遺産分割における不動産の評価について
目次

相続が発生した後、被相続人名義の相続財産の総額を調査します。相続財産の中に不動産があった場合、その評価額を算出しなければなりませんが、評価の算出方法については、算出方法によって評価額が変わり、相続人の取り分が変わることにもなりますので、よく争いが生じます。
今回は、遺産分割をするのに最も難しく、かつ相続人間でまとまりにくい不動産について、評価額の考え方や算定方法などについてご紹介します。
なぜ不動産評価の算定で揉めるのか
預貯金や株式など他の遺産とは違い、なぜ不動産はその算定方法で揉めることになるのでしょうか。
これは不動産の評価額に応じて、各相続人の取り分に変化を及ぼすからです。
例えば、相続人がAとBの2名で、相続財産が不動産と預貯金500万円であり、Aは不動産、Bは預貯金を相続することにしました。この場合、不動産の評価額が500万円であったとすれば、Aは不動産、Bは預貯金をそれぞれ相続することに、相続する物は違えど、金額は同等であるので、納得できるでしょう。
しかし、仮に不動産の評価額が300万円であったとすれば、割合に従い、Aは不動産と預貯金100万円、Bは預貯金400万円をそれぞれ相続することになります。Bとしては納得できないことはおわかりいただけると思います。逆に、不動産の評価額が700万円であれば、AとBはそれぞれ相続財産の総評価合計額1200万円を2分の1ずつ分けますので、AはBに対し、代償金として100万円を支払わなければなりません。
遺産分割における不動産評価の算定方法は主に3つ
さて、遺産分割における不動産評価の算定方法についてですが、基本的に価格を決めるのは相続人が話し合って決めます。その判断材料としてよくあげられるのが、以下の3つです。
- 相続税路線価
路線価(相続税評価額)とは、国税庁が相続税・贈与税計算の基準として毎年公表する土地の評価額です。路線価は、市場価格の約8割程度になるように設計されることが多く、税務上は相続財産評価の基準とされています。
ただし、あくまでも税計算のための画一的な評価であるので、実際の売買価格(実勢価格)とは金額が大きく変わることも多いです。また、路線価がない地域もあり、その場合は倍率方式で算定します。
- 固定資産税評価額
一度は耳にしたことがあるとは思いますが、自宅や畑など不動産を所有している場合に課せられる税金で、地方自治体が固定資産税を計算する際に基準として算出した価格をいいます。固定資産評価額は、一般的に市場価格の約7割程度とされ、3年に1度見直されますが、相続の時期によっては古いデータとなる可能性があります。固定資産税評価額も税目的のための行政評価であり、市場の実勢価格とは大きく変わることも多いです。
- 実勢価格(時価)
実際の市場で取引されるとすればいくらになるかという市場価値です。いわゆる「時価」であり、遺産分割においては、この実勢価格こそが基準と考えるのが原則です。算定にあたっては不動産会社が査定をし、個人間で不動産を売買する際によく利用されます。家庭裁判所における実務でも、不動産の評価は実勢価格によるのが通常であり、遺産分割協議がまとまらない場合によく参考にされる評価額です。
遺産分割における評価方法の扱い
遺産分割では、どの評価方法を用いるか法律上の決まりはありません。相続人全員の合意があれば、路線価基準でも固定資産税評価額でも自由に採用可能です。実際、遺産分割協議では簡便な固定資産税評価額や相続税評価額を用いるケースもあります。ただし、これら税評価は市場価格より低めに出るため、代償分割などで用いると各相続人の取得額に不公平が生じるおそれがあります。
そのため、公平を期すには時価による評価が原則と理解されています。実務上、家庭裁判所で調停・審判になるような場合は、基本的に各当事者が不動産業者の査定書等で時価を主張し、それでも折り合わなければ最終的に不動産鑑定士の鑑定評価(実勢価格)に委ねる運用となっています。
要するに、遺産分割の場面(民事上)では、(双方の合意があればですが)市場価値を基準とすることが多く、税務評価(路線価等)はそのまま適用されるものではないということです。
当事者間の合意が取れない場合には、裁判所の専任する不動産鑑定士が金額を決める
路線価、固定資産税評価額、実勢価格でも相続人間で不動産の評価方法について、話し合いの段階で合意できなかった場合や、実勢価格によるとしても双方の主張金額の開きが大きく折り合いがつかず、双方ともに譲歩しない場合には、調停や審判で解決を図ります。それでもなお合意ができない場合は裁判所が評価額を認定します。
裁判所が評価額を認定する方法としては、裁判所が選任した鑑定人(不動産鑑定士)による鑑定を実施し、その鑑定評価額がそのまま「時価」として認定されることになります(家事事件手続法64条1項)。
なお、鑑定の実施に際しては、裁判所は事前に当事者に私的鑑定(裁判所をとおさずに各自が不動産鑑定士に依頼して鑑定書を提出すること)の意向があるかを確認し、提出予定があれば先に提出させた上で鑑定人に最終評価をさせることで、鑑定結果が出た後で当事者が対抗的に私的鑑定書を提出して争う鑑定合戦を防止するのが実務上では一般的です。
注意が必要なのが、鑑定費用に関してです。原則として、鑑定費用は共同相続人全員で負担することになりますが、実務上は法定相続分に応じて負担するのが通常です。もっとも、鑑定費用は事前に裁判所に納めなければなりません(ただし、相続人全員の合意があれば遺産から鑑定費用を支払うこともできます。)。
そして、最も気になるのが、鑑定費用(不動産鑑定士の報酬)がどれくらいになるのかですが、物件の数などに応じてケースバイケースですが、少なくとも数十万円はかかります。実際、過去のご依頼案件では不動産の共有物分割請求の調停事件で1物件で60万円かかったことがあります。
鑑定費用の負担に応じない相続人がいる場合
相続人の一人が鑑定費用を負担しないと言い張っている場合でも、裁判所に鑑定費用を全額支払えさえすれば鑑定は実施されます。一先ず立て替えるということです。
その後、支払わなかった当事者に対しては、調停条項や審判で処理されるか、別の手続として費用額確定処分の申立てを経て回収します。
なお、とてもイレギュラーなケースですが、仮に鑑定も行わず(あるいは何らかの理由で行えず)、提出資料からも適正な評価額を算定することが困難な場合には、裁判所はやむをえず、その不動産を評価不能とし、不動産を法定相続分どおりの共有状態で分割する審判(共有分割)を下すことがあります。共有分割の審判が出た場合、共有状態が解消されていませんから、別途、共有物分割訴訟(民法258条)を行わねばならず、紛争の抜本的解決が果たせません。
まとめ
相続財産に不動産がある場合、評価の算定方法については相続人間の合意があれば、それに基づいて評価額が算定され、合意できなければ最終的に鑑定を実施することになります。
不動産の評価額について、相続人間でそれほど乖離がないのであれば、多少譲歩してでも合意で決めた方が圧倒的に金銭的な負担は減ります。
しかしながら、当事者間では話が進まないことが多くありますので、遺産分割でお悩みの方はお気軽に当事務所までご相談ください。