未登記建物の相続と相続登記の義務化
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相続が始まり遺産分割を行う際、相続財産に不動産が含まれていることはよくあります。通常、相続した不動産は、相続人が登記手続き(相続登記)を行うことで、登記簿上の所有者として公示されます。
しかし、不動産の中には、様々な理由で登記されていない建物(未登記建物)が存在することがあります。これを相続した場合、単に放置しておくと予期せぬトラブルを招く可能性があります。さらに、令和6年(2024年)4月1日から施行された「相続登記の義務化」が、この未登記建物の相続にどう関わってくるのか、詳しく解説します。
なぜ未登記建物が存在するのか?
未登記建物とは、誰でも閲覧等できる不動産登記簿において登記がされていない建物を言います。不動産登記簿には、一般的に、建物の所在や種類、床面積などが記載される表題部という欄がありますが、未登記建物は表題部にそれらの記載がありません。
なぜ未登記建物が存在するのかと言いますと、建物の購入は大きな買い物で、今ではローンを組むのが通常ですが、ローンを組む際、その建物に金融機関などの抵当権が設定されることが現在ではほとんどです。
しかし、ローンを利用せずに現金一括で支払ったりすれば抵当権を設定する必要はありませんので、登記簿は特に不要となるのです。またローン以外にも、自己資金で自分で家を建てたりすることで、他者から登記申請の指摘を受けることなく、そのままになっているケースもあります。
その他にも、以下のような理由もあります。
- 古い建物: 建物登記制度が現在ほど厳格でなかった時代に建てられた建物で、登記されないまま現在に至っている場合があります。
- 増築部分の未登記: 母屋は登記されていても、後から増築した部分について登記手続きをしていないケースもあります。
未登記建物を相続したら行うべきこと:登記の必要性
未登記建物を相続財産として引き継いだ場合、まず行うべきことは登記手続きです。具体的には、以下の2つの登記を順に行うことになります。
- 建物表題登記: まず、その建物の存在と物理的状況を公示するための登記です。相続人が申請者となり、法務局に申請します。
- 所有権保存登記: 表題登記により登記記録が作成された後、最初の所有者として相続人の名前を登記します。
これらの登記を行うことで、法的に建物の存在と所有者が明確になり、後述する様々なリスクを回避することができます。
未登記のまま建物を放置することによるリスクについては後述しますが、これらリスクを避けるためにも相続したら登記申請をすることをお勧めします。
未登記建物のままにするリスク
未登記建物を相続したら、まずは登記申請をしなければなりませんが、申請せず未登記建物のまま放置した場合、どのようなリスクやトラブルが生じるのか、ご紹介します。
- 10万円以下の過料
不動産登記法では、新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から1月以内に、表題登記を申請しなければならないと規定されています(不動産登記法47条1項)。これに違反した場合は、10万円以下の過料となります(不動産登記法164条)。
- 第三者に主張できない
例えば、他人の土地を借りて、その土地上に未登記の建物を建てていた場合、土地の所有者が変わった際には、新土地所有者から立ち退きを要求されることがあります。この場合、未登記の建物を相続したとしても、登記簿には記載がありませんので、第三者に所有権や借地権といった法律上の権利を主張することはできません。
- 売却や担保設定の困難
将来、その建物を売却したい、あるいはリフォームローンなどで建物を担保に入れたいと考えても、未登記の状態では原則として不可能です。不動産取引や融資の前提として、登記されていることが求められます。
- 将来の相続での複雑化
あなたが登記しないまま亡くなると、次の相続が発生します。権利関係者が増え、必要書類の収集や相続人間の合意形成がさらに困難になり、登記手続きが一層複雑化・高額化する恐れがあります。
相続登記義務化との関係
令和6年4月1日、登記された土地や建物については相続登記が義務化されました。
しかし、今回の未登記建物については、義務化の対象ではありません。
条文上、相続登記(所有権移転登記)の義務は「所有権の登記名義人について相続の開始があったとき」と規定されています。未登記建物には、そもそも「登記名義人」が存在しません(登記記録自体がないため)。したがって、厳密には「所有権移転登記」の義務化(不動産登記法76条の2)の直接の対象とはなりません。
しかし、これは「未登記建物は放置して良い」という意味ではありません。
前述の通り、未登記建物の相続人には建物表題登記の申請義務(1ヶ月以内) があります(不動産登記法47条1項)。この義務を怠れば過料の対象となりえます。
さらに、相続登記義務化の法改正の趣旨は「所有者不明土地・建物の解消」にあります。未登記建物を放置することは、まさにこの趣旨に反します。相続した未登記建物について、事実上、3年の猶予期間内(相続を知ってから)に、まず「建物表題登記」を行い、続けて「所有権保存登記」を行うことが、法改正の趣旨に沿った対応であり、強く推奨されます。 これを怠ることは、将来的な不利益や、場合によっては(表題登記義務違反として)過料につながる可能性があると考えるべきです。
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未登記建物の相続登記手続きの流れ(概要)
1.遺産分割協議: 相続人間で、誰が未登記建物を相続するかを決定し、遺産分割協議書に明記します。この際、建物を特定するために、固定資産税納税通知書に記載された家屋番号や評価額、名寄帳、建築確認済証(あれば)、現地の状況などを基に、可能な限り正確に記載する必要があります。
2.建物表題登記の申請: 相続人が申請者となり、法務局に申請します。建物の図面(各階平面図、立面図など)や、相続を証明する書類(戸籍謄本、遺産分割協議書など)、住民票などが必要です。専門家である土地家屋調査士に依頼するのが一般的です。
3.所有権保存登記の申請: 建物表題登記が完了したら、相続人が自己名義で所有権保存登記を申請します。登記原因は「相続」となります。相続を証明する書類や住民票、固定資産評価証明書などが必要です。専門家である司法書士に依頼するのが一般的です。
未登記建物の相続に関しては弁護士にご相談を
未登記建物を相続した場合、放置することなく速やかに登記手続きを行うことが重要です。特に相続登記の義務化の流れを受けて、その必要性は増しています。
未登記建物の特定や遺産分割協議書への記載、登記申請手続きは専門的な知識を要し、複雑です。必要書類の収集や図面の作成も伴います。
相続財産の中に未登記建物が含まれていることが判明した場合、またはその可能性がある場合は、遺産分割協議の段階から弁護士に相談する、あるいは登記手続きについて土地家屋調査士や司法書士といった専門家に相談することを強くお勧めします。早期に専門家へ相談することで、スムーズかつ確実に手続きを進め、将来のトラブルを未然に防ぐことができます。