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悪質ホストクラブにおける売掛金問題~売掛禁止条例と「掛け飛び」の対処方法

近年ホストクラブに対する多額の売掛金を支払うために、風俗や売春を行う女性が増加し、社会問題となっています。

このような社会問題を受け、新宿区議は、その背景にあると思われるホストクラブに対する売掛禁止条例の検討を新宿区議会に申し入れた、というニュースがありました。

今回は、簡単にですが、売掛禁止条例といわゆる「掛け飛び」の対処方法について記したいと思います。

 

ホストクラブにおける「売掛け」とは

通常、飲食店で食事をしたら、その日に飲食代金を飲食店に支払います。

しかし、ホストクラブの場合、お客の飲食代金をその日に回収せず、後払い(いわゆる、「ツケ」)にすることがよくあります。この後払いのことを「売掛け」と言います。単に「掛け」とも呼ばれます。

また通常の飲食店であっても毎月何度も足を運ぶこともよくあると思います。ホストクラブも同様です。

ただし、ホストクラブの場合、1日で飲食代金が数十万円から数百万円に及ぶこともあるため、月に何度も来店する常連客に対しては、担当ホストの判断で、毎月の締め日までにまとめて精算してもらうこともあるのです。

 

ホストクラブ側の売掛けの扱い

お店にもよりますが、売掛けという制度は、ホストと客との間でのお金の貸し借りという考えで成り立っています。つまり、毎月の締め日までにホストがお客から売掛金を回収できなかった場合は、基本的にお店はホストの給料から天引きし、回収します。

そうすると、ホストにとっては自分の生活が苦しくなることになりますので、何としてでも売掛金の回収を行うことになります。

 

売春や風俗勤務への強要などの社会問題化

お客が何百万円という額をホストに支払えれば問題はないのですが、多くの場合、支払うことはできません。

そうすると、ホストから売掛金を支払わない女性客に対し、女性客が風俗での仕事や路上での売春行為を強要されるなどのケースもあり、近年それが社会問題となっています。

 

新宿区での売掛禁止条例の検討

冒頭でもお伝えしましたが、新宿区議が区議会に対し、売掛禁止条例の検討を申し入れました。

この条例は、お客の飲食代金を売掛けにすることを禁止するものです。まだ検討段階ですが、一律に禁止した場合の他業種への影響やホスト業のみを禁止の対象としてもホストクラブの営業の自由等との調整から、今後どのようになるか、注視していく必要があります。

 

→令和5年12月5日、ホストクラブが、令和6年1月から段階的に売掛金ができる割合の上限を設け、1月は支払い料金の30%、2月、3月も上限を厳しくし、最終的に4月までに売掛金による支払制度を廃止する方針を出しました。この他、現段階では業界内の自主ルールとして、売掛金トラブルは法人であるホストクラブが対応にあたること、親族へ取立てをしないこと、客への売掛金をホスト個人に立て替えさせる慣習をなくすこと、反社会的勢力との関係断絶などが新宿区との話し合いで決まりました。ただし、20歳未満の者の入店などについては今後も検討していくことになっています。

 

「掛け飛び」するとどうなる?

お客が売掛金をホストあるいはホストクラブに支払わないままでいることを「掛け飛び」と言います。

掛け飛びをしてしまうと、場合によっては詐欺罪に当たる可能性があります。

例えば、最初から飲食代金を支払うつもりがないにもかかわらず、それを隠して飲食の提供を受けたような場合です。

金額が数百万円と大きかったり、注文時までは「お金を持ってきている」と言っていたのに、会計時になって「お金を忘れた」などと言って一切支払わずに掛け飛びを行ったようなケースでは、刑事事件として警察が動く場合もあります。

また、詐欺罪が成立しないとしても、売掛金の支払いをしない場合は、支払督促や訴訟などの法的措置を受ける可能性もあります。

ただし、売掛金の支払義務があったとしても、ホストから詐欺や強迫を受けた、当時未成年者だった、債権が時効(原則として発生から5年間で消滅時効にかかります)により消滅しているなどの事情がある場合は支払わなくてもよいこともあり得ます。

 

「掛け飛び」されたら?

ホストからすると、掛け飛びされたくない気持ちがあると思います。

しかし、だからといって、風俗での仕事や売春行為を強要してはなりません

最近では掛け飛びされたホストが、SNSなどでお客の顔写真や氏名とともに、掛け飛びした事実を記載し、「この人を見つけたら連絡ください。」等としてお客を探している投稿もあるそうですが、上記のような行為は、プライバシー権侵害や肖像権侵害、投稿内容によっては名誉毀損にも当たりうる行為ですので、絶対にすべきではありません。

売掛金を支払わない場合は、①支払督促、②少額訴訟、③通常訴訟④強制執行などの法的手続を検討した方がよい場合もあります。

 

まとめ

「掛け飛び」をしない、させないためにも、利用するお客は身の丈に合わない売掛けを作らず、ホストクラブ側も適切な対応を行うことが必要です。

ホストクラブでの金銭トラブルは、当事者間に曖昧なところがあったり、事案が複雑なこともよくあります。法的に対応できるケースも多くありますので、お悩みの方は一度当事務所にご相談ください。

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