動画撮影で肖像権を侵害した者と侵害された者それぞれの対処法
「他人がSNSに挙げた動画に自分が映っていることが判明したので、慰謝料を請求したい」や「自分がYoutubeなどで挙げた動画について肖像権を侵害されたとして損害賠償請求の通知を受けた」として、お悩みの方もいらっしゃると思います。
今回は、肖像権の概要と、肖像権侵害であると認められやすいケースや、実際にどのように対応したらよいかを、簡単にではありますが、記したいと思います。
肖像権とは
肖像権という権利は、憲法などの法律で直接規定されたものではありませんが、一般的に憲法13条の幸福追求権を根拠に保障されると考えられることから判例により法的権利として認められています。
最高裁判例(最高裁昭和44年12月24日判決)は、「憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのであって、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有するものというべきである。」としています。
肖像権の2つの要素
肖像権は、一般的に「人格権」と「財産権」の2つの要素から構成されていると考えられています。
人格権(プライバシー権)
プライバシー権とは、本人が公開されたくない私生活上の情報をみだりに公開されない権利のことを言います。
そのため、例えば、私生活上の情報である名前、住所、勤務先、家族構成などを無断で公開された場合は、プライバシー権侵害にあたる可能性があります。
財産権(パブリシティ権)
パブリシティ権とは、一般的に、著名人の肖像や氏名のもつ顧客吸引力から生じる経済的な利益や価値を排他的に支配する権利を言います。
そのため、芸能人などの写真を無断で使用したりする場合はパブリシティ権侵害にあたる可能性があります。
肖像権侵害の基準
どのような行為をすると、肖像権侵害と言えるのでしょうか。
この点について、最高裁判例(最高裁平成17年11月10日判決)は、「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する。もっとも、人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」としています。
つまり、肖像権が侵害されたかどうかは、被撮影者の社会的地位や活動内容、撮影場所、撮影目的、撮影態様、撮影の必要性を総合考慮して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える場合に侵害を認めています。
実際に肖像権の侵害が認められるかどうかは、これらを考慮することになりますので、肖像権が及ぶ範囲や具体的にどの程度請求できるかは、一律には言えず、ケースバイケースになります。
例えば、動画撮影や配信における、通行人などの他人が映りこんでしまったような場合は、①被撮影者の特定が可能か(映像から個人を特定できるか)、②被撮影者からの許可、③動画拡散の可能性、④撮影場所の面から考慮されることが多いでしょう。
① 被撮影者の特定性
映像から被撮影者がはっきりと特定できるような場合は、肖像権侵害と認められる可能性が高いです。一方で、映り込みが小さかったり、モザイク加工がされているなどは肖像権を侵害しているとは言いにくいでしょう。
② 被撮影者からの許可
先ほどの最高裁判例でもありましたとおり、「何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由」を有していますので、無断で撮影や公開をしているような場合は、肖像権の侵害と認められる可能性が高いです。
なお、撮影と公開は全くの別物ですので、「撮影」の許可はあっても「公開」の許可がないようなケースも肖像権侵害に該当する可能性があります。
③ 動画拡散の可能性
不特定多数の人が閲覧できるような媒体(YouTubeやXなど)であれば拡散性があるとして肖像権侵害と認められる可能性が高くなります。他方、特定少数人しか閲覧できない場所で投稿された場合や、多数人に公開されたとしても動画を拡散しないだろうと認められるような人的範囲で後悔された場合などは、著作権侵害と認められる可能性は低くなります。
④ 撮影場所
自宅や更衣室など、通常他人の目に晒されないプライベートな空間であれば、より他人に見られたくない、知られたくないという程度が高く、要保護性が高いと言えるので、肖像権侵害が認められる可能性が高まります。
他方、公園や道路など、公共の場における場合には、他人の目に晒されることをある程度受忍していると考えられますので、肖像権侵害が認められない方向に働きます。
肖像権侵害の法的責任
肖像権の侵害に関しては、刑法で罰する規定はありませんので、民事で法的責任が発生し得ます。
肖像権を侵害された場合
自分が許可していないのに、他人の動画に映っていることが判明した場合は、主に、サイト管理者や運営会社に対する削除依頼や動画投稿者に対する損害賠償請求や動画投稿の差止請求を行うのが一般的です。具体的な手続については、お早めに弁護士に相談するのがよいでしょう。
肖像権を侵害した場合
許可なく無断で動画を投稿し肖像権を侵害した場合は、侵害された側から民事責任を追及される可能性があります。そのような場合についても、弁護士にご相談されることをお勧めします。
まとめ
街中で動画撮影や配信を行えば、通行人が映りこんでしまうことはある程度やむを得ないことでしょう。
しかし、これまで記しましたように、あくまで撮影方法や映り込みの程度によって判断されますので、すべてが肖像権の侵害として問題になるわけではありません。
肖像権を侵害した場合は、その後撮影あるいは配信をする際に法的責任が起こり得ることを理解されたうえで、十分に注意して行う必要があります(昔はテレビ放送でも通行人や一般人の顔貌が特定できる形でそのまま放送されていましたが、近年では通行人等の顔にモザイクやぼかしを入れられていることが多いのも、訴訟リスクを回避するテレビ局側の配慮からだと考えられます。)
一方で、著作権侵害された場合や、ご自身が著作権を侵害したとして高額な慰謝料を求められたり、弁護士から内容証明郵便が届いたというケースでは、お早めに弁護士に相談するのが良いと思います。