「使用罪」新設予定の大麻取締法改正案について
政府が2023年10月24日に、若者などの大麻乱用を防ぐため、大麻を新たに麻薬及び向精神薬取締法で規制する麻薬として位置づけ、すでに大麻取締法で禁止されている「所持」、「譲渡」などに加えて、「使用」も禁止することを盛り込んだ大麻取締法改正案を閣議決定しました。今後国会で審議されることになります。
この改正案の内容は、主に、使用罪の新設、大麻草を原料にした医薬品の国内使用を認める、繊維や種子の採取、研究目的にのみ認められている大麻草の栽培を、医薬品などの原料を採取する目的でも認める、ことにあります。
そこで、今回は、使用罪の新設を中心に記したいと思います。
現行法の罰則規定
現行法は、第24条及び第24条の2で罰則を設けています。
第24条 大麻を、みだりに、栽培し、本邦若しくは外国に輸入し、又は本邦若しくは外国から輸出した者は、7年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、10年以下の懲役に処し、又は情状により10年以下の懲役及び300万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。
第24条の2 大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、5年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、7年以下の懲役に処し、又は情状により7年以下の懲役及び200万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。
このように条文では、「栽培し、本邦若しくは外国に輸入し、又は本邦若しくは外国から輸出した者は、7年以下の懲役に処する。」、「所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、5年以下の懲役に処する。」とあるだけで、「使用」については規制されていません。
「使用」が規制の対象とされていない理由
なぜ「使用」が規制の対象とされていないのでしょうか。
前提として、大麻取締法第1条では、以下のように大麻について定義されています。
第1条 この法律で「大麻」とは、大麻草及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。
一般的に、大麻には、後記するCBD(カンナビジオール)成分と、幻覚作用等の有害作用があり、マリファナの原料にもなるTHC(テトラヒドロカンナビジオール)成分があります。CBDは成熟した茎や種子から抽出される成分で、THCは成熟した茎や種子にはほとんど含まれません。そのため、後述しますが、成熟した茎や種子から抽出され、有害作用のあるTHC成分が含まれないCBD製品は、大麻取締法でいう「大麻」ではないということになります。
しかし、成熟した茎や種子から抽出したCBD成分にTHC成分が全く含まれないかと言われると、そうではありません。結局は、同じ大麻草から抽出しますので、実はTHC成分が混入しているリスクもあるからです(こちらについても後述します。)。
そのため、尿検査で大麻成分が検出された場合、その成分が大麻の花からなのか、葉っぱからなのか、樹脂からなのか、それとも成熟した茎や種子から摂取したものなのか、明確に特定することは困難です。明確に特定できなければ、明確性の原則(刑罰法規の内容を具体的かつ明確に規定しなければならない原則)に反するため、大麻は覚せい剤その他規制薬物と異なり、「使用」が規制の対象とされていないのです。
「使用罪」の新設
「大麻は他の薬物より害がなく安全」などといった誤った情報からなのか、近年特に若者による大麻の使用が深刻化していることを受け、政府が今回の改正案の検討に入りました。
現行法では「所持」や「栽培」などが処罰の対象とされていますが、改正案で、薬物乱用対策として、大麻も麻薬及び向精神薬取締法の対象とされ、覚せい剤など他の規制薬物と同様に、尿検査などで大麻成分が検出されれば「使用」として、使用罪が適用され、処罰対象となる可能性は高くなると思います。
CBD製品の医療における用途
成熟した茎や種子から適切に抽出されたCBD成分は、酩酊状態を引き起こすような効果はなく、一方で抗てんかんの作用があるといわれているため、欧米では大麻から製造された医薬品が薬事承認されています。
日本では、現行法において、適切な実施計画に基づく治験を行うことは認められていますが、今回の改正案では、大麻草を原料にした医薬品の国内使用を認め、繊維や種子の採取、研究目的にのみ認められている大麻草の栽培を、医薬品などの原料を採取する目的でも認められ、日本でも今後は大麻から製造された医薬品も医療現場で使用できる見込みです。
CBD製品の合法性や購入時の注意点
簡単にですが、CBD製品の合法性や購入時の注意点について記しておこうと思います。
CBD製品の合法性
結論から言えば、成熟した茎や種子から抽出され、かつTHC成分が入っていないCBD製品自体は合法といえます。
購入時の注意点-THC成分が含まれていないか-
購入する際には、その製品にTHC成分が含まれていないことを確認する必要があります。具体的には、製品パッケージにおけるCBD含有量の明記の有無や第三者機関による検査結果の公開の有無、その他信頼できるメーカーであるかどうかなどを確認すると良いでしょう。
逮捕される可能性があります。
もし、CBD製品に違法成分であるTHC成分が含まれており、それを購入したり(所持又は譲り受け)、販売したり(譲り渡し)すれば、大麻取締法違反で逮捕される可能性があります。
弁護士にご相談を
ここまで大麻取締法改正案の使用罪の新設を中心に記しましたが、今後改正案が公布施行されれば、大麻使用のための栽培、輸入、輸出、所持、譲り受け、譲り渡しは勿論のこと、「使用」も処罰の対象となり、逮捕に至る可能性も高まります。
薬物犯罪を理由に逮捕されたときは、できるだけ早くご相談ください。
なお、大麻や覚せい剤などに限らず、警察から突然家族や大切な方を逮捕したという連絡があったような場合は、こちら(突然、家族が逮捕された場合における弁護士の役割の重要性について)で掲載していますので、あわせてご覧ください。