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相続に関する主な手続の時効

相続が開始されると、さまざまな手続をしなければなりません。

放棄をするなら家庭裁判所へ申述、相続人全員参加による遺産分割協議、遺留分侵害額を請求するならその旨の意思表示、不動産を相続したならば相続登記、その他にも相続税の申告と納付もあります。

これら手続の中には、法律によって時効や期間制限が定められているものもあり、決められた期間内に手続をしなければ、権利が消滅して主張できなくなる可能性があります。

そこで今回は、相続に関連する手続の中で、特に重要な期限が定められているものをご紹介します。これから相続に直面する方や、現在権利主張を考えている方にとって、ご自身の状況を確認する一助となれば幸いです。

主な相続手続の時効一覧

相続が発生すると、さまざまな手続をしなければならないことは冒頭でもお伝えした通りですが、その中でも特に重要な期限や時効が規定されている手続は次の通りです。

  • 相続放棄
  • 遺留分侵害額請求権
  • 相続税の申告・納付
  • 準確定申告(被相続人の所得税申告)
  • 特別寄与料の支払請求
  • 遺産分割における寄与分・特別受益の主張期限
  • 相続登記

相続放棄

相続が発生した後、まず最初に決めなければならないのは、その相続を承認する(引き継ぐ)か、放棄するか、のどちらかです。限定承認も手続として採り得ますが、相続人全員で手続をしなければなりませんので、実務上の大多数は承認か放棄のいずれかとなります。

そして、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、その相続について承認(限定承認も含む。)又は放棄をしなければなりません(民法915条本文)。

何も手続をしなければ単純承認とみなされますので、放棄するのであれば3か月以内に手続するようにしましょう。なお、承認するか放棄するか判断できるだけの相続財産の調査が終えられないときは、家庭裁判所に期間伸長を申し出ることができます。

 

 

遺留分侵害額請求権

法律は、兄弟姉妹以外の法定相続人に、最低限保障される相続分として「遺留分」を認めています。

遺言などによってこの遺留分が侵害された場合、侵害した相手方に対して、侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます。

遺留分侵害額請求権は、原則として、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しなければ時効によって消滅します(民法1048条)。相続開始から10年経過したときも時効によって消滅します。

【ポイント】 遺留分の時効は1年間と非常に短く、ご相談を受ける中で時効期間を経過してしまって請求が出来ない事例もよくお伺いします。1年間は放置しているとあっという間ですので、気をつけてほしい部分です。

相続税の申告・納付

遺産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告と納付が必要です。

この期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内と定められています。

期限内に申告・納付をしないと、無申告加算税延滞税が課されます。

また、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった税負担を大きく軽減する制度は、期限内の申告が適用要件となっているため、この10か月という期限は極めて重要です。

準確定申告(被相続人の所得税申告)

被相続人が事業所得や不動産所得があり、毎年確定申告をしていた場合など、亡くなった年の所得について相続人が代わって所得税の申告をする必要があります。これを準確定申告といいます。

期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。医療費控除の還付金を受け取れる場合などもあるため、忘れずに確認しましょう。

特別寄与料の支払請求

相続人ではない親族(例:長男の嫁)が、被相続人に対して無償で療養看護などを行い、財産の維持・増加に特別の貢献をした場合、相続人に対して金銭(特別寄与料)の支払を請求できる制度です。

この権利は、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月、または相続開始の時から1年の、いずれか早い期間が経過すると時効により消滅します(民法1050条2項)。相続人の「寄与分」とは時効期間が異なるため、特に注意が必要です。 (※この制度は2019年7月1日以降に開始した相続から適用されます。)

 

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♦ 特別受益と寄与分

 

遺産分割における寄与分・特別受益の主張期限

相続人の中に、被相続人から生前贈与などを受けた者(特別受益者)や、被相続人の事業への貢献・療養看護などによって財産の維持・増加に特別な貢献をした者(寄与者)がいる場合、相続人間の公平を図るために、これらを考慮して各人の相続分を調整します。

この寄与分や特別受益の主張には、時間的な制限があります。民法第904条の3により、相続開始から10年を経過した後に遺産分割を請求する場合、原則として寄与分や特別受益を考慮した計算はできなくなります。

これは、長期間が経過すると証拠の収集が困難になり、法律関係が不安定になるのを防ぐためです。

したがって、寄与分や特別受益を主張したい場合は、相続開始から10年以内に遺産分割協議をまとめるか、家庭裁判所に遺産分割の調停・審判を申し立てる必要があります。

 

相続登記

2024年4月1日、法改正がなされ、相続登記が義務化となりました。

相続によって不動産を取得した相続人は、所有権を取得したことを知った日から3年以内、又は遺産分割が成立した日から3年以内に、所有権移転登記手続をしなければなりません。正当な理由なく、登記手続をしない場合は、10万円以下の過料となります。

「正当な理由なく」登記をしない場合に過料が科されるとありますが、法務省が示している具体例として、

「①相続人が極めて多数で、戸籍謄本等の資料収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケース、②遺言の有効性や遺産の範囲について争いがあるケース、③申請義務を負う相続人自身に重病等の事情があるケースなどが想定されています。」といったものが挙げられています。

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♦ 2024年4月から相続登記が義務化されます。

 

最後に

相続が開始されると、さまざまな手続が動き出します。

今回ご紹介した相続放棄、遺留分、相続税申告、相続登記などに加え、労災保険の遺族補償給付や生命保険金の請求など、他の手続にも期間制限が存在します。ご自身の権利を適切に守るためには、これらの期限を意識することが不可欠です。相続に関してお悩みの方は、期間制限に注意し、お早めに専門家にご相談ください。

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