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詐欺被害に遭った際に被害者がする被害回復のための民事手続

詐欺被害に遭った際、振り込んでしまった多額の金額を何とか取り戻したいと思う人もいるでしょう。

しかし、振り込み詐欺救済法に基づく口座凍結から被害回復金の支払いを受けるまでそれなりの日数がかかること、民事ではなく刑事告訴をする場合には、告訴自体がハードルが高く、かつ詐欺罪の立証は難しいことなどを考慮すれば、民事で少しでも取り戻すことができないかと思うかもしれません。

そこで今回は、詐欺被害に遭った際に、回収に至るまでのプロセスやそれぞれの注意点について詳しく掘り下げていきます。

 

民事における被害回復の大まかな流れ

詐欺被害に遭った際、すぐに警察や金融機関に連絡すれば、被害回復金を得ることができるわけではありません。大まかに、次の流れで最終的に被害回復を図ります。各手続で注意しなければならないことがいくつかありますので、手続毎に解説します。

 

  1. 金融機関に対する振込先口座の口座凍結申請
  2. 振込先口座名義人の氏名住所の把握(弁護士会照会を行う)
  3. 振込先口座に対する債権仮差押命令申立て
  4. 振込先口座名義人に対する訴訟提起
  5. 差押命令申立て

 

金融機関に対する振込先口座の口座凍結申請

詐欺被害に遭った際には、まずすぐに警察に相談しましょう。

同時に、振り込み詐欺救済法3条1項では、金融機関は、捜査機関等から当該預金口座等の不正な利用に関する情報の提供があることその他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めるときは、当該預金口座等に係る取引の停止等の措置を適切に講ずるとしているので、警察から金融機関に振込先口座の凍結を申請してもらうこともお願いしましょう。ご自身でも金融機関に連絡し、事情を話して下さい。

当然ですが、警察に相談する際には、自身が詐欺被害に遭ったことを示す証拠を持参して説明してください。

振込元・振込先の口座情報がわかる振込明細などの資料はもちろん、なぜその口座に振り込んだのか経過がわかる資料としてLINE等のトーク履歴もあれば必要です。LINEのトーク履歴については、トーク画面の右上三本線をタップし、設定をタップすると、「トーク履歴を送信」があるので、テキスト形式にして提出しても良いです。

加えて、振込先口座の指示などに関するトークがあれば適宜スクリーンショットで保存しておけば、警察への相談に役立つでしょう。

なお、弁護士や消費生活センターも口座凍結の申請をすることができますが、迅速性や費用(弁護士に依頼する場合は1口座あたり数万円程度の弁護士費用がかかるのが一般的です。)の観点からコスト的にはまずは警察に申請してもらった方が良いでしょう。

口座凍結後の振り込み詐欺救済法に基づく諸手続に関しては、以下のコラムをご参照ください。

 

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♦ 振り込み詐欺救済法による口座凍結手続とその後の流れ

 

振込先口座の残高や口座名義人の氏名住所の把握

口座残高の把握方法

預金保険機構による公告

口座凍結されると、申請から1、2か月程度で預金保険機構のホームページ上で公告されます(公告されないこともあります。)。

公告されれば口座残高を知ることができ、回収可能金額を把握することができます(残高が1000円未満の場合は振り込み詐欺救済法上の支払対象になりません。)。

ただし、振り込め詐欺では他の被害者も同様に同じ口座に振込を行っているケースが多く、全額を自分で必ず取得出来るわけではありません。

 

弁護士会照会

正攻法として、弁護士による弁護士会照会によって振込先口座残高に照会を行うという方法があります。弁護士照会をする際には、弁護士は弁護士会照会のみの依頼を受けることはできませんので、もし弁護士会照会で振込先口座の残高及び口座名義人の氏名住所を知りたいのであれば、その後の裁判手続も一貫して依頼することになり、弁護士費用(着手金・報酬金)のほか、弁護士会照会手数料実費(1件1万円前後)が発生します。

当然、対象となる口座が多ければ多いほど、弁護士費用と弁護士会照会手数料の総額は高くなります。そうすると、費用対効果の面で、必ずしも被害金全額を回収できるとは限らないことを踏まえて弁護士に依頼するかを検討する必要があります。

 

 

 

仮差押え

裁判手続である仮差押によっても陳述催告の申出により口座残高を把握することが一応できます。ただし、仮差押の申立てにあたっては、送達に関係して、口座名義人の氏名及び住所が必須となりますし、たとえ氏名及び住所それぞれ不明で申し立てたとしても、裁判所から、申立人側で必要な調査を尽くすよう言われてしまいます。

 

口座名義人の氏名住所の把握

そうすると、弁護士会照会によって口座残高のみならず、口座名義人の氏名及び住所を照会することが、スムーズな手続をするためには正攻法と言えるでしょう。金融機関によって異なりますが、概ね照会から1か月程度で回答が届きます(先ほどもお伝えした通り、金融機関によっては弁護士会照会をしても回答を拒否するところもあります。)。

 

【補足】電話による照会

弁護士に依頼せずに、ご自身で口座残高や口座名義人の氏名住所を直接金融機関に問い合わせて教えてもらう方法もありますが、口座残高は別として、個人情報の観点から口座名義人の氏名住所を教えてもらえることはまずないでしょう。

 

振込先口座に対する仮差押命令申立て

詐欺被害事案においては、複数の被害者が同一口座に被害金を振り込んでしまっていることも多いです。

この時点で、既に対象の口座を凍結しているのですから、仮差押えしなくてもよいのではないかと思われるかもしれません。

しかし、他の被害者が先んじて当該口座を差し押さえた場合、その口座残高は他の被害者が独り占めする可能性があります。これを防ぐためにも、仮差押えをしておくのが望ましいです。

ただし、仮差押えをするためには、専門的であって裁判官に法的主張を認めてもらう必要があること、担保金が高額になること(最終的に返金されますが、返金されるまで数ヶ月はかかります。)、仮なので基本的には訴訟提起と本差押えをする必要があること、に注意が必要です。

 

 

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♦ 債権回収のための仮差押え

送達に苦労する

仮差押えでも述べましたが、詐欺被害における民事裁判手続では送達が重要になります。

仮差押申立書しかり、訴状しかり、弁護士会照会などによって判明した口座名義人の住所に送達したとしても、所在不明で裁判所に郵便が返ってくることもあれば、口座名義人がこれらを故意に受け取らないこともあります。

この状態では、事件として正式に裁判所に係属(取り扱われること)しません。そのため、弁護士としては裁判所から他の住居所又は勤務先への送達を検討するよう言われたり、ケースによっては現地調査をするよう求められることもありますが、最終的には公示送達付郵便送達となることが多いです。

 

送達がなされれば、事件は係属しますので、あとはそれぞれの主張立証を尽くすことになります。そもそも口座名義人の当該口座は、捜査機関等の通報により、金融機関によって「犯罪利用口座等」の疑いがあると判断されて口座凍結されているわけで、口座の売買や譲渡は犯罪収益移転防止法違反となります。

こうした背景があることから、相手方が積極的に争うことは事実上ほとんどありません。

 

差押命令申立て

訴訟で勝訴判決を得ることができたら、同判決は強制執行に必要な債務名義となります。この他、強制執行(差押)の申立てに必要な書類を揃えて、管轄の裁判所に申立てをし、金融機関から取立てをし、被害金を回収することができます。

 

最後に

詐欺被害にあった場合、民事手続により被害金を回収しようとすると、かなりの労力と時間がかかります。また、これら手続を弁護士に依頼するとなると、当然費用がかかりますし、最終的に回収できる金額が少なく、費用倒れとなる可能性が十分に高いことを考慮すると、費用対効果の面で慎重に検討しなければなりません。

弁護士に相談する際には、労力、時間、費用の観点から、実際に依頼するかどうかを判断しましょう。

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