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誹謗中傷へのプラットフォーム事業者の責任と講ずべき対策

インターネットの普及により、私たちはより多くの情報にアクセスし、さまざまな意見や価値観に触れることができるようになりました。しかしその一方で、インターネット上では誹謗中傷が蔓延し、社会問題となっています

こうした社会問題を受け、最近では、刑法改正による侮辱罪の法定刑引き上げ、プロバイダ責任制限法改正による発信者情報開示命令申立手続の新設などの対策がとられています。

SNSや掲示板、動画共有サイトなど、ユーザーが自由に意見交換する場であるプラットフォームは、誹謗中傷の温床となっているところがあります。こうした問題に対して、プラットフォーム事業者が負うべき責任、及び講じるべき対策について記します。

 

誹謗中傷による法的責任

誹謗中傷とは、他人の名誉を傷つける目的で虚偽の情報を広めたり、不当な悪評を流したりする行為全般を指すと一般的に理解されています。

このような行為を受けた被害者は、刑事事件として名誉毀損罪(刑法230条)や侮辱罪(刑法231条)による処罰を求めることが可能であり、民事事件として不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求を請求し得ます。

 

 

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プラットフォーム事業者の法的責任

プラットフォーム事業者は、ユーザーが投稿したコンテンツに対して、一定の責任を負うことがあります。

日本では、プロバイダ責任制限法(正式名称:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)に基づき、プラットフォーム事業者(特定電気通信役務提供者)の責任の範囲や、対応すべき手続の枠組みが定められています。

具体的には、①事業者は、被害者から当該投稿の削除要請を受けた場合、事業者はその投稿が違法または権利侵害が明白と判断されれば、利用者(投稿者)に無断であっても投稿を削除して差し支えないとされているとともに、②被害者が誹謗中傷投稿の発信者を特定し、法的措置を取りたい場合、事業者に対し発信者情報の開示を求めることができます。

しかし、誹謗中傷の投稿を完全に防ぐことは困難であり、事業者がすべてのコンテンツに対して責任を負うことは現実的ではありません。そのため、事業者には違法なコンテンツを知っていながら放置した場合に、事業者が損害賠償責任を負う可能性があります。この点で、適切なコンテンツモデレーション(投稿監視業務)が非常に重要となります。

さらには、大規模プラットフォーム事業者は、プラットフォーム上の誹謗中傷について被害を受けた者から削除要求された場合、申出日より14日以内に削除するかどうかの決定を申出者(被害者)に通知し、削除しない場合にはその理由も通知しなければなりません。

その他、申出方法の定めと公表、専門調査員による調査の実施など削除請求に関して、大規模プラットフォーム事業者に対する規制が設けられています。

 

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プラットフォーム事業者が直面する課題

誹謗中傷への対応において、事業者はさまざまな課題に直面します。

まず、表現の自由とのバランスが難しい点です。過度な削除は言論の自由を侵害する可能性があるため、投稿内容の判断は慎重に行う必要があります。

また、侮辱罪の法定刑引き上げなど、誹謗中傷への法整備は進行形で行われており、プラットフォーム事業者は最新の法改正に対応した運用の見直しが必要となります。

 

誹謗中傷の具体的対策

1 明確な利用規約の制定

誹謗中傷を防止するためには、プラットフォーム事業者が事前に利用規約を明確に定め、誹謗中傷を禁止するルールを掲示することが不可欠です。利用規約には、違反した場合の罰則やアカウントの停止措置などについても明記し、ユーザーが投稿する際に理解できるようにする必要があります。

 

2 通報システムの構築

ユーザーが簡単に誹謗中傷の投稿を通報できるシステムを提供することも重要です。通報後、事業者が迅速に確認を行い、問題の投稿を削除することで、被害の拡大を防ぐことができます。また、通報後の対応状況をユーザーに通知するシステムも構築することで、信頼性のある対応が行われていることを示すことができます。

 

3 コンテンツモデレーションの強化

AIツールや外部専門機関との連携等により、不適切な投稿を自動的に検出するシステムを導入することが効果的です。これにより、事業者が手作業でコンテンツを確認する負担を軽減でき、誹謗中傷の投稿を早期に発見・対応することが可能になります。しかし、AIだけで完全な対応をするのは難しく、最終的には人の目による確認が望ましいでしょう。

 

4 投稿者特定の協力

誹謗中傷が深刻な場合、被害者は投稿者の特定を求めることができます。事業者は、発信者情報開示請求に迅速に対応し、法的手続に協力することが求められます。これにより、被害者が投稿者に対して法的措置を講じることができ、再発防止に繋がります。

 

5 啓発活動

ユーザー自身の意識を高めるために、誹謗中傷の問題やその法的リスクについての啓発活動を行うことも有効です。事業者は、利用者に対して誹謗中傷に対する行動規範を示し、ネットリテラシーを向上させるためのガイドラインを提供すること、アップデートしていくことが大切です。

 

まとめ

誹謗中傷は、プラットフォーム事業者が抱える深刻な課題の一つであり、利用者の安心・安全を確保する上でも無視できない問題です。事業者には、プロバイダ責任制限法をはじめとする各種法令上の責任や義務、注意義務が課されており、適切なコンテンツモデレーションや被害者保護のための体制整備が求められます。
今後もインターネットを取り巻く社会環境は変化し続け、法整備も随時見直される可能性があります。誹謗中傷を根絶するには、発信者や被害者のみならず、プラットフォーム事業者や社会全体が協力し、健全なオンラインコミュニティを維持していく努力が不可欠です。

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