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裁判で勝訴したが、お金を支払ってもらえないとき~第三者からの情報取得手続~

せっかく裁判で勝訴の判決を得ても、相手が任意に支払ってくれない、差押えなどの強制執行をしようにも相手の財産についてわかっている情報は何もない。けど、勝訴したのだから、判決に従った支払いをしてもらいたいと思われる方も多いでしょう。

相手の財産が分かっていれば、淡々と強制執行の手続に移行すれば良いのですが、分からない場合は強制執行しようにも、事前に債権者が債務者の財産を調査し特定しなければなりません。そのため改正前民事執行法は債権回収の実効性は乏しい面がありました。

しかし、令和元年の改正により、第三者から債務者の財産に関する情報を提供してもらえる制度(第三者からの情報取得手続)が新設され、差押えなど強制執行までの手続が円滑に進み、債権回収の実効性の期待が高まることとなりました(民事執行法204条から211条)。

 

第三者からの情報取得手続とは

最初に記しました通り、令和元年の改正により第三者からの情報取得手続が新設され、この手続きは、簡単に言えば、これまで債権者自らが債務者の財産について調査、特定しなければならなかったものを、(申立てにより)裁判所を通じて、その情報を、債務者以外の第三者から取得するための手続です。

あくまで債務者の財産を調査し、情報を取得する手続ですので、差押えを行うためには別に手続が必要です

 

情報提供手続により取得できる情報は4つ

調査、特定の対象となる債務者の財産に関する情報は、何でも良いわけではなく、以下の4つに限られます。

不動産に関する情報、②給与(勤務先)に関する情報、③預貯金に関する情報、④株式や投資信託に関する情報

 

第三者は誰?

情報提供をしてもらう第三者は、対象となる債務者の財産によって異なります。

①不動産情報であれば、法務局

②給与(勤務先)情報であれば、市区町村や日本年金機構など厚生年金を扱う団体

ただし、給与(勤務先)に関する情報を取得するためには、債務者のプライバシー性の高さから、養育費や婚姻費用の支払請求権や人の生命又は身体に対する侵害による損害賠償請求権でなければ第三者から情報を取得することはできません。

③預貯金情報であれば、銀行や信用金庫などの金融機関

④株式や投資信託情報であれば、証券会社

 

申立てをするための要件(民事執行法207条)

ア 執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者であること(民事執行法197条)

債務名義とは、確定判決や仮執行宣言付き判決、和解調書や調停調書といった確定判決と同一の効力を有するもの(民事執行法22条参照)などをいいます。

イ 強制執行等の手続において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を受けることができなかったときか、知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき(民事執行法197条)

簡単に言えば、強制執行したら債務者から満額の支払いを受けることができなかった場合や、今わかっている情報で強制執行したとしても、満額の支払いを受けられないことの立証があったとき、ということになります。

 

手続の概略

1 まずは債務名義を取得しなければなりません。

2 取得する情報が①不動産情報、②給与(勤務先)の場合は、第三者からの情報取得申立前に、財産開示を申し立てる必要があります(民事執行法205条2項、206条2項)。

3 その後、各情報提供の申立てにあたって必要な資料とともに、債務者の住所地を管轄する地方裁判所に申立てを行います。

ただし、①不動産情報と②給与(勤務先)情報であれば財産開示を受けた日から3年以内に申し立てなければなりませんので、ご注意ください。

4 執行裁判所(第三者からの情報取得手続や強制執行などの執行手続を行う裁判所)が申立書と添付資料を見て、要件を満たすと判断された場合には、執行裁判所から第三者に対し、情報提供命令が出されます。

5 情報提供命令を受けた第三者は、2週間を目安に(第三者の事情によって時間がかかる場合もあります。)、①不動産情報と②勤務先情報の場合は、執行裁判所に、債務者の財産情報を書面で提供します。③預貯金情報と④株式等情報の場合は、第三者が情報提供書を執行裁判所に送付するか、直接申立人に送付します。

ちなみに、③預貯金情報と④株式等情報に関して、第三者による情報提供がされてから1か月を経過すると、債務者に情報提供した旨の通知がなされますので、ご注意ください。

これら一般的な手続を経て、債務者の財産が判明し、差押えなどの強制執行の手続になります。

 

最後に

今回第三者からの情報取得手続の概要などについて記しました。最後までお読みくださった方はお判りかと思いますが、①不動産情報、②給与(勤務先)情報、③預貯金情報、④株式等情報、それぞれで若干手続が異なるところもあり、また今回記載は省略しましたが、それぞれ申立てに必要な資料も異なります。その他申立てにあたって費用も発生します。

そのため、今回ご紹介した第三者からの情報取得といった財産開示の手続や差押えなど債権回収でお悩みの方は、ぜひご相談ください。

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