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同じようで違う?-傷害罪と暴行罪の違い

はじめに

傷害罪暴行罪は一般の方からすると、その違いがわかりにくいと思われるかもしれません。

例えば、相手と最初は口喧嘩していて、次第に互いにヒートアップし、ケンカ相手に殴る蹴る、胸倉をつかむ、突き倒すなどの行為をした場合、傷害罪が成立するのか、暴行罪が成立するでしょうか。

もっと言いますと、自分は相手にケガを負わせるつもりはなく軽く押したところ、相手が転倒してあざができたという場合は、どちらの罪が成立するのでしょうか。

 

 

傷害罪(刑法204条)

刑法の条文上、傷害罪の適用となる者は、「人の身体を傷害した者」です。

このうち、「傷害」にあたるかの判断基準については、裁判例上、人の生理的機能を害することという基準で判断することが確立しています。

そのため、外傷のみならず、疲労倦怠、腰部圧痛、めまい、嘔吐、失神、ノイローゼ、感染症などの病気のり患、心的外傷ストレス、いわゆるPTSD(最決平成24年7月24日)も含まれます

こうみるとかなり広い範囲で傷害に当たり、傷害罪が成立すると思われるかもしれませんが、実務上は、日常生活で看過される程度の傷害は除外されると考えられています。

参考となる判例として、名古屋高等裁判所金沢支部昭和40年10月14日判決は、軽微な傷害を判断する要素として、①日常生活に支障をきたさないこと、②傷害として意識されないか、日常生活上看過される程度であること、③医療行為を特別に必要としないこと、といった点を挙げています。
これらの要素は、傷害罪の成否を判断する上で重要な考慮事項の一つですが、必ずしも全ての要素を満たす必要はありません。傷害罪が成立した場合、15年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。

 

 

暴行罪(刑法208条)

傷害罪に対し、暴行罪は、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に成立する犯罪です。

「暴行」とは、相手方に向けられた不法な有形力の行使をいうとされ、傷害と同様、かなり広い範囲を指すと言われています。

殴る、蹴る、突き飛ばす、こうした行為は暴行に当たるとイメージしやすいでしょう。

また、服を引っ張る、胸倉をつかむ、髪を引っ張るといった行為も相手の身体に対する有形力の行使といえるので暴行罪が成立する可能性があります。

その他にも唾をはきかける、髪の毛を切る、相手方の足元に向かって石を投げつけるといった行為も暴行に当たり得ます。

つまり、殴る・蹴るといった典型的な暴行以外にも、その行為によって相手が怪我をする危険性がなかったり、身体的接触がない、自分の力ではない方法でも暴行に当たる可能性があります

そして、暴行罪に問われると、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料となります。

 

暴力行為等処罰法について

暴行罪に関する法律には、刑法だけではありません。暴力行為等処罰法という法律があります。

暴力行為等処罰法とは、暴力団等による集団的暴力行為や銃や刀剣による暴力的行為、常習的行為に関する法律であり、刑法における暴行罪等よりも重い処罰が規定されています。

本来暴力団に対して処罰するための法律でしたが、今では集団的ないじめでも適用され得ます。

 

傷害罪と暴行罪の関係

傷害罪と暴行罪は、ともに暴力を振るうことを前提にしている点では同じです。しかし、暴行を行った結果、相手が怪我をしなかったら暴行罪、怪我をしたら傷害罪という関係にあります。このように結果によって区分されるものであり、暴行の故意があれば、傷害結果について故意がなくても、傷害罪が成立するとされています。

 

 

暴行によらない傷害

以上のように、暴行罪、傷害罪ともに暴力を振るうこと自体又はそれを前提に怪我を負わせたということですが、人の身体を傷害することの方法に制限はありません。これは、暴行によらない傷害といわれます。

判例(名古屋地判平成6年1月18日)でも、「傷害罪の実行行為とは、人の生理的機能を害し又は身体の外貌に著しい変更を加える現実的危険性があると社会通念上評価される行為であり、右生理的機能を害する手段については、法文上の限定がないこと等から、物理的有形力の行使のみならず無形的方法であっても差し支えないと解される。」としています。

例えば、性病などの病原菌に感染させたり、脅迫して自傷させたり、騒音や無言電話などによって精神病に罹患させたり、動物を利用して傷害を負わせるなどが暴行によらない傷害の例になり、こうした場合も傷害罪が成立する余地はあります。

 

刑事事件に関するトラブルは弁護士にご相談を

もしご自身が相手にケガを負わせてしまい、又はケガをしなかったとしても暴力をふるって、相手が警察に被害届を出した(出そうとしている)ような状況であれば、速やかに弁護士にご相談ください。

相手が被害届を出したのであれば警察が捜査に動くことになりますし、そうなると最終的には不起訴処分を獲得する可能性も十分にあります。そうなると、被害者との間で示談を成立させることがまず重要となります。被害届を出していないのであれば、被害届や刑事告訴をしない、宥恕(許す)文言が入った示談成立を目指す必要があります(場合によっては自首もあり得ます。)。

いずれにしましても、刑事事件に関するトラブルについては弁護士による弁護活動は必要不可欠となります。

一方で、暴行を受けた、暴行によって傷害を受けた被害者の方であっても、弁護士を代理人に選任すれば煩わしい加害者との示談交渉を任せることができます。示談交渉以外にも、刑事告訴のサポートをしてもらうこともできます。

刑事事件に関するトラブルでお悩みでしたら、加害者・被害者どちらの方でも、お早めにご相談ください。

当事務所では、これまでどちらの代理人としても活動し解決してきた実績があります。

 

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