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振り込み詐欺救済法による口座凍結手続とその後の流れ

インターネットやSNSが普及したことで、多くの詐欺被害事案が発生しています。

当事務所にも、振り込んでしまった被害金を取り戻すための手続について、多くのご相談が寄せられています。

ただ、詐欺は、振り込んでしまった後、犯人によってすぐに振込先口座から資金移動されてしまうため、振り込んだ全額の回収は難しいと言われています。

それでも、詐欺被害者としてできることはあり、今回ご紹介する手続を迅速に行えば、全額は無理でも、少しでも被害金を回収できる可能性はあります。もちろんこれら手続をしたからといって、被害金の一部でも回収できることが保証されるわけでもありませんのでご注意ください。

 

振り込め詐欺救済法に基づく手続の大まかな流れ

振り込み詐欺救済法に基づく口座凍結から被害金分配までの大まかな流れは次の通りです。

  1. 口座凍結
  2. 公告と預貯金債権の消滅手続
  3. 分配金の支払手続

 

口座凍結手続

増加する振り込め詐欺被害に遭った人のため、振込先の金融機関口座にある残高から犯罪被害金としての支払手続を定めた法律が振り込め詐欺救済法(正式名称は犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)です。

具体的には、「金融機関は、当該金融機関の預金口座等について、捜査機関等から当該預金口座等の不正な利用に関する情報の提供があることその他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等で疑いがあると認めるときは、当該預金口座等に係る取引の停止等の措置を適切に講ずるものとする。」としています(振り込み詐欺救済法3条1項)。

そのため、詐欺被害に遭った際には、まず振り込め詐欺救済法に基づく口座凍結の手続をしましょう。

なお、「捜査機関等」と規定されていることから、警察、弁護士会、金融庁、消費生活センター、弁護士、認定司法書士も本手続をすることができ、これらから通報があった際には速やかに口座を凍結するとされています。ただ、被害者本人による手続では、金融機関側が口座凍結を実施してよいかの判断が慎重になりやすいので、警察からの通報が最も迅速といえるでしょう。

また振り込んでしまったお金は犯人によって振込先口座からすぐに移転されてしまいます。その場合であっても、資金移転先の口座を凍結させることができます。これも振り込み詐欺救済法に基づくものです。先ほどの法3条1項にありました「犯罪利用預金口座等」には、振込先となった預金口座だけでなく、資金を移動する目的で利用された預金口座等であって、当該預金口座等に係る資金が振込に係る資金と実質的に同じであると認められる口座も含まれます(法2条4項各号)。犯罪利用預金口座等が複数の金融機関であっても、金融機関は、当該他の金融機関に対して必要な情報を提供することになっていますので(法3条2項)、資金移動先の口座から被害金を回収できる可能性はあります。

 

公告と預貯金債権の消滅手続

さて、口座凍結後の手続ですが、対象となった振込先預金口座は預金保険機構のホームページ上で順次公告され、口座名義人の金融機関に対する預貯金債権の消滅手続が開始されます。公告内容としては、口座名義人、口座残高、被害者が振り込んだ時期、口座凍結措置がとられた時期などです。

口座凍結手続からここまでは約1~2か月かかるのが一般的ですので、口座凍結手続直後すぐには公告されないでしょう。公告期間は60日以上で(法5条2項)、この期間内に口座名義人が権利行使の届出をしなければ預貯金債権が消滅し、当該口座の預貯金残高が被害回復分配金として被害者に支払われる手続へ移行します(口座名義人による権利行使の届出がされると消滅手続は終了します。)。

 

 

消滅手続が期間途中で終了することも

預貯金債権の消滅手続は、口座名義人による権利行使の届出がなされると期間の途中であっても終了します。ただし、この場合であっても、口座凍結の状態は維持されますので、口座名義人は別途払戻の訴えを起こさなければ預貯金残高の払戻を受けることができません。

 

「権利行使の届出」で言いますと、被害者も金融機関に対して権利行使の届出をすることで、仮差押えによらずとも、消滅手続を終了させることができます。ただし、被害者が口座名義人に対して損害賠償請求権などの債権を有していることの証明は必要ですし、預貯金口座の残高から被害金として支払いを受けるためには、訴訟を経て、強制執行の手続をとる必要もあります。

 

分配金の支払手続

消滅手続期間が経過し、権利が失われた犯罪利用口座は、被害者に対する被害金の支払手続へと移行します。

まず支払手続の申請期間が開始されたことが預金保険機構のホームページ上で公告されます(残高が1000円未満の場合は手続の対象となりません。)。期間は30日以上と定められていますが(法11条2項)、実際は60日以上となることが多いです。

支払申請の際は、本人確認書類など必要な資料がありますので、詳細は各金融機関にお問い合わせください。期間内に申請しなければ、被害金の支払いを受けることができませんので、必ず期間内に手続しましょう。法律上は、金融機関は、被害を受けたことが疑われる者に対し被害回復分配金の支払手続の実施等について周知するため、必要な情報の提供その他の措置を適切に講ずるものとするとされています(法11条4項)。

 

 

被害回復金の支払いまでは少なくとも90日以上はかかる

被害回復金の支払いを受けるまでの一連の流れをご紹介しました。

皆さんが気になるのは、おそらく口座凍結から被害回復金の支払いを受けるまでどれくらいの期間がかかるのか、ということでしょう。

改めて整理すると、

  • 口座凍結から公告まで:30日から60日
  • 公告から消滅手続期間終了まで:60日以上
  • 消滅手続期間終了から被害回復金支払期間終了まで:30日以上(実際は60日以上)

 

犯罪利用口座について、捜査機関等から金融機関に対する口座凍結に関する通報後すぐには公告されないことは先に解説した通りです(すぐに公告される場合もあります。)。

そして、公告がなされて、残高に対する口座名義人の権利を失わせる手続に60日以上、被害者に対する被害回復金の支払手続に30日以上の申出期間がそれぞれ設けられることを考えれば、犯罪利用口座が凍結されて、(一部でも)被害回復金の支払がされるのは、少なくとも90日以上はかかることになります。

それでも、一部でも被害回復金の支払いを受けるためには、まずは口座凍結の手続をし、その後の手続を注視しなければなりません。

 

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