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取引先が破産!あなたの債権はどうなる?弁護士が解説する債権回収のポイント

取引先会社に対し給与などの債権を有しており、ここ最近支払いが滞りがちになっていた矢先、突然、裁判所から取引先会社についての破産手続開始決定通知書が届いた…。このような場合、ご自身が持つ債権の行方がどうなるのか、ご不安に思われる方もいらっしゃることでしょう。
そこで今回は、取引先会社について破産手続開始決定がなされた場合、その債権は全額回収できるのか、そのためには何をすべきか、注意点は何か、といった点について詳しく解説します。

 

法人破産の大まかな流れ

取引先が倒産した場合、その清算方法にはいくつか種類がありますが、ここでは取引先会社が破産手続を選択し、裁判所に申立てを行い、裁判所が破産手続開始決定をしたケースを前提とします。

  1. 破産手続開始決定と通知: 裁判所が破産手続開始決定をすると、選任された破産管財人から、債権者として把握されている者に対し、破産手続開始の通知書債権届出書が送付されます。
  2. 債権届出: 債権者は、指定された期間内に、自己の債権の内容や額を記載した債権届出書を破産管財人に提出します。
  3. 債権調査・確定: 破産管財人は、届け出られた債権について調査し、認否を行います。債権者集会で報告され、異議が出なければ債権が確定します。異議がある場合は、破産債権査定手続などで争われることがあります。
  4. 財産の換価・配当: 破産管財人が、破産会社の財産を管理・換価し、法律で定められた優先順位に従って各債権者に配当します。
  5. 破産手続の終結: 配当が終了すると、破産手続は終結(または廃止)し、法人は消滅します。

破産手続における破産債権者がすべきこと

債権届出書の提出

法人破産の流れで見た通り、ご自身が有する債権を破産債権として法的に認めさせ、配当を受けるためには、破産管財人から送られてくる債権届出書を、定められた届出期間内に必ず提出しなければなりません。 債権届出書には、債権の種類、発生原因、金額、利息・遅延損害金の有無、担保権の有無などを正確に記載し、その証拠となる契約書や請求書の写しなどを添付する必要があります。

これを怠ると、たとえ実際に債権が存在していても、原則として配当を受ける権利を失ってしまうことになりますので、細心の注意を払い、期間内に届け出るようにしましょう。

 

 

債権届出書が届かないときは?

債務者(破産会社)が作成した債権者一覧表に記載漏れがあったなどの理由で、債権届出書が届かないこともあります。

その場合は、まず官報(インターネット版官報でも確認可能)を確認してください。官報には、取引先会社が破産手続開始決定を受けたこと、選任された破産管財人の氏名と連絡先が公告されています。速やかに破産管財人に連絡を取り、債権者として扱われていないか確認し、必要な手続きについて指示を仰ぎましょう。

 

破産債権の種類と配当の優先順位

一口に破産債権と言っても、その性質によって法律上の取り扱いが異なり、配当を受けられる優先順位が定められています。破産手続開始決定「前」の原因に基づいて生じた請求権が対象となります。

  • 財団債権(参考): 破産債権に先立って、破産財団から随時弁済を受けられる債権です。これには、破産管財人の報酬、破産手続の費用、一定の範囲の租税債権、破産手続開始前の原因に基づいて生じた労働債権の一部(未払給与など)が含まれます。これらの支払いが優先されるため、破産債権への配当原資が少なくなる一因となります。
  • 優先的破産債権: 他の破産債権よりも優先的に配当を受けられる債権です。代表的なものとして、財団債権に該当しない租税債権や労働債権(退職金など)の一部があります。
  • 一般破産債権: 優先的破産債権にも劣後的破産債権にも該当しない、一般的な破産債権を指します。取引上の売掛金、貸付金、未収金などがこれに該当し、多くの債権がこのカテゴリーに含まれます。
  • 劣後的破産債権: 優先的破産債権、一般破産債権の全てに配当がなされた後、なお財産が残っている場合に初めて配当を受けられる、優先順位の低い債権です。具体的には、破産手続開始後の利息、遅延損害金、罰金などが該当します。
  • 約定劣後破産債権: **債権者と債務者との間の契約(約定)によって、他の特定の債権よりも配当順位が劣後することが予め定められている債権です。**この債権への配当は、他の全ての破産債権への配当が終わった後となり、実際に配当を受けられる可能性は極めて低くなります。

 

 

 

相殺権の行使

破産債権者であるあなたが、破産会社に対しても債務を負っている場合(つまり、お互いに債権債務関係がある場合)、一定の要件のもと、ご自身の債権(自働債権)と破産会社の債権(受働債権)を対当額で消滅させる「相殺」を行うことができます。これは、破産手続によらずに事実上の優先弁済を受ける効果があるため、債権者にとって重要な権利です。

  • 破産手続開始決定前の相殺: 破産手続開始決定「前」であれば、通常通り、取引先会社の代表者(または代理人弁護士がいる場合はその弁護士)に対して、相殺する旨の意思表示(内容証明郵便で行うのが確実です)をすることで相殺が可能です。
  • 破産手続開始決定後の相殺: 破産手続開始決定「後」は、破産管財人に対して相殺の意思表示を行うことになります。多くの場合、破産管財人から相殺権の行使に関する照会がありますので、期間内に適切に回答しましょう。

ただし、相殺が常に認められるわけではありません。破産法には相殺禁止事由が定められています(破産法第71条、第72条)。例えば、以下のような場合は相殺が制限または禁止されることがあります。 * 破産手続開始決定後に、破産会社に対して新たに債務を負担した場合。 * 支払停止や破産手続開始申立てがあったことを知った後に、破産会社に対して債務を負担した場合(ただし、その負担が法定の原因に基づく場合や、支払停止等の事実を知る前に生じた原因に基づく場合は除く)。 * 破産手続開始決定後に、他の破産債権者の破産債権を取得した場合。 * 支払停止等を知りながら、破産会社に対する債務を負担する目的で、破産債権を取得した場合。

 

 

別除権の行使

別除権とは、破産財団に属する特定の財産について、他の債権者に先んじて、破産手続とは別個に自己の債権の弁済を受けることができる強力な権利です。

  • 別除権の種類:
    • 契約によって発生する権利: 抵当権、質権、所有権留保、譲渡担保権など。
    • 法律上当然に発生する権利: 動産売買先取特権、商事留置権など。

自社が破産会社に対して有する債権がこれらの別除権によって担保されている場合、破産手続によらずに担保権を実行し、その目的物から優先的に債権を回収することができます。ただし、別除権を行使する際は、事前に破産管財人に通知するのが一般的です。また、担保物を換価してもなお不足する金額(不足額)については、一般破産債権として破産手続に参加し、配当を求めることができます。 別除権の有無やその適切な行使方法については、専門的な判断が必要となるため、弁護士に相談することをお勧めします。

 

債権者が注意すること

早い者勝ちとはならない

通常の債権回収では、「早い者勝ち」の側面があり、迅速な行動が奏功することがあります。

しかし、破産手続は、全ての債権者に対して公平に財産を分配することを目的としています(債権者平等の原則)。

そのため、破産手続開始決定後は、一部の債権者だけが抜け駆け的に債権を回収することは原則として許されません。特定の債権者への弁済(偏頗弁済)は、後に破産管財人によって否認される可能性があります。

全額回収は困難な場合が多い

相殺権や別除権を行使できる場合を除き、破産手続を通じて債権全額を回収することは極めて困難であるのが実情です。

取引先の資産状況にもよりますが、多くの場合、配当率は低く、一部回収できれば良い方だと理解しておく必要があります。それでも、債権届出を行うことで、少しでも回収できる可能性を追求することは重要です。

強制執行はできない

取引先会社について破産手続が開始されると、破産法第42条の規定により、債権者は破産財団に属する財産に対して新たに強制執行、仮差押え、仮処分を申し立てることはできなくなります。

また、既に開始されているこれらの手続も効力を失います(中止または失効)。

全ての財産は破産管財人の管理下に置かれ、破産手続に従って処理されることになります。

このため、取引先の信用不安を感じ、支払遅延が始まった段階で、破産手続開始前に速やかに法的措置を含めた債権回収を図ることの重要性がわかります。

弁護士に相談するメリット

取引先の破産という事態に直面した場合、債権者として適切な対応をとるためには専門的な知識が不可欠です。以下のような場合には、弁護士への相談を検討しましょう。

  • 債権届出書の作成方法が分からない、または不安がある。
  • 自社の債権が優先的破産債権や別除権に該当する可能性があるか判断したい。
  • 相殺権の行使が可能か、またその手続きについてアドバイスが欲しい。
  • 破産管財人から債権について照会や否認をされた場合の対応。
  • 債権額が大きい、または権利関係が複雑である。

弁護士に依頼することで、適切な債権届出、権利行使のアドバイス、破産管財人との交渉代行など、法的手続をスムーズに進め、債権回収の可能性を最大限に高めるためのサポートを受けることができます。

最後に

取引先の破産は、自社の経営にとっても大きな影響を及ぼしかねない深刻な事態です。しかし、法的な手続を正しく理解し、迅速かつ適切に対応することで、損失を最小限に抑えることができる可能性があります。
「自分の債権はどうなるのだろうか」「何をすればよいのか分からない」とお困りの場合は、早めに破産実務に詳しい弁護士に相談し、具体的な状況に応じたアドバイスを受けることを強くお勧めします。

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