ホストやホステスの色恋営業は結婚詐欺になるのか?

ホストクラブやキャバクラは、その性質上、いわゆる色恋営業と呼ばれるように、客との間で疑似恋愛関係を構築することが多く、客側もそういった関係を擬似的なものと知りつつも楽しむところに特徴があると言えます。
もっとも、近年、ホストクラブにおける売掛金問題や、それに伴う売春強要などが社会問題化しています。こうした被害の温床となっているのも、「色恋営業」に原因の一端があると言われることがあります。
色恋営業については、その他多くのトラブルの原因にもなりやすく、本当に交際関係にあると客に錯覚させて多額の金銭を使わせたり、結婚を前提としていると勘違いさせて事件に発展するケースも少なくありません。
こうした色恋営業について今のところ規制する法律としては、消費者契約法のデート商法の規定があるのみでしたが、2025年6月28日に施行される改正風営法では、色恋営業のうち悪質な態様を取る一部の行為が明確に禁止行為として規制されることになります。
改正風営法による規制強化が進む中、今回は、ホストやホステスからの『結婚しよう』といった色恋営業が、法的に「結婚詐欺」に該当し得るのかどうか解説します。
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結婚詐欺とは
刑法における詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させた者に対して成立する犯罪です。結婚詐欺もこの詐欺罪の一類型であり、結婚詐欺とは、結婚する意思がないにもかかわらず、相手に「結婚しよう。」などと言いながら、その素振りを見せて、相手を騙し、金銭などの財産をだまし取る行為を指します。
このように詐欺と言えば、金銭を騙し取られることですが、結婚詐欺・恋愛詐欺というものは、経済的のみならず、加えて、恋愛感情をもてあそばれたという精神的にもこたえるものです。
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典型的なホストやホステスの色恋営業トークと詐欺罪に該当するケース
当事務所にも色恋営業に関するご相談は多く寄せられていますが、多くの場合、ホスト又はホステスから、次のような言葉を言われて、長期間金銭を支払ってきた、というものです。
- 「店のNo.1に居続けるために協力して欲しい。」
- 「今月売上、残りが200万円なんだけど、達成しないと、店からペナルティが課される。」
つまり、自分の地位や役職に絡めて、金銭を要求するケースが典型的です。
これに「結婚しよう。」といった結婚の約束や将来を匂わせる言葉が加わることで、結婚詐欺に発展する可能性は高まります。「結婚しよう。」以外にも、「一緒に住もう。」「家族に紹介したい。」といった将来的な関係性を示す言葉も詐欺行為の一部となることがあります。
そして、ホストやホステスの色恋営業が結婚詐欺に該当する典型的な言葉の一例としては、次の通りです。
- 「結婚するためには、俺の夢であるNo.1で居続ける必要がある。」
- 「(結婚することを前提に交際していたとして)彼女なら俺がノルマを達成するために毎月シャンパンを入れてくれたりして協力してくれないと結婚できない。」
刑事告訴の証拠として、「結婚する。」という言葉だけでは難しい
こうした言葉をホストやホステスから言われたとして、結婚詐欺で刑事告訴(又は被害届の提出)を行おうとする場合、「結婚する。」という言葉だけで詐欺罪が成立するか、受理してもらえるか、というとなかなか難しいでしょう。つまり、詐欺罪として刑事告訴をする場合は、証拠が必要です。
結婚詐欺を含め詐欺罪では、詐欺師において、最初から騙すつもりであったことがわかる証拠が必要です。
詐欺罪で刑事事件化するためにも、犯人に刑罰を科するためにも、ここが大きなポイントとなります。ホストやホステスが最初から騙すつもりだったという内心の事実を捜査機関側(警察・検察)が立証しなければならないのですが、これはホストやホステスの内心によるところですし、「そのときは本心だったが気が変わった。将来は未定だった」「当初は本当に結婚するつもりだったが、後で心変わりした」と相手が主張した場合など、詐欺罪の「最初から騙す意図」が否定されやすく、詐欺罪が成立しにくいケースも多いです。
ホストやホステスからの色恋営業では、LINEでやり取りが残っていることも多いので、やり取りの中で、最初から騙すつもりであったことが推認できるやり取りがあれば証拠となり得ます。ただし、具体的にどういう言葉があれば推認できるのかについてですが、そこはケースバイケースで判断するしかありません。
また別の証拠として、当事務所に多く寄せられる相談者の多くは、金銭を渡したことがわかる証拠として、借用書、振込明細書、通帳履歴、LINEのやり取りにおける送金指示や報告など金銭の授受が裏付ける証拠をお持ちの方が多いです。
ただ、LINEのやり取りの中で「結婚しよう。」などの言葉があって、さらに金銭を渡したことがわかる資料(証拠)があっても、「最初から結婚する意思がなく、騙す目的であったこと」を直接的に示す証拠を見つけることは極めて困難です。
さらに、「結婚」というキーワードをとってみても、結婚を前提として交際していた証拠も被害者側で揃えなければなりません。これについては、LINEのやり取りで推認できる場合はもちろん、婚約指輪の購入レシートや結婚式場予約の契約金、両親への挨拶などが当てはまるでしょう。
推認に関しては、最初から騙すつもりだった、と同様に、ケースバイケースで検討する必要があります。
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最後に
ホストやホステスは、客に対し、疑似恋愛を体験させます。また店自体もそういう雰囲気作りにしているので、余計に没入しやすいでしょう。
これまでは色恋営業をして金銭を要求するケースが多くありましたが、2025年施行の改正風営法では、色恋営業の一部の類型が禁止行為として明確に規定されます(直接的な罰則はありませんが、そのホストやホステスが所属する店に対し行政指導や営業停止といった行政処分を受ける可能性があります。)。
しかし、法律で禁止されても、結婚をほのめかして金銭を要求する手口が完全になくなることはないと思われます。ご自身が結婚詐欺の被害に遭ったかもしれないと思ったら、お早めに警察や弁護士に相談することをお勧めします。