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刑事告訴が相手に与える影響とは? 手続きの流れと注意点

犯罪被害に遭われた方が、捜査機関(警察や検察)に対して犯罪事実を申告し、加害者の処罰を求める意思表示をすることを「刑事告訴」といいます。

刑事告訴は、単に被害を届け出る「被害届」とは異なり、受理されると捜査機関に捜査義務を生じさせる重要な手続きです。

刑事告訴は、証拠関係などから受理のハードルが高い側面もありますが、受理されれば、捜査が進み、最終的に加害者に刑事罰(懲役、罰金など)が科される可能性があります。

この記事では、刑事告訴を検討されている方や、告訴が受理された場合に相手(被告訴人)にどのような手続きが行われ、どのような影響が生じうるのかを知りたい方に向けて、その内容を解説します。

単に「ダメージを与える」という視点だけでなく、法的手続きとしてどのようなことが起こるのか、客観的に見ていきましょう。

 

刑事告訴が受理された後、相手にどのような手続が行われるのか

刑事告訴が受理されると、捜査機関は捜査を開始します。その過程で、被告訴人(告訴された相手)には、以下のような手続きが一般的に行われることになり、それに伴う様々な影響が生じます。

  1. 被疑者としての取調べ 刑事告訴が受理されると、警察は告訴状や証拠に基づき捜査を開始します。その一環として、被告訴人は「被疑者」として警察署などに呼び出され、取調べを受けることになります。取調べは、事件の内容にもよりますが、一度で終わることは少なく、複数回、長時間にわたることもあります。取調べに応じることは、精神的な負担となるだけでなく、時間的な拘束も伴います。
  2. 逮捕・勾留による身柄拘束 捜査の結果、被告訴人に逃亡のおそれ証拠隠滅のおそれがあると判断された場合、裁判官の発する令状に基づき逮捕される可能性があります。また、正当な理由なく警察からの出頭要請に応じない場合も、逮捕される可能性が高まります。 逮捕されると、警察署の留置施設などで身柄を拘束され、その後、検察官への送致、勾留請求といった手続きが進みます。勾留が決定すると、逮捕から最大で23日間、身柄拘束が続く可能性があります。長期間の身柄拘束は、社会生活からの隔離を意味し、職を失ったり、社会的信用を大きく損なったりするなど、被告訴人にとって極めて深刻な影響を与えます
  3. 捜索差押え 事件の証拠収集のため、裁判官の発する令状に基づき、被告訴人の自宅や勤務先、所持品などに対して捜索差押えが行われることがあります。捜索差押えは、通常、予告なく行われるため、被告訴人本人だけでなく、同居する家族や職場の同僚などにも捜査対象となっている事実が知られる可能性があります。これにより、プライバシーが侵害されるとともに、家族との関係が悪化するなど、精神的な苦痛や社会的な不利益を受けることがあります。
  4. 前歴がつくことによる影響 たとえ逮捕された後に不起訴処分となり、刑事裁判に至らず前科がつかなかったとしても、犯罪の疑いで捜査対象になったという事実は「前歴」として捜査機関の記録に残ります。 前歴自体が直ちに法的な不利益を生じさせることは少ないですが、将来的に再び何らかの犯罪を犯した場合、前歴があることが量刑判断で不利に考慮され、より重い処分(実刑判決など)につながる可能性があります。また、特定の職業や資格においては、前歴があることが事実上、欠格事由となる場合もあります。これは被告訴人にとって、将来にわたる心理的なプレッシャーや社会的な制約となり得ます。

被害届とは重みが違う

犯罪被害を申告する手続きとして「被害届」もありますが、「刑事告訴」とは法的な効果が大きく異なります。

  • 刑事告訴: 受理されると捜査機関に捜査義務が発生します。原則として捜査が行われ、検察官による起訴・不起訴の判断が示されます(検察官の終局処分の結果は、告訴人に通知も行われます。)。
  • 被害届: 受理されても捜査機関に法的な捜査義務は発生しません。捜査が行われるかどうか、どの程度行われるかは、事件の性質や捜査機関の判断に委ねられますので、被害届を出したからといって捜査自体行われないこともあります。

このように、刑事告訴は被害届に比べて、捜査機関を動かす力が強く、被告訴人に対して捜査が及ぶ可能性が格段に高いため、与える影響も大きいと言えます。

 

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刑事告訴を検討する上での注意点

刑事告訴は強力な手続きですが、検討する際には以下の点にも注意が必要です。

  • 受理のハードル: 証拠が不十分な場合や、事件の内容が主に民事的な争い(民事不介入)と判断される場合など、告訴状が受理されないケースも少なくありません。特に弁護士をつけずに自身で行う場合には、証拠が不足していると受理してもらうことは一般的にはかなり難しいです。
  • 虚偽告訴のリスク: 万一、虚偽の内容で告訴した場合、虚偽告訴罪に問われる可能性があります。告訴は自分の認識に従った真実に基づいて行う必要があります。
  • 労力と精神的負担: 告訴状の作成や証拠収集、捜査への協力、警察署への出頭など、告訴人にも相応の労力と精神的な負担がかかります。
  • 相手からの反撃: 告訴された相手から、名誉毀損などで逆提訴されるといった反撃を受ける可能性もゼロではありません。相互に暴行したようなケースでは、相手方からも被害届や告訴を打たれることが多いです。
  • 民事責任との関係: 刑事告訴はあくまで加害者の刑事責任を問う手続きです。受けた損害の賠償(慰謝料請求など)を求めるには、別途、民事訴訟などの手続きが必要になります。

逮捕・不起訴だけが全てではない

刑事告訴を考える際、「逮捕されなかったら意味がない」「不起訴になったら無駄だ」と考えてしまうかもしれません。

しかし、たとえ逮捕や起訴に至らなかったとしても、上記で述べたように、被疑者として取調べを受けたり、場合によっては捜索差押えを受けたりするなど、捜査の過程そのものが被告訴人にとって大きな負担や不利益となりえます

また、不起訴処分にも「嫌疑なし」「嫌疑不十分」のほか、「起訴猶予」という処分があります。起訴猶予は、犯罪の事実は認められるものの、諸般の事情を考慮して検察官が起訴を見送るというものであり、被告訴人にとっては事実上「有罪」に近い判断がされたことを意味します。

刑事告訴が受理され、捜査が進んでいるという事実は、被害者の方の「何もしてもらえない」という無力感を和らげ、一定の精神的な回復につながる側面もあります。

最終的に逮捕するかどうか、起訴するかどうかは捜査機関や検察官の判断に委ねられますが、刑事告訴という手続き自体が持つ意味や、相手に与えうる影響は多岐にわたるのです。

刑事告訴をすべきかお悩みの場合、そのメリット・デメリット、具体的な手続きについて、まずは告訴を扱っている弁護士に相談することをお勧めします。

また、警察の相談専用ダイヤル「#9110」でも、刑事事件に関する相談を受け付けています。一人で抱え込まず、専門家の意見を参考に、ご自身の状況に合った最適な対応を検討してください。

刑事告訴をするかお悩みの方はお気軽に当事務所までご相談ください。

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