電話番号ルートによる発信者の特定手続のメリットと注意点

発信者を特定するための2つのルート
インターネット上で誹謗中傷の被害に遭い、発信者情報開示請求によって誹謗中傷の投稿をした発信者を特定したい場合、主に2つのルートがあります。
一つは、投稿者のインターネット接続情報であるIPアドレスから、契約しているアクセスプロバイダを特定し、その契約者の氏名住所を開示させるIPアドレスルートです。
もう一つは、誹謗中傷の投稿がされたウェブサイトやオンラインサービスに登録された電話番号を手がかりに、発信者を特定する電話番号ルートです。
従来はIPアドレスルートが発信者情報開示請求における主流ともいえましたが、近年は二段階認証として電話番号を利用することが多くなっており、アカウントに電話番号を登録することが必須となっているサイトやサービスが増えてきています。
そのため、電話番号ルートによって発信者を特定するケースも、その方法として有力といえます。
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電話番号ルートによる発信者特定の流れ
ネット上で誹謗中傷の被害を受け、発信者情報開示請求をする場合、対象となるアカウントに電話番号が登録されており、コンテンツプロバイダがそれを保有している可能性があると見込まれる場合は、まずコンテンツプロバイダに対し、電話番号の消去を禁止する仮処分を裁判所に申し立てることが一般的です。
電話番号の開示を求める仮処分も法的には考えられますが、IPアドレスとは異なり、一般的に電話番号はログのように一定期間で消去されるものではないため、緊急性や保全の必要性が認めにくい傾向にあります。
そのため、消去禁止命令が発令されたら、電話番号がコンテンツプロバイダで保存されますので、その開示を求めるため、電話番号開示請求訴訟を提起する必要があります。この訴訟で主張が認められれば、コンテンツプロバイダから電話番号が開示されます。
その後は、開示された電話番号に基づき、弁護士会照会という制度を利用して、携帯電話会社等から契約者の氏名住所の回答を得ることで、発信者を特定することができます。
電話番号ルートを選択する2つのメリット
ログの保存期間は原則として関係ない
IPアドレスルートの場合、アクセスログの保存期間が3か月から6か月程度と短いため、この期間を経過するとIPアドレスから発信者を特定することが困難になるという課題がありました。
しかし、電話番号ルートの場合、アカウントに電話番号が登録されていることが前提となりますが、電話番号自体はアクセスログのように短期間で消去されるものではないため、原則として保存期間を気にする必要がなく、IPアドレスルートが困難な場合でも発信者を特定できる可能性があります。
IPアドレスでうまくいかなかった場合
これまでIPアドレスルートでは、発信者がネットカフェやフリーWi-Fiを使用していた場合、接続元のIPアドレスは特定できても、その契約者はネットカフェの運営者やフリーWi-Fiの提供者であるため、発信者個人に辿り着けないケースが多くありました。
このようなケースでも、電話番号ルートであれば、アカウント登録者の情報が開示される可能性があるため、発信者を特定できる可能性が高まります。
ただし、コンテンツプロバイダが電話番号の登録者の氏名や住所を直接保有しているわけではない場合、最終的な特定には弁護士会照会が必要となることに留意すべきです。
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電話番号ルートの注意点
アカウントに電話番号が登録されていることが前提
電話番号ルートを利用できる前提として、対象のアカウントに電話番号が登録されていることが必須となります。
アカウント登録の際に電話番号の登録が必須であったり、二段階認証に電話番号が利用されているサイトやサービスであれば、この条件を満たしている可能性が高いでしょう。
開示されるまでの期間はIPアドレスルートと比較して長くなる傾向がある
電話番号消去禁止の仮処分は比較的短期間で決定されることが多いですが、その後の電話番号開示請求訴訟では、コンテンツプロバイダは登録情報の開示に慎重な姿勢を示すことが多く、個人情報保護などを理由に争ってくることが少なくありません。
そのため、事案によってはIPアドレスルートよりも時間がかかり、1年以上を要して開示に至ることもあります。
さらに、開示された電話番号に基づき行う弁護士会照会についても、通信の秘密や個人情報保護の観点から、携帯電話会社等が回答を拒否することも稀にあります。
本人訴訟では最終的な発信者特定が困難(弁護士に依頼することが必要)
電話番号ルートでは、コンテンツプロバイダから電話番号の開示を受けた後、通常は弁護士会照会を利用して携帯電話会社等から契約者の氏名住所の回答を得ることで発信者を特定します。
弁護士会照会は、弁護士法に基づき、弁護士が受任している事件について、必要な情報の開示を関係機関に照会する制度です。
弁護士法第72条により、弁護士でない者が報酬を得て法律事務を行うことは禁じられており、弁護士会照会は弁護士の職務活動の一環と解釈されています。
したがって、原則として、弁護士に依頼せずに本人訴訟で電話番号の開示を受けたとしても、その後に弁護士会照会を利用することはできません。
そのため、電話番号ルートで発信者を特定するためには、弁護士に依頼する必要があり、弁護士費用が発生します。
最後に
電話番号ルートは、IPアドレスルートでは困難な場合でも発信者特定が期待できるというメリットがある一方で、アカウントへの電話番号登録が必須であること、開示までに時間がかかる可能性があること、本人訴訟では最終的な特定が難しいことなど、注意すべき点も多く存在します。
また、電話番号の開示は原則として訴訟手続によらなければならないため、IPアドレスルートと比較して手続きが煩雑になる傾向があります。
そのため、実際には、電話番号ルートとIPアドレスルートのどちらか一方に絞るのではなく、事案に応じて両方のルートを検討したり、並行して手続きを進めることが有効となる場合もあります。
このように、発信者を特定するための手段として、電話番号ルートも重要な選択肢の一つとなり得ることをご理解いただければ幸いです。インターネット上の誹謗中傷被害にお悩みの方は、早期にインターネット上の誹謗中傷問題に精通した専門の弁護士にご相談ください。