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ディープフェイクポルノで問われる法的責任

はじめに

日進月歩の勢いで、AI技術は発展を遂げていますが、社会に役立つ利用が望まれます。しかし、特にここ最近では、AI技術を悪用し、まるで本人が被写体となって撮影されたかのように見せかけるわいせつ画像や動画、いわゆるディープフェイクポルノがネット上で拡散される被害があります。ディープラーニングとフェイクの造語であるディープフェイク技術は、現実と見分けがつかないほど精巧な出来栄えで、この技術を悪用して、既存のポルノ動画内の人物の顔を、別の人物の顔に置き換える「ディープフェイクポルノ」の被害に遭う事例が多数あります。

ディープフェイクポルノは、被害者の同意なしに生成されることが多く、インターネット上で急速に拡散されています。これにより、被害者は、名誉毀損や精神的苦痛を被る可能性があります。

 

ディープフェイクポルノとは?

まずディープフェイクポルノについてですが、AI技術を使って、実在する人物の顔を、別人の性的な画像や動画とすり替えて作成された画像や動画をいいます。実在する人物の顔はSNSにある写真や卒業アルバムから利用されることが多いです。ディープフェイクの言葉自体は、ディープラーニングとフェイクからなる造語で、明確な法的定義はありません。

よく似た手法として、アイドル・コラージュ(アイコラ)がありますが、アイコラは一般的に作成するのに時間がかかっていました。しかし、AI技術の進歩・発展により、短時間で容易に大量の画像や動画を作成することができるようになりました。そのため、本質的には、アイコラもディープフェイクポルノも同じとなります。

ディープフェイクポルノは、盗撮リベンジポルノといった同意なしに私的な性的姿態等を撮影・拡散する行為とは異なるところがあります。リベンジポルノは、嫌がらせや復讐目的で、同意なく撮影された性的な画像や動画をインターネット上に公開する行為をいい、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律によって規制されています。

 

 

ディープフェイクポルノ画像を生成等した場合に問われる罪

このようなディープフェイクポルノを生成した場合、どのような法律で、どのような罪に問われるのでしょうか。

 

著作権法違反

ディープフェイクポルノの作成には、既存のアダルトビデオなどの著作物を改変する行為が伴うことが多く、これらのアダルトビデオは、著作権法上の著作物であり、制作会社などが著作権を有しています。

著作権者の許可なく、ディープフェイクポルノ画像や動画を作成することは、著作権法違反に該当し、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はその両方が科せられます(著作権法119条1項)。

また生成した画像や動画をネット公開した場合は5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又はこの両方(著作権法119条2項)、URLを掲載するなどアクセスしやすい環境を整えただけでも、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこの両方(著作権法120条の2)が科される可能性があります。

実際に、ディープフェイクポルノの作成・公開(リンク掲載行為を含む)によって、著作権法違反で逮捕されたケースもあります。

 

わいせつ物等頒布罪(刑法175条)

ディープフェイクポルノ画像や動画の内容が、いたずらに性欲を興奮させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものと判断される場合、わいせつな電磁的記録として、その頒布や公然陳列の罪に当たる可能性があります。この場合、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料、又は懲役及び罰金を併科となります。

なお、ディープフェイクポルノ画像や動画が本物か偽物かは、同罪の成否には直接影響しません

 

名誉毀損罪(刑法230条)

名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立します。

ディープフェイクポルノにおいて、芸能人や一般人の顔が無断で使用され、あたかもその人物がアダルト動画に出演しているかのように視聴者に誤解を与える動画がネットに公開された場合、その人の社会的評価を低下させるものとして名誉毀損罪に当たる可能性があります。名誉毀損罪に問われた場合、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金となります。

 

 

児童ポルノ禁止法違反

元データの顔写真の人物が18歳未満であった場合、ディープフェイクポルノ画像等は児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下、「児童ポルノ禁止法」といいます)に違反する可能性もあります。

児童ポルノ禁止法では、児童ポルノの所持・製造・販売が規制対象行為となっており、所持であれば1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(児童ポルノ禁止法7条1項)、提供・製造・輸出入した場合は3年以下の懲役又は300万円以下の罰金(児童ポルノ禁止法7条2項)、不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した場合は5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又はこの両方となります(児童ポルノ禁止法7条6項)。

なお、近時の判例(最決令和2年1月27日)では、児童ポルノについて、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、23項各号のいずれかに掲げる実在する児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいい、実在しない児童の姿態を描写したものは含まない、とされています。

 

肖像権・プライバシー権の侵害(民事上の責任)

ディープフェイクポルノにおいて、他人の顔写真を無断で使用することは、その人の肖像権やプライバシー権を侵害する行為となります。肖像権とは、自分の容姿等を勝手に撮影されたり、公表されたりしない権利です。この権利は憲法13条の幸福追求権に由来する人格権の一種と考えられています。

ディープフェイクポルノを作成・公開することで、被害者から損害賠償請求を受ける可能性があります。

特に、芸能人などの著名人の場合は、パブリシティ権(肖像等の経済的価値を排他的に利用する権利)の侵害として、高額な損害賠償が認められる可能性があります

 

性的姿態等撮影・提供行為処罰法違反

20237月に施行された「性的姿態等撮影行為の処罰等に関する法律」(性的姿態等撮影・提供行為処罰法)では、同意のない性的姿態の撮影や、それを第三者に提供する行為を処罰の対象としています。

ディープフェイクポルノについては明示的な規定はありませんが、同法の趣旨から、実在する人物の顔を使用して性的な画像・動画を作成し、拡散する行為は、本法の規制対象となる可能性があります。

 

最後に

ディープフェイクポルノに対する現行法で問われる罪についてご紹介しました。 今後AI技術がますます発展することで、また新たな法的問題が生じるかもしれません。

しかし、現状でもディープフェイクポルノを生成し、公開すれば刑事責任が問われる可能性は十分にあり、今後の法改正や新法によってディープフェイクポルノを始め生成AIに対する規制は厳罰に向かうと思われます。

ディープフェイクポルノの被害に遭った場合はまずは警察に相談しましょう。また加害者となってしまった場合は早めの刑事弁護が必要不可欠ですので、お早めに弁護士に相談することをお勧めします。

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