【相続財産調査】自分でできる?主な財産の調べ方と必要書類を徹底解説

はじめに
相続が発生したら、相続人を確定させるための調査と並行して、どのような遺産があるのか(相続財産)を調査する必要があります。
この相続財産の全容を把握した上で、相続を承認するのか、放棄するのか(相続放棄)、あるいは限定承認をするのかを判断することになります。
特に相続放棄や限定承認は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所に申述する必要があるため、相続財産の調査は迅速に行うことが求められます。
最初から相続する、あるいは放棄すると決めている場合は別ですが、多くの方は、相続財産がプラスの財産(資産)とマイナスの財産(負債)を合わせてどれくらいあるのかを把握した上で、トータルでマイナスならば相続放棄したいし、プラスならば相続したいと考えるのが通常だと思います。
相続人の調査方法に関しては、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含みます)を取り寄せ、それに基づいて相続関係説明図や法定相続情報一覧図を作成することで、法的に相続権を持つ人を特定することができます。
しかし、相続財産については、被相続人がどのような財産をどこに保有していたか、生前に全てを把握しているケースは稀です。
特に近年はインターネットバンキングやネット証券の利用、仮想通貨(暗号通貨)などの新たな財産の仕組みも増え、通帳や書類が手元に残らない「デジタル遺産」も多く、相続人にとっては容易に知り得ない財産も増えています。
また、突然お亡くなりになった場合など、どこに何があるのか全く手がかりがなく、どのように調べ始めたら良いのか途方に暮れてしまうこともあると思います。
主な相続財産の種類
相続財産は数多くあり得ますが、主な相続財産は次の通りです。
- 預貯金口座
- 不動産(土地・建物)
- 生命保険(死亡保険金など)
- 株式や投資信託などの有価証券
- 自動車、貴金属、美術品など
- ローンや借金などの負債(マイナスの財産)
主な相続財産の調査方法
預貯金口座の調べ方
- 手がかりを探す: まずは被相続人のご自宅や持ち物の中から、銀行のキャッシュカード、通帳、クレジットカード、金融機関からの郵便物(取引報告書、満期案内など)を探してみましょう。
- 遺品整理の過程で: 古い通帳や証書が見つかることもあります。銀行名や支店名が分かれば、問い合わせの糸口になります。
- インターネットバンキング・アプリ: 最近では通帳レスのインターネットバンキングのみを利用している方も増えています。被相続人のスマートフォンやパソコンに、銀行のアプリや取引サイトのブックマークがないか確認してみましょう。
- 金融機関への照会:
- 残高証明書の発行依頼: 銀行などの金融機関に、被相続人名義の口座の有無や相続開始日時点での残高証明書の発行を依頼します。
- 取引履歴の開示請求: 過去の入出金記録(取引履歴)も取得することをお勧めします。これにより、生前の不自然な資金移動(使い込みの疑い)や、他の相続人への生前贈与(特別受益)の有無、他の口座への送金記録などが見つかることがあります。ただし、金融機関によっては開示期間に制限があったり、手数料が高額になる場合もありますので事前に確認しましょう。
- 名寄せ: 特定の金融機関に複数の口座(普通預金、定期預金、外貨預金など)を保有している可能性がある場合、「名寄せ」を依頼することで、その金融機関内の全口座を調査できます。
不動産の調べ方
- 権利証(登記識別情報通知)や固定資産税の納税通知書: これらが最も直接的な手がかりです。毎年春頃に市区町村から送られてくる固定資産税の納税通知書には、課税対象となっている不動産が記載されています。
- 法務局での調査:
- 登記事項証明書(登記簿謄本)の取得: 不動産の所在地(地番・家屋番号)が分かれば、管轄の法務局またはオンラインで登記事項証明書を取得することで、所有者や権利関係(抵当権の有無など)を確認できます。地番と住所(住居表示)は異なる場合があるので注意が必要です。
- 地番照会: 住所しか分からない場合は、法務局の窓口や電話で地番を照会できる場合があります(対応は法務局によって異なります)。
- 市区町村役場での調査:
- 名寄帳(なよせちょう)の取得: 被相続人が不動産を所有していた可能性のある市区町村役場の税務課などで、名寄帳(固定資産課税台帳の写し)の交付を請求します。これにより、その市区町村内に被相続人が所有する不動産の一覧を確認できます。ただし、名寄帳は市区町村ごとに作成されるため、複数の市区町村に不動産を所有している可能性がある場合は、それぞれの役場で取得する必要があります。
- 固定資産評価証明書の取得: 相続税申告や遺産分割協議の際に不動産の評価額が必要となるため、あわせて取得しておくと良いでしょう。
- 注意点: 私道や山林の一部など、固定資産税が非課税または非常に低額で、納税通知書に記載されない不動産も存在するため、注意が必要です。
生命保険の調べ方
- 保険証券や郵便物: 保険証券や保険会社から送られてくる契約内容のお知らせ、保険料の支払証明書などが手がかりになります。
- 預貯金通帳の引き落とし履歴: 保険料が口座振替で支払われていた場合、通帳の記載から保険会社名が判明することがあります。
- 勤務先: 会社を通じて団体保険に加入している場合もあります。
- 生命保険契約照会制度: 一般社団法人生命保険協会では、加盟している生命保険会社に対して、被相続人名義の生命保険契約の有無を一括で照会できる制度があります。 利用には手数料が必要で、一定の書類を提出する必要があります。詳細は生命保険協会のウェブサイトなどで確認してください。
- 保険会社への直接照会: 保険会社が判明すれば、契約者死亡の旨を伝え、保険金受取人、契約内容、請求手続きについて問い合わせます。
株式や有価証券の調べ方
- 証券会社からの郵便物: 取引報告書、残高報告書、株主総会の招集通知などが重要な手がかりです。
- 預貯金通帳の入出金履歴: 配当金の振込履歴や証券会社への送金記録がないか確認します。
- 被相続人のメールやパソコン: ネット証券を利用していた場合、取引に関するメールやログイン情報が残っている可能性があります。
- 証券保管振替機構(ほふり)への開示請求: 上場株式などは、証券保管振替機構(通称「ほふり」)で一元的に管理されています。相続人から所定の手続きで開示請求を行うと、被相続人が口座を開設していた証券会社や信託銀行などの加入者情報を照会できます。これにより、存在を把握していなかった証券口座が見つかることがあります。詳細は、証券保管振替機構のウェブサイトで確認してください。
- 未上場株式: 中小企業の株式など、証券取引所に上場していない株式は、会社に直接問い合わせるか、株主名簿を確認する必要があります。
ローンや借金などの負債(マイナスの財産)の調べ方
相続財産はプラスの財産だけではありません。借金や未払金などのマイナスの財産も相続の対象となります。
- 契約書や督促状、請求書: ご自宅の郵便物や書類の中から、借用書、金銭消費貸借契約書、ローン契約書、クレジットカードの利用明細、消費者金融からの督促状、税金や公共料金の滞納に関する通知などがないか確認します。
- 預貯金通帳の引き落とし履歴: ローン返済やキャッシングの利用履歴がないか確認します。
- 信用情報機関への情報開示請求: 被相続人名義の借入情報(クレジットカードのキャッシング、消費者金融からの借入れ、銀行ローンなど)について、以下の信用情報機関に相続人が情報開示請求をすることができます。
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC): 主にクレジット会社の情報を保有
- 株式会社日本信用情報機構(JICC): 主に消費者金融会社の情報を保有
- 全国銀行個人信用情報センター(KSC): 主に銀行や信用金庫などの金融機関の情報を保有 ただし、これらの機関で全ての借金が把握できるわけではありません。個人間の借金や、一部の保証債務などは登録されていない場合があります。
- 保証債務: 被相続人が誰かの保証人になっていなかったかも注意が必要です。保証契約書などが見つからない場合でも、関係者からの連絡で判明することもあります。
相続財産を調査するにあたって一般的に必要な書類
相続財産を調査するために金融機関や役所などに照会・請求する際には、主に以下の書類の提出を求められます。問い合わせ先によって必要書類が異なる場合があるため、事前に確認することが重要です。
- 被相続人の死亡の事実がわかる戸籍謄本(または除籍謄本)
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む): 相続人を確定するために必要です。
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 請求する相続人の身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 請求する相続人の印鑑証明書(実印の押印を求められる場合には必須)
- (作成していれば)法定相続情報一覧図の写し: 戸籍謄本等の代わりに利用できる場合があり、手続きの簡略化に繋がります。
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等は、転籍が多い場合など、収集に手間と時間がかかり、枚数も数十枚に及ぶことがあります。
相続財産調査の注意点
- 時間との勝負: 相続放棄や限定承認の申述期間(原則3ヶ月)を念頭に、迅速に調査を進める必要があります。
- 網羅性の限界: どんなに丁寧に調査しても、全ての財産を完璧に発見できるとは限りません。特にデジタル資産や隠れた負債は発見が難しい場合があります。
- 負債の調査の重要性: プラスの財産だけでなく、マイナスの財産もしっかり調査し、財産の全体像を把握することが、相続方法を決定する上で非常に重要です。
まとめ
主な相続財産の調査方法についてご紹介しました。 相続財産の調査は、その後の遺産分割協議や相続税申告、相続放棄・限定承認の判断の基礎となる非常に重要な手続きです。一つひとつ丁寧に調べていく必要があります。 基本的にこれらの調査は相続人ご自身でも行うことができます。しかし、相続財産の種類が多岐にわたる場合、遠方に財産がある場合、調査に手間や時間がかかる場合、あるいは相続人間で意見の対立が予想される場合などは、相続財産調査を含め、遺産分割協議などの相続手続全般について弁護士に相談・依頼することで、相続人の負担を大幅に軽減し、よりスムーズかつ法的に適切な手続を進めることができるでしょう。
相続についてお困りのこと、ご不明な点がございましたら、財産調査の段階からでも、お早めに当事務所までご相談ください。事案に応じて、最善の進め方についてアドバイスさせていただきます。