や、独自に創作した作品がAIによって不正に利用されているのではないかと感じた場合は、早期に弁護士へ相談することで、法的措置を含め適切な対応を検討することになります。